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《世界各地・ニュース&SNS》
「人類、オメガへ“反撃ミッション”へ」
「キネティックインパクター計画“アストレアA”始動」
昨日のルース演説から一夜。
ニュースのトーンは、明らかに変わっていた。
「“希望の一手”か、“危険な賭け”か」
「街頭インタビュー:あなたは宇宙ミッションに賛成?反対?」
SNSでは、ハッシュタグが飛び交う。
「#アストレアA」
「#プラネタリーディフェンス」
「#宇宙パンチ」
その一方で——
「#宇宙を殴るな」
「#神への反逆」
「#黎明教団」
画面の中の世界は、
希望と不安と祈りで、
細かくひび割れながら、一つの方向に動き出していた。
《ニューヨーク・国連本部/臨時総会》
国連総会議場。
いつもの国旗の列の上に、
『EMERGENCY SPECIAL SESSION』の文字。
議長
「本日の議題は、
“オメガに対する国際的なミッション協調と、
地球防衛(プラネタリーディフェンス)枠組みの確認”です。」
スクリーンに、
IAWNとSMPAGのロゴ、
それから“ASTRAEA-A”の文字が映る。
議長
「昨日、アメリカ合衆国は
“キネティックインパクター・ミッションを実行する”と宣言しました。
これは同時に、
国連SMPAG 第一推奨案の採択でもあります。」
各国代表がざわめく中、
日本代表席が映る。
モニター越しに、鷹岡サクラが会議に接続されていた。
サクラ
「日本国首相、鷹岡サクラです。
我が国は、
オメガに対する非核の軌道偏向ミッション“アストレアA”に賛同し、
JAXA/ISASと観測網を通じて協力します。」
同時通訳が、各国語に変えていく。
サクラ
「これは、“誰かの戦争”ではありません。
ーー“地球に住む全ての人間の、共通の賭け”ーーです。
成功しても、失敗しても——
その結果は、国境を選びません。」
一部の国から、拍手が起きる。
別の国は、腕を組んだまま沈黙している。
サクラ
「だからこそ、
このミッションを“特定の国の功績”にも、
“特定の国の罪”にもしてはいけません。
“人類としての決断”として、
記録されるべきです。」
議長が頷く。
「日本の立場、確認しました。
他の加盟国にも、順次、立場表明をお願いしたい。」
議場の空気は重い。
しかしそこには、 昨日までにはなかった“方向性”の感触があった。
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンスチーム会議》
ホワイトボードには、
大きく“ASTRAEA-A サポート体制”と書かれている。
白鳥レイナ
「——はい、じゃあ始めましょう。
Day69、ここからが“日本チームの本番”です。」
背後のスクリーンに、
地球とオメガとインパクターの軌道図。
その横には、“Bisei Spaceguard Center”のロゴ。
白鳥
「美星スペースガードセンターからの追観測で、
オメガの軌道解はさらに締まりました。
JPL・CNEOS、ESAの解と付き合わせても、
誤差の傾向はほぼ一致。」
若手職員
「つまり、“どこを狙うか”の議論が
ようやく本格的にできる段階に入った、ってことですね。」
白鳥
「そう。
JPL 側の設計チームは、
インパクターの質量と形状、
衝突角度を詰めている。
私たちは、“どのポイントにぶつけたら、
最も効率的にΔvを稼げるか”を
ひたすら計算する。」
スライドに、“bプレーン”“キーホール”の文字が並ぶ。
白鳥
「ここ、“キーホール”の帯に当てると、
将来の別の衝突リスクが出てくる可能性がある。
この帯を避けつつ、
地球から見た“外し方向”に
最大限の効果を出す衝突点——
それが私たちが探す“希望の一点”です。」
若手職員が、思わず呟く。
「……希望の一点。」
「ロマンチックに聞こえるけど、
やることは地道な数値計算の山よ。」
白鳥は笑い、すぐ真顔に戻る。
「それから——
国内の説明も、忘れないこと。
オメガの情報も、アストレアAも、
これからメディアでどんどん出てくる。」
スライドが切り替わる。
『広報協力:文科省・内閣広報室と連携』
『“隕石を殴る”ではなく、“少しだけ押す”という表現を共有』
白鳥
「“地球防衛”って言葉は、
子どもたちにとっても強いインパクトを持つ。
だからこそ、
嘘を混ぜないで、
でも希望を残す言い方を、
中園さんたちと一緒に考える。」
室内の空気が、少し引き締まる。
(これは、 計算だけの問題じゃない——)
