TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する





 遊び疲れた私達は、数軒ある海の家から適当に近場を選ぶと、四人で昼食を取る為に店内へと入った。



「私、いちご練乳かき氷ー!」


「ご飯は?」


「いらなーい」


「後で腹減ったとか言うなよ」



 ジロリと私を見たお兄ちゃんは、そう告げるとひぃくんと一緒にレジへと向かう。皆が焼きそばだのカレーだのと言っている中、私だけかき氷を頼むとお兄ちゃんは呆れたような顔をしていた。



(だって暑くて食べる気しないんだもん。皆よく食べれるよね)



 適当に空いている席に腰を下ろすと、お兄ちゃん達の後ろ姿を眺める。



(あ……。また女の人に逆ナンされてるし)



「声、掛けられすぎ」



 私は小さく溜息を吐くと、ポツリと愚痴を零した。

 男二人になった途端にこれだ。本当に二人はよくモテる。



「二人ともイケメンだからね」



 目の前に座った彩奈は小さくそう呟くと、お兄ちゃん達の後ろ姿を見つめながら目を細めた。



(何だか、さっきから彩奈の様子がおかしい気がする……)



 そう思いながらも、再びお兄ちゃん達へと視線を戻す。

 何やら、女の人達と話しているお兄ちゃん達。よく見てみると、お兄ちゃんの腕に自分の腕を絡ませて胸を押し付けている。



(随分と積極的なお姉さんだなぁ……凄い)



 唖然として眺めていると、突然ひぃくんがこちらを振り返ってヒラヒラと手を振り始めた。



(え? ……な、何?)



 そう思いながらも、小さく手を振り返してみる。すると、私達の方を見た女の人達が残念そうな顔をして去って行く。



(あ……ナンパ避け? 取り敢えず役に立てたんなら良かった)



 ホッとしたのと同時に、早くかき氷が食べたくなる。



「お兄ちゃーん! かき氷ぃー!」



 お兄ちゃんへ向けてそう催促をする。



(暑いから早くかき氷が食べたいのに……。さっさと買ってきてよ)



 そんな自己中な事を考えていた私。

 お兄ちゃんは呆れた様な顔をすると、クルリと背を向けて今度こそレジへと向かって歩き出した。



「兄使いが荒いわね」



 チラリと私を見た彩奈は、そう言うと呆れたように溜息を吐く。



「だって、暑くて」



 私は彩奈に向けてそう答えると、エヘヘッと笑ってごまかした。






◆◆◆






「んーっ! 冷たくて美味しぃー!」



 お兄ちゃんが買ってきてくれたかき氷を頬張りながら、両頬を包んで身悶える。

 火照った身体に冷えた氷が染み込むようで、予想以上にかき氷が美味しく思えた。



「良かったねー」



 私の隣で、ひぃくんが嬉しそうに微笑む。

 そんなひぃくんの目の前に置かれているのは、美味しそうな湯気を上げるカレーライス。……なんだか私も食べたくなってきた。



(やっぱりご飯も買ってきてもらえば良かったかも。……美味しそうだなぁ)



「カレー、食べる?」



 ジッと見ていた私に気付いたのか、ひぃくんはそう言うとクスリと笑った。



「えっ! いいの!?」


「だから言っただろ……」



 喜びにキラキラと瞳を輝かせる私に向けて、呆れ顔のお兄ちゃんは溜息混じりにそう告げる。



(だって……あの時は食べたいと思わなかったんだもん)



「いいよー。はい、あーん」



 ひぃくんから差し出されたスプーンにパクッと食いつくと、辛すぎないカレーが口の中いっぱいに広がる。



(あー……っ、なんて幸せなんだろう! 海で食べるカレーって、こんなに美味しかったんだぁ……頬っぺた落ちそう)



 思わず顔がニヤける。



「幸せぇ〜」


「花音可愛いー。もう一口食べる?」


「うんっ!」


「はい、あーん」



 あまりの美味しさに、お兄ちゃんと彩奈が目の前にいる事も忘れてしまう。

 私はひぃくんから差し出されたスプーンにパクリと食いつくと、美味しいカレーを頬張った。

 そんな私達の様子を静かに見ていた彩奈は、おもむろに口を開くと首を捻った。



 「響さん……。なんだか、いつにも増して花音にベッタリな気が……」



 突然の彩奈の発言に、ハッと我に返った私は口元を抑えた。



(つい素直に食べちゃった……。何やってるの、私。これじゃただのバカップルみたいじゃない)



「んー? だって、花音は俺のお嫁さんだからねー」



 彩奈を見て、ニッコリと微笑むひぃくん。



「え……? それって、付き合ってるって事?」


「そうだよー」



 彩奈からの質問に、笑顔でそう答えるひぃくん。



(えっ!? まだその設定続いてたの!?)



