水玉パジャマの男性があちゃ~・・・とおでこを押さえた
「もうこうなったらしばらくは寝てくれないぞお前のせいだぞ!北斗! 」
「すまない・・・・でもこっちも急用なんだ 」
「んじゃ・・・この人かい?本当に? 」
一気に男性と五つ子の視線がアリスに注目する、途端にアリスに緊張が走る
「ああ・・・・ 」
北斗がぐいっとアリスの肩を抱き寄せて言った
「俺の妻だ」
:*゚..:。:. .:*゚:.。
彼の全くの迷いのない行動と言動に、アリスの心は甘く痺れた
ついてこいと男性が家の裏に向かって歩き出す。そこに子供たちが男性の両脚にしがみつく
驚いたことに男性は、子供達を何の苦もなしに引きずって歩いている
・・・あれで歩けるなんて凄いわ・・・
アリスはその男性に感心し、それでいて愉快な親子をおかしく観察しながら彼らに着いていくと、すぐ目の前にこじんまりとした教会が闇夜に浮かび上がってきた
大きな錬鉄製の門には南京錠がかかっていたが、横の通用門は開いていた
そこを通って教会に向かう、夜露で濡れた石畳にこの土地に来て初めてヒールの踵が鳴った
「電気付けるから礼拝堂に行ってて」
男性がブレーカー室に入っていった。重厚な黒い観音式の両扉を開くとそこは素晴らしい礼拝堂だった
バチンッバチンッと順番に照明が照らされ、高いドーム型の天井にはフレスコ画だろう、雲と天使が天井一面に描かれていた
4人掛けの木製の長椅子が真ん中の通路を挟んで鍵盤のように綺麗に陳列され
そして目の前の祭壇には、巨大なイエス・キリストのステンドガラスが間接照明で七色に浮かび上がっていた
ここは彼らの遊び場でもあるのだろう、五つ子がキャーキャー走り回って、長椅子に寝っ転がったり飛び乗ったりしている
真夜中の突然の訪問者のおかげで、誰もいない夜中の礼拝堂で思いっきり暴れまわれる恩恵を充分楽しんでいる
「あなたが言っていた同級生の牧師さんって・・・彼なのね。そして五つ子ちゃんのお父さん? 」
クスクス笑ってアリスが言う
「ああ・・そうだ林和也って言うんだ。小学校の頃からずっと一緒だ、そしてアイツはこの村の深刻な少子化対策に、一人頑張って貢献してくれている 」
せめて神聖な神の前で正装させてくれ、と言う和也の支度を待つ間
アリスは祭壇の最前列にちょこんと座り、北斗は祭壇の石の床に溝が出来るほど行ったり来たりを繰り返した。北斗は和也が着替えるのに永遠の時間がかかった気がした
「よしっ!お待たせ」
和也が牧師らしく、真っ白の正装に金色の刺繍が見事な袈裟けさをつけて現れた
しかし寒かったのだろう、襟からは下に着ているパジャマが覗いている。アリスは思わず吹き出しかけた
その時北斗に手をぐいっと引かれ、祭壇の前に連れていかれた、北斗のおかげでワクワクが止まらない
二人が祭壇の前に立ち北斗が始めてくれと和也に頷きかける
「老眼が進んでるんだ、ちょっとコイツをかけさせてくれ 」
北斗は眉をひそめて、黒縁の老眼鏡をかける和也を睨んだ
そして驚いたことに観衆席の一番前に、五色のパジャマを着た五つ子がクスクス笑いながら座って見物している
実の所和也は、昔から長たらしく説教をするのが、好きな神父の鏡のような人間だ
今彼は中世の義務・・・古くからの誓い、夫と妻についての神の計画についてだらだら話し、北斗は和也を蹴りつけたくなった
後ろの五つ子も北斗と同じ気持ちなのだろう、「おえ~~~」と騒いでいる
こんな無意味な説教を聞かされるまでもなく、さっさと誓いを述べて終わりにしたい
北斗は和也を睨み低く唸った
自分の説教に酔いしれそうになった和也が、鬼気迫る北斗の形相を見て、ハッとしてすぐさま結婚式の一番肝心な部分に移った
北斗にとって大事なのはそれだけだ
「え~それでは・・・汝成宮北斗は・・・この女・・・・え~と・・・名前なんだった? 」
眼鏡をずらして和也がアリスの顔をのぞきこむ
「伊藤アリスだ」
後ろの観衆席で五つ子がクスクス笑った、アリスは振り向いて目をパチパチした。置かれている状況がまったく呑み込めない
「ハイハイ・・伊藤アリスを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで・・え~・・愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか? 」
彼にぐっと手を握られてハッとした、じっと自分を見つめている
その時アリスは北斗の自分をまっすぐ見つめた
優しく・・・ひたむきな表情に驚きを覚えた
ドキン・・・ドキン・・どうしよう・・・突然心臓が・・・
思わず頬が熱くなる
目を輝かせて祭壇に向かって彼は言った
「誓います」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!