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静かだった。空気が重い。
静寂が圧し掛かるみたいに、音ひとつしない。
ベッドの上で、りもこんは小さく息を吐く。
rm「………」
ここがどこなのか、最初は思い出せなかった。
いや、見たことのある光景ではある、だから、頑張ればきっと思い出せる。
でも、思い出そうと思えるほど、やる気が起きなかった。
寝ていたのだろうが、その割に脳は疲労している。
部屋の隅、パソコンの青白いスタンバイランプが点滅している。
その光が、壁に揺れる影をつくっていた。
rm「…………これ……」
喉がひりついた声だった。
頭がまだぼんやりしてる。夢の延長みたいだ。
枕元には濡れタオルとペットボトルの水。
それだけで、“誰かに世話された”ことがわかってしまう。
……嫌な予感がした。
体を起こせば、左腕の包帯がずるっと音を立てた。
rm(…………包帯?)
丁寧に巻かれてる。
しかも、何度も、何層にも。
自分じゃない。だって、包帯の巻き方なんて知らない。
rm「……っ、」
瞬間、心臓が跳ねた。意識を落とす前の記憶がじわじわと蘇る。
顔を覆う。息が荒くなる。
自分が、どんな姿で見られたか。考えたくもない。
rm「やだ……」
掠れた声が漏れる。
誰に向けてかもわからない。
「もう戻れない」っていう事実だけが、じわじわと現実に形を持って迫ってくる。
rm「やだよ……っ」
床の軋む音がした。
いやだ、人がいる、いやだ、いやだ
扉の向こう。人がいる、いやだ、気づかれた。
ドアが少しだけ開く音。
柔らかく、でもためらいがちな声。
fu「……起きた?」
俺は顔を上げない。絶対に。
見たくないんだ、今、他でもない彼の顔を。
いつも通り笑ってくれるなら、まだいい。
でも、きっと違うだろう。今の彼は。
rm「……でてって、」
fu「りもこん、」
rm「でてけって言ってんだろ!!」
叫んだ。喉が焼けた。
しまった、怒鳴ってしまった、彼に。
なにも、何も悪くないのに、きっと手当してくれた本人なのに。
感謝すべき人なのに、!!!!
それなのに体は彼をどうしようもなく拒絶している。
目の前が滲んだ。身体中が熱くなる。
熱が生み出すものが、涙か、痛みか、もうよくわからない。
fu「りもこん、きいて」
rm「ッッなんで見たの、なんで触ったの!!俺、ぉれ、隠してたのに……!」
その声は震えていた。怒りでもなく、泣きでもなく、崩壊に近い。
ふうはやは何も言わず、ただ静かに近づく。
それが、驚くほど怖かった。
rm「ぅぅやだッッ!!やだ、やだやだやだ、くるな!」
rm「みるな、見るなよぉ……!!!」
しゃがみ込む気配がしたかと思えば、顔を隠す腕に彼の温もりを感じた。
咄嗟に振り払ってしまって、驚いたような、傷付いたようなふうはやと目があった。
放課後の彼と重なって、酷く重たい罪悪感が己を叱った。
それでも、罪悪感に負けないくらいのなにか、ないまぜになった感情がぐるぐると心の中を渦巻いている。
怖くて、重たくて、冷たくて、何かから守るように、体を縮めて彼から離れた。
fu「…りも」
……ふうはやは、無理に俺に触れようとしない。
きっと傷つけた、でも、声を出す時には、優しさが滲んでいた。
fu「……隠さなくていいよ。もう」
rm「よくないっ!……よくないよ……っ」
顔を背けて、両手で頭を抱える。
その指の隙間から、息が乱れて漏れる。
fu「なんで?…なんでよくないの?」
rm「ッッ今まで、バレないようにしてきたのに……迷惑かけないようにしてきたのに……っ」
rm「全部意味なかったじゃん……!!」
静かな空気を切り裂くような声だった。
震えた吐息が混ざって、言葉がところどころ潰れる。
fu「意味、あったよ」
りもこんの腕に伸びたふうはやの手が、そっと包帯の上から触れた。
ゆっくり、傷に触れないように。
fu「お前がここにいるの、今こうして喋ってるの……全部意味あっただろ」
その声は、静かで、それでも泣きそうなくらい優しかった。
rm「……なぃ、…ないよ………!!」
顔を覆ったまま、呼吸を止める。
そこへ、控えめなノックの音が響く。
kz「………ふうはや、?」
kz「……入っていい?」
shu「おれもいる」
その瞬間、りもこんの喉が詰まる。
見られたのはふうはやだけじゃなかったのか。
もう全部、知られてる。
息が、震えながら漏れた。
rm「……もうやだ……」
