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ほどなくして到着した救急隊員に瀬名を託した。以前、東雲から受け取っていた報告書を頼りに瀬名の両親へ連絡を入れ、警察の事情聴取を終える。理人が搬送先の病院へたどり着いたのは、日付が変わる少し前のことだった。
幸い瀬名はすぐに処置を施され、今は手術室の前で待機するよう指示を受けている。
理人はソファへ腰を下ろすと、両膝の上で拳を握りしめ、祈るような思いで手術中のランプを見つめていた。
指先の震えが止まらない。小動物のようにガタガタと怯えている自分が、嫌というほど自覚できた。
もし、あいつにもしものことがあったら――。
最悪の想像が、濁流のように思考を飲み込んでいく。
「――あの……っ」
どのくらい時間が経っただろうか。ふと声をかけられ、理人は弾かれたように顔を上げた。
そこには、六十代と思しき女性が青白い顔で立っていた。一目で母親だと分かるほど、その面影は瀬名によく似ている。
「もしかして……貴方が、お電話をくださった……」
「はい。上司の鬼塚と申します。夜分に突然、申し訳ありませんでした」
「やっぱり! じゃあ、貴方が理人さんなのね? 常々、息子からお話は伺っております」
「は、はぁ……」
常々……? 一体、あいつは親に何を話しているんだ。
一瞬にして背筋が凍るのを感じながら曖昧に返事をすると、瀬名の母が縋るように訊ねてくる。
「それで……あの子は……?」
「……今は、手術中です。詳しい状況は分かりませんが、命に別状はない……と、看護師からは」
「まぁ、本当に……!? 良かった……っ」
瀬名の母はその場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。今にも泣き出しそうなほど弱々しいその姿は、見ているだけで胸が痛む。
不安でたまらなかったのだ。愛する者の容体が分からないまま待つことが、どれほど残酷か。理人には、痛いほどその気持ちが分かった。
「お母様……大丈夫ですか?」
「あぁ、ごめんなさい……私ったら。でも、事故に遭ったと聞いて、もう駄目なんじゃないかって……思ってしまって」
「……っ、大丈夫です。あいつは……強い男ですから。きっと……」
「ええ、そうよね。ありがとう……理人さん」
微笑む表情も、やはり瀬名にそっくりだった。
それからしばらく、二人で無言の時間を共有していると、ようやく手術中のランプが消えた。
ストレッチャーに乗せられた瀬名が慌ただしく運び出され、続いて執刀医が姿を現す。
「先生、うちの子は……! 命に別状はないんですよね? お願いします、どうか……!」
瀬名の母は勢いよく立ち上がると、医師の腕を掴み、必死の形相で詰め寄った。
「落ち着いてください。ご家族の方ですね? 状況を説明しますので中へ。――あぁ、《《付き添いの方》》はもう戻られて結構ですよ」
「……っ」
診察室の中へと消えていく母親の後ろ姿を見送り、理人はギュッと唇を噛んだ。
どれだけ心配していても、自分は所詮、赤の他人。
部外者が無闇に首を突っ込んでいい問題ではない。
頭では理解していても、突きつけられた「他人」という現実に、胸の奥がひどく疼いた。