「ひ、ひぃくん。もうその設定はいらないよ?」



 困った様に笑いながらそう告げると、途端に悲しそうな顔をみせるひぃくん。

 それを見て、思わずギョッとする私。



(えっ……。私、何か悪い事言った?)



「花音……っ、離婚だなんて言わないでよー!」



 ウルウルと瞳を潤わせたひぃくんは、そう言うと私を抱きしめた。



(え……? 何それ)



「……お前ら、いつから付き合ってたわけ?」



 その声に視線を向けると、何だかドス黒いオーラを漂わせたお兄ちゃんが……私をジロリと見ている。



「つ、つっ、付き合ってなんかないよっ!」


「付き合ってるよーー!!」



(や、やめてひぃくん! お兄ちゃんが誤解するからぁー!)



 付き合っていないと言う私の横で、私を抱きしめながら付き合っていると宣言するひぃくん。

 本当にやめて欲しい。



(お兄ちゃんの顔がどんどん鬼になってきてることに気付いてよ……っ!)


 

 抱きつくひぃくんを退けようとするも、ひぃくんの力が強すぎて退けられない。



(鬼が……っ、鬼がぁー!!)



「え……。で、どっちなの? 付き合ってるの? 付き合ってないの?」



 少し呆れた様な顔で質問をする彩奈。



「付き合ってないよー!」


「付き合ってるよー!」


「もう、やめてよひぃくん! 嘘付かないでっ!」


「嘘じゃないよー!! 花音酷いよー!!」



 大きな声でそう言ったひぃくんは、私に抱きついたままメソメソと泣き始める。



(えー……。何か、私が悪者……なの? 何で泣くのよ……)



 そんな私達に呆れたのか、小さく溜息を吐いた彩奈が口を開いた。



「うん、わかった。じゃあ……響さん。花音とはいつから付き合ってるの?」



(……え!? 付き合ってないよ! 彩奈!)



 そう思いながら彩奈を見ると、いいからお前は黙っとけって顔をされる。



(そんなに怖い顔しなくても……)



 仕方がないので、素直に黙って見守る私。



「……体育祭の時。花音がお嫁に来てくれるって言ってた」



(え……。えっ!? あ、あの時の!?)



 私は数ヶ月前の出来事を思い返してみた。

 確か、ひぃくんが告白されたと聞いて、私がどうなったのか尋ねたやつ。気になるって事は、俺の事が好きだって事だと言われて──。

 そこまで思い出すと、一気に顔が熱くなってくる。



(いっ、いやいやいや! 私、別にひぃくんの事好きじゃないし! ……うん、断じて違う! えっ、待って……あれで付き合う事になっちゃうものなの……? それが普通なの?)



 一度も交際経験のない私には、さっぱり分からなかった。

 チラリとお兄ちゃんの方を見てみると、興味がなくなったのか平然と焼きそばを食べている。



(え……。わからない……誰か教えて)



 チラリと彩奈の方に目をやると、真っ赤になっているのであろう私の顔を見て、フッと笑うと自分の焼きそばを食べ始めてしまった。



(……え? え!? その笑いはどういう意味!?)



 一人、その場でパニックになる私。



「花音。体育祭の事、覚えてないの?」



 未だメソメソと涙を流し続けるひぃくんは、悲し気な顔をさせながら私の顔を覗き込んだ。



「覚えてる……、けど」



(あれで彼女になっちゃうものなの……?)



 ……私にはよく分からない。



「花音は俺のお嫁さんだからね? 絶対に離婚なんてしないっ!」



 ひぃくんはそれだけ告げると、私に抱きついたまま更にメソメソと涙を流し始めた。



(え……。やっぱり……私、ひぃくんの彼女なの? そうなの?)



 最近、やたらとスキンシップの激しくなったひぃくん。確か、ケーキを食べていた時は口を舐められた。

 さっきだって、「あーん」なんてされて普通に喜んで食べてしまっていた。


 私は呆然としたまま、ゆっくりとテーブルへと視線を落とした。

 左手に握られたかき氷の器が汗をかき、冷んやりとした水滴が指先を伝ってポタリとテーブルの上へ落ちる。



(そっか……私、彼女だったんだ……。あれで彼女になっちゃうなんて、知らなかったよ……)



 メソメソと泣きながら抱きついてくるひぃくんをそのままに。私はテーブルにできたいくつもの水滴を見つめながら、ただ、呆然とそんな事を考えていた。





loading

この作品はいかがでしたか?

16

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