声にならないほど小さい声。
でも、その小ささに反応するように、ふうはやが小さく息を呑んで、優しく肩に手を置いた。
fu「大丈夫。今日はもう、何も考えんな」
rm「……」
彼の声が、不思議とあたたかかった。
もう、抵抗できなかった。
目を閉じて、静かに涙を流した。
no view___________
静かに、ドアが開く。
控えめに足を踏み入れながら、かざねとしゅうとが入ってくる。
灯りは落とされたまま。
唯一、スタンドライトの柔らかい光がベッドの端を照らしている。
ベッドの上のりもこんは、毛布を肩まで引き上げていた。
小刻みに震えて、顔を見せない。
腕の包帯の下から、血が滲んでいるのを見て、かざねが小さく息を呑んだ。
kz「……ごめん、結構声聞こえて……気に、なって。」
shu「…心配になったから、様子見に来た、と、いうか…」
fu「……うん、ありがとな」
一瞬だけ、沈黙。
呼吸の音だけが、やけに生々しく響く。
しゅうとがベッドの端に腰を下ろそうとして、ふうはやに止められる。
fu「今は……あんま、近づかない方がいいかも」
kz「……怖がってる?」
fu「……ああ。ずっと“見ないで”って」
その言葉に、かざねの指先が少し震える。
目の前の毛布がほんの少し動いた。
りもこんの息が荒いのはわかっていた、けど、それに混じるように、微かな声が繰り返される。
rm「……やだ……やだよ……」
何に怯えてるのか、本人ですら整理できていない。
ただ、誰かの視線が自分に触れること自体が怖い。
ずっと黙ってきた。完璧に隠してきた。
己の生み出した、『毎日を謳歌する元気なりもこん』を、今日この時まで完璧にこなしてきた。
それが、崩壊した。
本来を、他でもないいんくの3人に「見られた」という事実が、今の彼を壊していく。
かざねが小声で言う。
kz「りもこん、俺たち、怒ってないから」
かざねの言葉に、りもこんはびくりと体を震わせた。
rm「……嫌われた」
kz「嫌うわけないだろ」
rm「……汚いのに……?」
沈黙。
その一言が、あまりにも鋭かった。
ふうはやは言葉を探したが、喉の奥で全部潰れていった。
しゅうとが、静かに息を吸って、ゆっくり吐く。
shu「汚いとか、そんなの……」
一瞬言葉が止まる。
彼もまた、りもこんの震えを見て、どんな言葉を選べばいいのかわからなかった。
shu「そんなの、俺たちは思ってない」
rm「わかんなぃよ…」
rm「……見ないで……お願い……」
目を開けない。
顔を見ようとする気配がするたび、びくっと肩をすくめて逃げる。
そのたびに、ふうはやの胸が締めつけられた。
fu(……なんでそんなに怯えてんだよ)
あの教室で、血に濡れた腕を抱いた時よりも、今の方がずっと“遠い”気がした。
ふうはやは立ち上がって、キッチンの方に歩く。
鍋の中でお湯がまだ温かいままだった。
タオルを濡らして、絞る。
戻ってきて、そっとりもこんの隣に座る。
fu「なぁ」
fu「冷たいと、痛むだろ」
声は小さく、空気に溶けるようだった。
タオルを手渡そうとして、やめる。
代わりに、ベッドサイドの小机に置く。
トントンと音を鳴らして、「ここにあるよ」とだけ伝えた。
りもこんには触れない。顔も見ない。
それでも、そばにいる。
その静かな優しさが、りもこんの中にゆっくりと沁みていく。
呼吸が、少しだけ落ち着く。
rm「……どうして……」
fu「ん?」
rm「……なんで、そんな……優しくすんの」
fu「……お前が怖がるの、俺らが一番見たくねぇから」
rm「……ぃやなことばっか、…言ってるのに、」
fu「例えば?」
rm「……でてけ、とか、」
fu「………確かに言われたわ」
しゅうとが小さく笑う。
かざねも俯いたまま、絞り出すように言葉を足す。
kz「……お前が俺らを避けても、嫌いにはならないよ」
rm「……やだ……やめてよ……」
涙が零れる。
でも、もう隠す気力もなかった。
見られたくない、触れられたくない。
けど、もう、放っておかれたくもなかった。
その矛盾が、彼の胸をぐちゃぐちゃにしていた。
ふうはやがぽつりと呟く。
fu「……ごめんな、気づけなくて」
りもこんはその言葉に、ほんの少しだけ、まぶたを開いた。
暗闇の中、3人の輪郭がぼんやりと見える。
誰も怒っていない。
誰も嫌っていない。
それが、逆に、泣きたくなるほど優しかった。
rm「……俺、どうしたらいいの……」
その声は、泣き声でも懺悔でもなかった。
助けを求める、最初の小さな声だった。