誰もが、それを感じていた。
《アメリカ・フロリダ州/ケープカナベラル近郊・組立棟》
巨大なハンガーの中。
銀色のタンクと配線の塊が、 クレーンでゆっくりと吊り上げられている。
技術者
「インパクター本体、最終組み立て工程に入ります。
姿勢制御スラスター、配線チェックOK。」
別の技術者が、端末のログを読み上げる。
「誘導航法システム、
JPL コア+JAXAモジュール、統合ソフトウェア起動。
シミュレーションモード、グリーン。」
壁に設置されたモニターに、
“ASTRAEA-A”のロゴと、カウントダウン。
<LAUNCH WINDOW OPEN:Day69>
<NOMINAL LAUNCH TARGET:Day55>
アンナ・ロウエルがヘルメットを抱え、
機体を見上げていた。
(これが、
人類がオメガに送る“メッセージ”か。)
近くの若手が、
ぽつりと話しかける。
「博士、
本当にこれで、軌道が変えられるんでしょうか。」
アンナ
「“これで確実に助かりますか”って質問には、
一生“イエス”とは言えないわ。」
若手
「じゃあ——」
「でも、“これしか間に合わない”って質問には、
やっと“イエス”って言えるようになった。」
若手が、少しだけ笑う。
アンナ
「私たちがやるのは、
“最善の一手”を宇宙に投げること。
結果がどう書かれるかは、
歴史と、
オメガと、
あとは——
運が決める。」
(だからこそ、
人間としてやれる努力は全部やる。)
アンナは、自分に言い聞かせるように
インパクターを見つめ続けた。
《東京都内・カフェ》
昼休みのカフェ。
テーブルの上にはスマホとランチプレート。
モニターには、
アストレアAのCGが流れている。
「“人類の拳”アストレアA、その仕組み」
「隕石に“直接ぶつけて”軌道をずらす新ミッション」
女子高生A
「ねぇこれ、“宇宙パンチ”ってやつでしょ?
マジでやるんだ。」
男子高校生
「すげーよな。
ゲームみたいだけど、失敗したらゲームオーバーだし。」
女子高生B
「でもさ、
“何もしないで落ちてくるの待つ”よりはマシじゃない?」
Aは、ストローを弄びながら呟く。
「……なんか、
“誰かが私たちの代わりに戦ってくれてる”って感じで、
ちょっとズルい気もする。」
男子
「じゃあお前、宇宙出てインパクター押してくんの?」
「それは無理だけどさ。」
三人は笑った。
でも、その笑いの奥には、
“自分の手ではどうにもできない未来”への悔しさが
少し混ざっていた。
《黎明教団・海外支部/小さな集会》
狭い部屋。
壁には、赤い円と白い点のマーク。
モニターには、
アストレアAのニュースが静かに流れている。
若い女性信者
「……本当に撃つんだね。」
支部のリーダー格の男が頷く。
「だからこそ、
僕たちの“祈り”が必要なんだ。
“宇宙を殴らないでほしい”って。」
別の信者が、不安そうに口を挟む。
「でも、
もしこのミッションが成功したら……
“科学の勝利”ってことになって、
私たちは“間違ってた”ってことに——」
リーダーは首を振る。
「違うよ。
たとえ軌道が少しずれても、
オメガが消えるわけじゃない。
“試練の形”が変わるだけだ。」
「大事なのは、
——“人類が何を信じて決断したか”——なんだ。」
(その言い方が、
さらに人を惹きつけてしまう——)
画面の向こう。
天城セラの配信予約が表示される。
『今夜22時:“人類の拳”と“魂の選択”』
《新聞社・社会部》
桐生誠は、
ルース演説の全訳と、
国連総会でのサクラの発言を並べていた。
(“人類の拳”と“静かな一撃”。
それから、
“人類全体の賭け”か。)
編集長
「で、お前はどう書く。」
「“希望”だけでもなく、
“恐怖”だけでもなく……
“賭けだ”ってことを
ちゃんと書きたいです。」
「曖昧だな。」
「でも、それが一番正直だと思うんです。
誰も、“絶対大丈夫です”なんて言えない状態で、
それでも“やる”って言った——
その“震え”ごと、伝えたい。」
編集長は、
しばらく黙ってから言った。
「いいだろう。
ただし、“煽る見出し”だけはつけるなよ。
“人類の拳”とか、“地球最後の賭け”とか、な。」
「……分かってます。」
キーボードに指を置きながら、
桐生は心の中で呟いた。
(人類が拳を上げた。
だったら、
地上にいる俺たちは、
何を上げるべきなんだろうな——
声か。
祈りか。
それとも、
ただ、今日の一日を生きる覚悟か。)
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.