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気がついた時には病院のベットに寝ていた。
医者の説明によると、原因不明の症状で倒れ、意識不明となった。通りかかった人が人工呼吸、心臓マッサージをしてくれて一命を取り留めたとのこと。
きょうは念のため入院して、よければ明日退院と言われた。
あわててスマホを確認すると、職場からの連絡が30件になっていた。点滴が終わったところでベットを出て、会話を許可されたスペースで職場に電話をする。
「篠田です、すみません。実は、けさ駅で倒れてしまって。いま病院にいます」
「無事でよかった。たまたま篠田さんの様子を見かけた生徒さんがいて、知らせてくれたの。レッスンは代理でやったから安心して。……あ、清原(きよはら)さんにかわるね」
|清原玲奈《きよはられな》は、未央の同期だ。先週育休から復帰してきたばかり。
「もしもし未央? 大丈夫なの?」
「心配かけてごめん、いまは大丈夫。検査結果がよければ、明日退院するよ」
慌てた様子の玲奈の声。電話の裏の雑踏が、忙しさを物語る。
「ならよかった。こっちはなんとかするから安心してゆっくり休んで。そうそう──」
「なに?」
「あのコーヒーショップのイケメン店員、郡司くん。退院したらお礼言っときなよ。倒れた未央に、人工呼吸までして助けてくれたんだって」
へー、郡司くんがね。と言いかけたところで思考が停止する。
「ぐんじくん……郡……司……ええっ!?」
未央は思わず大きな声を出した。うつろな記憶しかなかったので、夢かと思っていたのだが、夢じゃなかったのかと電話口で狼狽える。
玲奈と何を話したかもよくわからないほど混乱したまま電話を切り、とぼとぼと病室に戻った。
唇に残る、優しい感触。ミントの香り。
すべて亮介自身のものだったのだと思うと、顔から火が出そうだった。
次の日、検査結果は良好だったので無事退院。手続きを済ませた。
その足でいきつけのコーヒースタンドmuseへ向かう。イケメン店員郡司亮介にお礼を言うためだ。
郡司くんが人工呼吸してくれなければ、いまごろ死んでいたかもしれない。
デパ地下で高級焼き菓子を買い、それを携えてmuseへやってきた。
ドキドキしながら店内をのぞく。あれ? きょうはお休みかな。彼の姿はない。
居合わせた店員に聞くと、亮介はもう退勤したとのこと。残念に思いながら未央は店を後にする。
またあした来よう。そうしきり直して駅へ向かうと、見覚えのある後ろ姿が前の方を歩いている。