「郡司くん!!」
走っていって、後ろから声をかけた。パッと振り返ったその人は、紛れもなく亮介だった。
「未央さん! 大丈夫でしたか? もう体調はいいんですか?」
心配そうな顔で亮介は未央の顔をのぞき込んだ。イケメンすぎて直視できない未央は、少しうつむいて話しだす、
「きのうはありがとうございました。命を助けていただいて……。あのこれ、少しですけどお礼です」
未央は頭を下げながら、高級焼き菓子の紙袋を差し出した。
亮介は差し出された未央の手をとって、甲にそっとキスをする。
え? なんで? 突然すぎて思考が止まる。
「僕、未央さんのこと大事にしたいと思ってます」
大事にしたいって……? どういうこと?
未央はしどろもどろにしか言葉が出てこない。
えっと……あの……と、もごもごしていると、亮介がふっと笑顔を向ける。
「おだいじに。お菓子ごちそうさまです」
紙袋を受け取ると、ニコニコ手を振りながら改札を通って、あっという間に見えなくなってしまった。
いまの何? 王子さまがいたらこんな感じ?
未央はしばらくその場にいて、手の甲ををじっと見ていた。
王子様に手にキスされたなんて、きのうの私に言ったら鼻血出すんだろうな、きっと。
未央はじんじんと熱をもったような右手を摩りつつ、自宅へ戻った。
もうすっかり日が暮れて夜風が涼しい。
「ただいま、サクラごめん──」
玄関を開けるとネコのサクラがバッと飛びついてきた。暑いだろうからエアコンをかけっぱなしにして出たのが幸いだった。
サクラははやくご飯をくれと、餌の入っている箱をガリガリとひっかいている。
「丸一日、ご飯食べられなかったもんね、ごめんね」
皿にいつもより多く餌を出すと、待ってましたとばかりにサクラはがっついて餌を食べ始めた。
サクラがガツガツ食べるのを見ながら、未央は縁側の窓を開けた。
年季の入った窓は、立て付けが悪く、ガタガタと異音を放つ。
やっと全ての窓を開けると、縁側にドサッと足を投げ出して座り込んだ。
都会の数少ない星を見上げて、ため息をつきながら、亮介にされたことを思い出す。
『ぼく、未央さんのこと大事にしたいと思ってます』
人工呼吸もさることながら、あの手の甲にしたキスは一体なんだったんだろう。
もんもんと考えているが、なにもわからない。
イケメンのやることを凡人が理解しようとするから難しいのだと、むりやり解釈をして、眠りについた。