「私は先生とのお付き合いが長いから、お通夜にも出るけど、永瀬さんは告別式だけでもいいから出席をして頂戴ね」
松原女史がせわしない様子で、やや早口に喋る。
「はい…」と、頷いて、「何かお手伝いすることはありますか?」と、問い返した。
「患者さんたちに、予約の取り消しの連絡をお願いできるかしら。次の予約は最優先で、クリニックを開け次第こちらからまたお電話をする旨を、取り急ぎでお伝えをしておいて」
「わかりました」
私は返事をして、予約の方の確認をするために、パソコンを立ち上げた。
葬儀の日程が決まり、私は真梨奈と告別式に出ることになった。
近野さんは、松原女史のサポート的な形で、共にお通夜から出席をするようだった。
──家で喪服の用意などをしながら、あの医師はお父様が亡くなられて、どんな思いでいるんだろうと考えていた。
女史に急な知らせを聞いた後からは、彼自身が出勤をしてくることもなく、クリニックに連絡が入ることさえ一度もなかった。
以前には、お母様のお話は少し聞いたこともあったけれど、お父様がどういう方だったのかは全く想像もつかずにいた。
(先生にとって、お父様はどんな存在だったんだろう……)
私にはそれを知る由もなかったけれど、あまりの音沙汰のなさに、肉親を亡くされた事で、あのいつもは完璧なはずの人にも、もしかしたら何かあったんじゃないかというような思いも、少なからず浮かんでいた……。
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