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【前編:喫茶ポアロでの密談と違和感】
米花駅の改札前から場所を移し、3人は『喫茶ポアロ』の奥の席に腰を下ろしていた。平次は運ばれてきたアイスコーヒーを一気に半分ほど飲み干すと、バッグから数枚の現場写真と、一枚の紙ビラを取り出してテーブルに広げた。
「……これが、オレがわざわざ大阪から持ってきた難事件の資料や」
新一と翔は、同時に身を乗り出して写真を覗き込む。写真に写っていたのは、モダンな洋館の展示室。その中央で、壮年の男性が椅子に座ったまま事切れていた。
「被害者は函館にある私立美術館の館長、鈴代(すずしろ)や。死因は窒息死。部屋は完全に内側から鍵がかかった密室やった。警察は自殺も疑っとるが、不可解なのがこれや」
平次が指さしたのは、遺体のすぐ後ろの壁。そこには、幕末の志士・土方歳三の肖像画が掛けられていたが――なぜか上下が完全に『逆さま』になっていた。
「逆さの肖像画……。ただの嫌がらせにしちゃ、わざわざ密室でやる意味がねーな」
新一が顎に手を当てて論理的な思考を巡らせる。その隣で、翔は気だるげに頬杖をつきながら、もう一枚の資料――「怪盗キッドの予告状」をじっと見つめていた。
『星詠みの羅針盤(エトワール・コンパス)を、今宵、五稜郭の夜空が開く時に頂戴する。 怪盗キッド』
「なあ、工藤。キッドの目的はその『星詠みの羅針盤』って時計仕掛けのコンパスらしいんやが……」
平次が言いかけたその時、翔がふっと冷ややかな笑みを漏らした。
「……ねえ服部くん。これ、本物のキッドの予告状じゃないよ」
「は? 何言うてんねん、ちゃんとあのキザなマークも入っとるし――」
「文字の並び、メッセージの送り方、何より『五稜郭の夜空が開く時』なんて、アイツなら絶対に書かない。だってダサいもん」
翔は呆れたように肩をすくめる。
「キッドはもっと気障で、詩的で、ゲームを楽しむ。これは……アイツを特定の場所に誘い出すための、不格好な『罠』だ。それも、かなり物騒なね」
新一が翔の言葉を受けて、鋭い目で平次を見据えた。
「なるほどな。館長殺しの犯人は、最初からキッドに罪をなすりつけるつもりだった。あるいは、キッドの首そのものを狙っている。……翔、行くんだな?」
「当然。唯一の親友が泥縄に引っかかりそうになってるんだ、放っておけるわけないでしょ」
ポケットに手を突っ込み、のんびりとした口調の中に、絶対に引かない強い意志を宿して翔は微笑んだ。その圧倒的な身のこなしと、怪盗の心理を見抜く鋭さに、平次は息を呑む。
「……工藤。お前の弟、やっぱりただの一般人やないな。背筋がゾクゾクするわ」
「はは、話せば長くなるって言ったろ? ――行くぞ、函館へ!」
【後編:函館山の決戦、怪盗CATの疾走】
激しい爆音が、函館の夜空を震わせた。国際密輸シンジケート「レーヴェ」の仕掛けた爆弾により、函館山ロープウェイのケーブルが切断され、ゴンドラが宙吊りになる。新一は乗客の救助のため、平次は山道を駆け上がる敵の足止めのために散った。そして、孤立した函館山頂の展望台。白いシルクハットを血に染め、息を切らせて立っているのは怪盗キッドだった。
「クソ……っ、本当に『歓迎会』にしちゃ、手が込んでるじゃねーか……!」
ハングライダーの片翼は、組織の放った特殊ボウガンの矢で大きく引き裂かれている。背後は険しい崖。前方は、漆黒の戦闘服に身を包んだ「レーヴェ」の工作員たちが、容赦なく銃口を向けて迫っていた。絶体絶命。キッドがカード銃を構え直したその時、耳の奥のインカムから、焦燥しきった新一の声が響いた。
『クソッ、救助で手が離せねえ……! 距離がありすぎる! 翔、頼む、あいつを救えるのはお前だけだ!』
函館山の深い森の闇、一本の巨木の枝の上に、その少年は立っていた。夜風に白のパーカーが大きくはためく。顔の上半分には、月光を弾く猫のハーフマスク。
「――了解。新一、お前の『指示』、確かに受け取った」
「『契約』執行だ。……行ってこい、翔!」
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椎名遥陽~はるひ~
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『了解、相棒(バディ)』
翔が胸元のギミックを叩くと、一瞬にして私服の気配が消え去り、スタイリッシュなモノトーンの衣装――怪盗CATへと変貌を遂げた。
「飛べ、シャドウ・ウイング!」
地面にドロップしたスケートボードから、航空機のような鋭い可変式の羽がシャキイン!と音を立てて展開する。次の瞬間、CATは重力を無視して垂直な崖の壁面を蹴り、夜空へと飛び出した。
「な、何だ、あれは!?」
迫り来る工作員たちが夜空を見上げた瞬間には、もう遅かった。ジェットエンジンのような駆動音を響かせ、怪盗CATは弾丸のごとき速度で函館山の急斜面を滑空。落下しかけていたキッドの身体の真下に滑り込み、その左手をガシッと力強く掴み取った。
「……遅いぜ、CAT」
宙吊りになりながらも、キッド(快斗)は不敵に、どこかホッとしたように笑う。
「主役は遅れて登場するもんだろ、泥棒さん。……さあ、お寝んねの時間だ」
CATは右手で閃光弾銃(フラッシュバン)を引き抜き、眼下の工作員たちに向けて引き金を引いた。
――カァッ!!!
夜の函館山が、一瞬だけ昼間のような純白の閃光に包まれる。
「うわあああ!? 目が、目がァ!」
視界を完全に奪われ、銃を乱射しながら悶絶する組織の男たち。その閃光の残光の中、CATはスケートボードのウイングを大きく翻し、キッドをしっかりと抱きかかえたまま、函館の100万ドルの夜景の中へと溶けるように滑空していった。遠く、敵の足止めをしていた平次が、夜空を駆けるその「白と黒の影」を呆然と見上げていた。
「な、なんやあのスタイリッシュな怪盗は……! キッドを小脇に抱えて空飛びよったぞ!? おい工藤、ホンマにアイツお前の弟なんか!?」
インカムから聞こえる平次の大混乱の声に、新一はロープウェイの救助を終え、額の汗を拭いながらニヤリと笑った。
「ああ、自慢の弟さ。……さて、キッドをいじめた阿呆どもに、今度は探偵の恐ろしさを教えてやる番だな!」
月光の下、傷ついたキッドを安全な場所に降ろしたCATは、ハーフマスクの奥の瞳を鋭く光らせ、新一たちのもとへ合流すべく、再びスケートボードを加速させるのだった。
コメント
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わあ、第14話、めちゃくちゃ痺れました……!前編で翔くんがキッドの予告状を「ダサい」って一刀両断するシーン、クスッとしつつ「ああ、この子は本当にキッドを理解してるんだな」って胸が熱くなりました。そして後編の怪盗CATへの変身。あのスケートボードからのウイング展開、完全に映画のワンシーンですよ……!キッドを抱えて閃光弾で華麗に退場するところ、何度も読み返しました。服部くんが「なんやあのスタイリッシュな怪盗は!」って叫ぶのも納得のカッコよさ。新一が「自慢の弟さ」って言うセリフにじんわりきました。次回が待ち遠しいです!