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セレスティア魔法学園は、初夏の陽射しに輝いていた。
広大なグラウンドには、色とりどりの旗や魔法の飾りが揺れ、生徒たちの笑顔が響き合っていた。
年に一度の「セレスティア体育祭」が目前に迫っていた。
各寮が魔法を競うこの行事は、保護者も観覧できる特別な日。
生徒たちは家族に見せる晴れ舞台に胸を膨らませていた。
レクトはグラウンドの端で、準備中のテントを見つめていた。
キリサキ町でのヴェルとの時間(第9話)、
フルーツバスケットでの仲間との絆(第10話)、
フロウナ先生の支え(第11話)——
これらの経験が、彼に少しずつ自信を与えていた。
だが、体育祭の「保護者観覧」という言葉は、彼の心に深い願いと不安を呼び起こした。
レクトの家族——母のエリザ、父のパイオニア、姉のルナ——は、
彼のフルーツ魔法を「一族の恥だ」と否定し、家から追い出した。
エリザは、第7話の戦いでレクトの魔法の可能性を見出し、認めたいという気持ちに揺れ始めていた。
だが、パイオニアの強い圧力に逆らえず、
ルナもまた家族の空気に流されていた。
レクトの胸には、家族にフルーツ魔法を認めさせ、強くなった自分を見せたいという強い願いがあった。
「体育祭で、母さんに俺の魔法を見せたい。強くなった俺を、ちゃんと認めてほしい。」
レクトは呟き、ポケットから携帯を取り出した。
母に電話をかける決意を固めたのだ。
隣でヴェルが、優しい笑顔で彼を見守った。
「レクト、きっと大丈夫。お母さん、絶対分かってくれるよ。」
彼女の声は、穏やかで温かかった。
電話の呼び出し音が、
レクトの心臓の鼓動と重なる。
やがて、母・エリザの声が聞こえた。抑えた、どこか急かされたような声だった。
「レクト、何……?」
「母さん、セレスティア魔法学園で、来週体育祭があるんだ。」
レクトは緊張で声が震えたが、強い意志を込めた。
「保護者も来れるイベントで、俺のフルーツ魔法、ちゃんと見せたい……
母さんに、強くなった俺を見てほしい。来てくれると、嬉しい!」
電話の向こうで、短い沈黙が流れた。
エリザの声は、ためらいと焦りが混じっていた。
「体育祭……、、レクト、私は……。」
彼女の言葉は途切れ、背景でかすかな足音が聞こえた。
パイオニアが近くにいるのかもしれない。
「今、忙しい。ごめんね……」
急いでそう言うと、電話が切れた。
レクトは携帯を握りしめ、
胸に鋭い痛みを感じた。
「母さん……」
エリザの声には、
戦いのときに感じた温かさが確かにあった。
それなのに、会話がままならない状況に、レクトは唇を噛んだ。
(でも、絶対来てくれるって信じる。母さんに、俺の魔法、ちゃんと認めさせたい……!)
彼は自分を励まし、体育祭の準備に目を向けた。
レクトの心には、家族への願いと不安が渦巻いていた。
彼は、体育祭への強い動機を胸に、
信頼する仲間たちに相談することにした。
だが、ただ聞き回るのではなく、それぞれの視点から力を借りたいと思った。
フルーツ魔法を認めてもらうため、
強くなった自分を見せるため、彼には仲間たちの支えが必要だった。
グラウンドの準備テントで、
ヴェルが魔法の旗を整えていると、レクトが近づいた。
「ヴェル、俺……、やっぱり来なかったら、どうしたらいいのか不安でさ。」
ヴェルは手を止め、
レクトの目を見て優しく微笑んだ。
「レクト……。
たしかに体育祭でも上手くいかなかったら、次の機会がいつあるのか心配にはなるよね……、、、、。
私も、母さんとのこと、怖くてさ、
でも、レクトのフルーツ魔法、
めっちゃすごいからね……!
あの戦いで、エリザさんも何か感じたはず。
体育祭で、絶対かっこいいとこ見せられるよ。
私は少なくとも、来てくれるって確信してるから!」
彼女の声は、穏やかだが力強かった。
「ヴェル、ありがとう……、、。」
レクトは笑顔で頷く。
母さんに、絶対伝えるよ、、この魔法、俺の全部だから。
次に、
レクトは
グラウンドで魔法リレーの練習をするカイザとビータに声をかけた。
二人とも、
以前はレクトのフルーツ魔法を「変だ」とからかい、ゼンの殺人事件みていることもあり、距離を置かれていた。
だが、エリザとの戦い以来、彼らの態度は変わりつつあった。
「カイザ、ビータ、ちょっと相談があるんだけど。」
レクトは少し緊張しながら切り出した。
「俺、体育祭で母さんにフルーツ魔法を見せたいんだ。
家族に、強くなった俺を認めてもらいたい。
でも、家族が魔法を認めなくて、
母さんともちゃんと話せなくて……、
こんなモヤモヤした状態で、、
どんな気持ちで過ごしたらいいと思う?」
カイザとビータは手を止めて、口を開いた。
まずはカイザ、
「お前、気にしすぎだろ……、
そんなんで人を頼るとか、ちょっと弱いんじゃねーの?
