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二
温泉でさっぱりした三人は、羅々衣と千代と別れると、真衣香達が待つテントへと戻った。ちなみに濡れた服は、焚き火で乾かした。
「まだ湿っぽいな」
「今日も暑くなるから、すぐに乾くわよ。ねっ、梨々菜さん」
「そうですね。あら?」
まだ六時前なので、誰も起きていないだろうと思っていたら、テントの前に真衣香が立っているのが見えた。
「やっと戻ってきた。二人とも……どこに。梨々菜さん?」
梨々菜の姿を見つけた真衣香は、何やら不安そうな表情で三人を見た。
「おはよう、瀬名さん。早いのね」
「おはようございます」
真衣香は、爽やかな笑顔の聖美と、梨々菜の顔を交互に見てから聖司の方を見た。
「どうした、瀬名」
「あのう。観月先輩に、お仕事のこと話したんですか?」
聖司の手を取り、少し離れた場所で尋ねた。
「うん。話さないといけない状況だったから。あと、それは今日で終わった」
「終わった?もうしなくて良いんですか?」
「そういうこと。それと今日と明日は、梨々菜も合宿に参加するから」
「そうなんですか」
聖司は真衣香の肩を叩いて、梨々菜の元へ行った。
「じゃあ二人が寝ている内に、記憶操作をしておいて」
「そうですね」
テントの上から二人の記憶操作をし、自分は聖司の親戚で最初から、この合宿に参加していることを刷り込んだ。
「おはようございます」
梨々菜は、出てきた先生と多島に挨拶をして微笑んだ。その微笑みは、たとえ記憶を操作していなくても二人に受け入れられそうな、そんな雰囲気を作り出していた。
「おはよう。鷹見のお義姉さん」
何事もなく話している三人を見た聖司は「ほら、聖美。大丈夫だろ」と言いながら振り返ったが、そこにはいなかった。辺りを見回すと、真衣香と川辺の方で話しているのが見えた。
「なんだ?」
聖美が手を合わせて、頭を下げていた。
聖司は戻ってきた聖美に、頭を下げた理由を聞いたが、「宣戦布告に応じただけ」と言われて首を傾げた。
合宿二日目は、撮影技術の向上を目的にカメラを持っての自由撮影会とした。遊びもするが、部としての活動もキチンとするのが前提なのだ。
しかし、聖司、梨々菜、聖美の三人は、残り二日となった時間を有意義なものにするために、悲しみを忘れて楽しもうと思っていた。
梨々菜の作った弁当を持って、ハイキング気分で散策しながら、気に入ったものを撮影していく。聖美と梨々菜にも備品のカメラを渡すと、嬉しそうに何を撮ろうかと探し始めた。
そんな楽しそうな姿を眺めていた聖司は、初めて自分のカメラを手にしたときの気持ちを思い出していた。それが切っ掛けとなり、聖美の一挙手一投足を見ていたら思わずシャッターを切っていた。
―――やっぱり、可愛いな。
「ああ〜、聖ちゃん。いま私を撮ったでしょ」
「あ、ああ」
「撮るときは言ってよ」
違和感たっぷりのセクシーポーズを取ってみせる。
「やめろやめろ。全然、似合わないから。もっと自然にしていた方が、絶対に可愛いから」
「そ、そう?」
聖司は、なんの躊躇いもなく『可愛い』という言葉を使っていたのに気が付かなかった。照れ笑いを浮かべている聖美を見て、やっと恥ずかしいことを言ったのに気が付く。
「梨々菜の方が美人だけどな」
つい、一言多くなったが、それが照れ隠しだと言うことは、聖美にはお見通しのようだ。
「いつか、梨々菜さんを追い越すからね」
聖美の表情は、今までなかったくらい自然な笑顔で溢れていた。そんな表情を見ていると聖司は、これからもずっと一緒にいたいと心から願った。
今回の任務を無事に終了したことで、自分は変わることが出来ただろうか。自分ではよく分からないが、少しは成長したと思いたかった。
「そうだ。梨々菜さ〜ん」
聖美が、草花を撮影していた梨々菜を呼んだ。
「聖ちゃん。三人で撮ろうよ」
「そうだな」
聖司は三脚を立ててカメラをセットした。
「観月さん、何ですか?」
「三人で撮ろうよ。梨々菜さんは、ここに立って。聖ちゃんは真ん中。両手に花だね。羨ましい〜」
「ほら聖美、レンズを見ろ。行くぞ」
梨々菜と過ごした日々を忘れないように、しっかりと写真に切り取った。