テラーノベル
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部屋に入ると、いつもはゲームの音や彼の笑い声で溢れている空間が
今日は驚くほど静まり返っていた。
カーテン越しに差し込む西日が、室内をオレンジ色に染めている。
ベッドに腰掛けた天馬くんの正面で、僕は壊れ物を扱うような手つきでプリンの蓋を開けた。
「はい……っ」
スプーンを差し出すと、天馬くんが堪えきれないといった風に肩を揺らして笑った。
「……ほんとに食べさせてくれんの?」
「えっ、あ……」
「冗談半分だったんだけどな」
「……っ」
一気に顔が沸騰する。
「……た、食べる?」
震える手で、恐る恐る聞き返す。
天馬くんは、ついに声を上げて吹き出した。
「はは! ……なにその顔。必死すぎ」
「だ、だって…っ」
恥ずかしくて、今すぐプリンを置いて逃げ出したかった。
でも、彼が僕を受け入れてくれたことが嬉しくて、その場を動けなかった。
「……天馬くん、弱ってるし。僕にできること、これくらいだから」
ポツリと呟くと、天馬くんの笑いが止まった。
彼は少しの間、黙って僕を見つめていたが
やがて小さく「……うん、ありがと」とこぼした。
僕は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、そっと黄色いプリンを掬った。
「はい…あーん……」
「……なんか、すげー照れるな。これ」
「ぼ、僕だって照れてるよ……っ」
お互いに顔を真っ赤にしながら、彼は観念したように口を開けた。
「……うま」
「ほ、ほんと……?」
「うん。風邪の時って何食っても砂みたいだけど、これは味がする」
そう言って少しだけ緩んだ彼の表情。
それが見られただけで、ここに来て良かったと心から思えた。
その後も、僕は甲斐甲斐しく動き回った。
ぬるくなったスポーツドリンクを冷えたものと替え
タオルの温度を確かめ、できることを探して室内を行き来する。
「水瀬、なんか手際よくね?」
「え……?」
「看病、慣れてる感じする。お母さんみたい」
「そ、そんなことないよ……っ」
ただ、昔僕が熱を出した時に母さんがしてくれたことを、必死に思い出しているだけだ。
何より、天馬くんに少しでも早く元気になってほしかった。
その一心だった。
静かな部屋。
時計の針が刻む音だけが響く。
時折交わす言葉は少なかったけれど
そこには学校の喧騒の中では決して味わえない、特別で密やかな空気が流れていた。
「……水瀬」
「なに?」
「そこまでされると、なんか……すげー甘やかされてる気分だわ」
少し掠れた、低い声。
至近距離で見つめられて、再び心臓が暴れ出す。
「だ、だって、病人なんだから。今は甘えていいんだよ」
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#シリアス