絶対来てくれるって信じることしかできないんだから、そういう心つもりでいればいいんじゃねぇの?」
彼の声には、
からかいの名残と、
初めての真剣な応援が混じっていた。
ビータも頷いて、口を開いた。
「カイザの言う通りだレクト。
お前は人に頼りすぎだ。
今のお前の魔法、可能性で溢れてると思う。
家族に認められるのは時間かかるかもしれないけど、
体育祭に来なかったら来なかったでまたチャンスはある。
体育祭だけが全てじゃないぞ。」
「カイザ、ビータ……ありがとな。」
レクトの胸に、熱いものがこみ上げた。
講義の後、
レクトはフロウナ先生を訪ねた。
彼女は果物アレルギーを抱えながらも、担任として彼を支える決意を固めていた。
「先生、俺、体育祭で母さんにフルーツ魔法を見せたいんです。
強くなった自分を、家族に認めてもらいたい。
でも、来てくれるか分からなくて……、、やっぱり怖くて震えそうになるんです!!!どうしたらいいですか……?」
やっぱり気にするレクトはまだ相談をする。
お前本当に頼りすぎである。
フロウナは、
レクトの真剣な目に自分の過去を重ねた。
「レクト、君の願いは、強い。
家族に否定される痛みは、私も知っている。
エリザさんが戦いで君の魔法に何かを感じたなら、それは希望だ。
体育祭で、君の心を、魔法を、全部見せるんだ。
来てくれても、そうでなくても、
それが彼女に伝える一番の方法だ。
君はそれに専念していればいい」
彼女の声は、優しく、確信に満ちていた。
最後に、
レクトはアルフォンス校長の部屋を訪れた。
「校長、俺、体育祭でお母さんにフルーツ魔法を認めさせたいんです。
強くなった俺を見てほしい。
でも、母さんが来てくれるか、不安で……どうしたらいいですか?」
校長は深い目でレクトを見た。
「レクト、
君のフルーツ魔法は、君の魂そのものだ。
家族に否定され、追い出された痛みは、私もフロウナも知っている。
だが、君が信じるなら、その想いは必ず届く。
体育祭で、君の全てを見せるんだ。母さんが来るかどうかは、君の心が決める。」
仲間たちの言葉は、
レクトの決意をさらに固めた。
……
「……はい、ありがとうございます……っ、」
ー体育祭当日ー
セレスティア魔法学園のグラウンドは、
生徒たちの歓声と魔法の光で溢れていた。
開会式の準備が進み、色とりどりのテントや旗が初夏の風に揺れていた。
レクトはフルーツ魔法の練習をしながら、観客席を何度も見つめた。
母・エリザだけでも来てくれれば——
その一心だった。
まさか、
父のパイオニアや姉のルナが来るとは、
想像もしていなかった。
「レクト、緊張してる?」
ヴェルがそばで優しく微笑む。
「うん、心配ありがと、ヴェル。」
レクトは笑顔で頷いた。
「母さんに、絶対見せたい。俺の魔法、俺の強さ。」
カイザとビータが近くで準備をしながら、
声をかけてきた。
「よ、レクト! お前の変な魔法、今日こそバッチリ見せてやれよ!」
カイザがニヤリと笑う。
「母さん、来るといいな。俺らも、応援してるぜ。」
ビータも、温かい言葉をかけた。
フロウナ先生は、果物の匂いを避けつつ、遠くからレクトに視線を送った。
「レクト、君ならできるよ。」
彼女の微笑みが、彼を静かに励ました。
彼はもう、
セレスティア魔法学園がひとつの居場所として染まっていた。
開会式が始まり、校長の挨拶が響く中、
レクトは観客席の入り口に目をやった。
そこに、信じられない光景があった。
エリザがいた。
だが、彼女の隣には、厳しい表情のパイオニアと、冷たく目を逸らすルナも立っていた。
そう、
家族全員が、セレスティア魔法学園の体育祭に来ていたのだ。
「母さん……! でも、父さん、ルナまで……!?」
レクトの心臓が激しく高鳴り、
驚きと恐怖が胸を締め付けた。
今は、
今はまだ、、
ー母さんにだけ来てほしかった。ー
エリザなら、
戦いのときに感じたあの温かさが、
きっと理解してくれると信じていた。
だが、パイオニアの圧迫するような視線、ルナの無関心な態度——
彼を家から追い出した家族全員がここにいる。
喜びよりも、過去の否定と拒絶の記憶が蘇り、レクトの体が凍りついた。
次話 7月12日更新!
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