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禁煙の風潮。騒ぐ嫌煙家。勢力を失ったJT。街を歩いても燻る煙なんか見かけなくなってしまった。今時ポケット灰皿なんぞ持ち歩いたところで場所の方がねぇ始末。仕方なく駅前の喫煙所まで歩く。
「さーせーん、火ィ貸してくりゃーせんか?」
喫煙所の先客が腰を低くして拝んでくる。癖の強い話し方が耳に引っかかりつつ、自分のついでに点けてやった。
「ありぁーす!」
砕けた感じでソイツは笑った。
ソイツを脇目に俺も吸う。頭ん中に煙が回っていく。昔はフカしで満足出来てたが、今はもう肺まで入れるどころか食い散らかしたいほど依存しちまってる。
「美味そうに吸わりゃーすねぇ」
絡んでくる。基本一人で吸うのが好きなのだが、今日は喋ってもいいかと思った。
「そうですか?」
「えぇ!とても同じモン吸ってるとは思えねぇや」
よく見ると、ソイツが咥えるタバコも同じ番号だと気づく。先月廃盤になったばかりで「ミク」と呼ばれる珍しい銘柄だから他に吸ってるヤツがいるって事に驚いた。
「自分以外でミク吸ってるヤツ初めて見るな」
「おりゃーも見かけたことがねぇですな」
不思議とコイツとは仲良くなれるって気がして、その日は軽く飲みに行ったあと連絡先を交換した。
飲んでる間、何も面白い話なんかなく、タバコやミクを始めたタイミングと好みのフレーバーを出しあったり、お互いの人生について軽く語ったりしていた。
そこからソイツとは二度と会うことは無かったが、こんな出会いや付き合いもたまには悪くないなぁと思う。
2年後、最後のミクを吸いきった次の日にソイツがミクの会社を買い取って復刻させたらしい。もう経営者になったソイツと連絡なんか取れるわけ無いと思いつつ、チャットアプリで復刻のお礼を打ちながら駅前の喫煙所に向かう。新しく買ったミクを開け、咥えた一本目に火を点けようとしてポケットを探るが、残念な事にライターを忘れた。コンビニで安いのを買うか……。
そう思って喫煙所を出ようとした時、見覚えのある顔が入ってきたから思わず声をかけた。
「さーせーん、火ィ貸してくりゃーせんか?」