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八月の終わり。空はどこまでも高くて、蝉の声が、少し寂しく響いていた。
「……来年の夏も、こうやって一緒にいられるかな」
そう呟いたのは初兎だった。
Ifは、隣でアイスを食べていた手を止めて、彼を見た。
「どうしたん。急に」
「うーん…なんか、ずっと続くって思うと、逆にこわくなるんよね」
「俺らの関係が?」
「……うん」
Ifは少し考えてから、空を見上げた。
真っ青な空に向かって咲く、見事なひまわり畑が、ふたりを包んでいた。
「初兎は、ひまわり好き?」
「……うん。まっすぐで、でっかくて。僕もああなれたらいいのになって、ずっと思ってた」
「じゃあ、知ってる? ひまわりの花言葉」
「……『あなただけを見つめる』、やろ」
Ifは頷いた。
「だから俺は、あえて今日この花を選んだんよ。初兎がどれだけ不安になっても、俺の目は、ずっと君だけ見てるって、伝えたくて」
その言葉は、風に吹かれて静かに初兎の胸に届いた。
「……ずるいな、まろちゃん。そんな言い方されたら、また好きになるやん」
「じゃあ何回でも言うわ。来年も、その次の年も、一緒にいよう。俺がそう決めたから」
ふたりは、ひまわりに囲まれて、影の中で指をつないだ。
まっすぐ咲く花たちのように、どこにも行かない約束を、ひとつ重ねた。
その夏、夕焼けの中で揺れていたのは――
花じゃなく、恋そのものだった。