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臣桜
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#工場長
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おお、846話もめっちゃ良かったわ…!温泉の掛け合いから「東京に戻ったら覚えてろよ」の流れ、尊さんの反応がまた絶妙でニヤニヤが止まらんかった。料理の描写がめちゃ細かくて、ディナーの情景がリアルに浮かんだし、最後のレーザーショーの静かなロマンチックさも刺さった。そんで尊さんの「祖父母孝行したい」って素直な本音が出た後の抱きしめ、最高だった。二人の距離感がじわじわ縮まってくのが尊すぎるわ……!
自分に言い聞かせた私は、あえて雰囲気を笑いの方向へ持っていく。
「せっかくのロケーションなんですけどねぇ……。海の波が岩に砕ける荒々しい音と共に、『あーっ!』と絶頂したら、映画っぽくないです?」
「いつの時代の映画だよ」
尊さんは横を向いてクックック……と笑いを噛み殺す。
そして現実問題、海の波はそこまで荒くない。
そのあともおふざけのネタを考えていたけれど、何だか一生懸命その場凌ぎを続けているような気がして、変に思われたらどうしよう……、と感じてしまう。
けど尊さんも分かってくれているはず、と信じたい。
「……あちち。逆上せてきました」
「そろそろ上がるか」
温泉は少し硫黄の匂いがして、お肌がすべすべになる泉質だ。
名残惜しいけれど、夕食後とか、明日の朝とかもまだ入れる。
「先に上がっていいですか?」
「どうぞ」
私はザバッと浴槽から出ると、用意してあったバスタオルで体を拭き、最後にバスタオルを体に巻き付ける。
そして海のほうを見たままの尊さんに、ボソッと囁いた。
「東京に戻ったら覚えてろよ」
「喧嘩売るなよ……」
彼がクツクツと笑うなか、私は室内に入って服を着始めた。
夜ご飯は、チェックインした時に使ったダイニングルームでいただく事になった。
先付は黒いお盆の上に、冷えたグラスの器や白い横長のお皿などに、色とりどりの料理が少しずつ並んでいる。
アボカドをお出汁でコトコト煮て冷やした物や、枝豆の冷製ポタージュ、濃厚な牡蠣のテリーヌや、冷製カッペリーニにとびっこを掛けたもの、地元の鶏を使い薄くスライスした鶏ハム、大きな帆立貝などなど。
お造りも黒い正方形の焼き物に盛られ、中トロやイクラ、海老、鯛、イカなどがすだちや食用花、飾り切りされたラディッシュなどと一緒に華やかに並べられる対角線に、お醤油を白いエスプーマ(泡)にしたソースがサッとハケで塗ったように盛られ、それをつけていただくという、実にお洒落な演出だ。
お魚料理は鯛のポワレに、細く切ってカリカリに揚げた牛蒡を針山のように積み上げ、アサリのお出汁で伸ばした白いソースを添えた物。
お肉料理は平行に並べたアスパラの間に、薔薇色の断面が綺麗な、牛肉のいちぼのローストをランダムに並べ、彩り豊かな温野菜、コンソメのジュレを添え、お皿に沿って半円を描くように、赤ワインのソースとじゃが芋のピューレを半々ずつ載せた物。
和歌山県の郷土料理に〝めはり寿司〟という物があり、塩漬けの高菜の葉でおにぎりを包んだ物がある。
コース料理ではその〝めはり寿司〟を応用したもので、高菜の葉でリゾットを包み、その上に温野菜の赤と黄色のパプリカを載せ、周りをクリームソースで包んだ物。
八月の和歌山では、無花果の生産が盛んらしく、デザートは無花果のミルフィーユと、契約農家さんの牛乳で作ったミルクジェラートだ。
最後にコーヒーと小菓子を出してもらった時、スタッフさんに言われた。
「良かったら、食後にテラスから外を見ていただけますか? 当ホテルの自慢の演出がありますので」
「はい!」
分からないながらも頷き、コーヒーと小菓子を持ってリビングでくつろぎ、しばらくしたあとだった。
周囲に迷惑が掛かるから音楽は鳴らないけれど、潮騒が聞こえるなか、様々な色のレーザービームが海に向かって放たれた。
「わぁ……!」
こういう物を使うイベントなら、壮大な音楽がBGMに流れていてもおかしくないけれど、あえて波の音をベースに……という所がいい。
レーザーに照らされて海の波が色を反射して光り、海の向こうに月が見えるのがいとをかし。
「素敵な演出ですねぇ……」
「向こうが海だからできる奴だな」
私たちは広々としたテラスのソファに座って、レーザーショーを楽しみつつ話した。
「明日から、もっと積極的に百合さんにアタックするんですよ」
「なんだよ、その学生みたいなノリ」
「ミトコ~。応援してるから頑張りなよ~」
「ほら、悪ノリする」
彼はクスクスと笑ったあと、海を見て言った。
「……まぁ、頑張ってみるよ。親孝行もろくにできなかったから、せめて祖父母孝行はしたい」
少し照れくさそうに言った彼が愛おしく、私は尊さんをギューッと抱き締めた。