時刻深夜1時。
残った仕事を全て終わらせると、かなり遅い時間になっていた。他の教師陣は、どうやら帰ったらしい。声ぐらいかけろ、と心の中でカルエゴは怒りを覚える。今日もこんな時間になってしまった。明日も早い。
「帰るか…」
「あれ、カルエゴ先輩じゃないっすか」
……どうやらまだ1人残っていたらしい。同じくバビルス教師、後輩にあたるアヴァー・ルーシーである。こいつの事情は少し複雑で、未だに本人にも説明がつかないことが多い。見た目、話し方こそ男っぽく不良のようで、オマケにいつもへらへらして笑っている。しかし根は驚くほど真面目で、自己を犠牲にしてまで身を削る19歳(?)のただの女性である。専攻は魔界文学、実技、拷問学など、どのような科目でも何かと華麗にこなしてしまう。才能、というやつか。
「貴様もまだ残っていたのか」
「はい!仕事が終わんないんすよね。」
こいつは真面目だ。そしてそれが故に…
「先輩は仕事終わったんです?」
「あぁ。」
「うわずっる。俺まだ3分の1残ってるっすよ…」
「何が残っているんだ貴様」
「それはぁ…素晴らしきぃ…」
「早く言え。」
「はいすんません。まあ端的に言うなら、今度の合宿の件っす。」
俺とルーシーは1年のアブノーマルクラスの担任、副担任の関係でもある。そんなあの問題児共を合宿に連れていき、個人個人の能力を強化しろと、あのアホ理事長に言われたのだ。身勝手アホ理事長には、いつも振り回されてばかりである。
「色んなプランとかリスクとか考えてたら、本題のところが……てへ?」
「……はぁ”?」
「ちょ待って怒んないでくださいっす!こう見えて結構やってるんすよ!」
「そんなことは知っている。」
そう、知っている。こいつは真面目が故に、極度に不安症な側面がある。考えられる全てのリスクを洗いざらい出し、その対策も完璧に練り上げる。だから時間がかかるのだ。
「それで、その本題はなんだ」
「クラスのグループ分けと、訓練内容っす」
1人1人能力も、個性も、特性も全てが違い、内容を決めるのがかなり難しい。特にアブノーマルクラスは特殊な生徒が多いゆえ、決めにくい。
「今までにない感じのグループがいいんすよね」
「そうだな」
「そう考えると普段仲良い奴らは離すべきっすよね」
「だな」
「うーん……」
ルーシーは頭を悩ませる。俺はわざとこいつにこの仕事を振った。こいつは新任3年目。まだまだ学びたりない。たとえランクが”俺と同じ8”であっても、仕事とは関係ない。もしも、俺がこの役職を退く時がくれば、後を引き継ぐのはー
「…先輩。カルエゴ先輩!」
「なんだ」
「もうPCでランダムに決めていいすか?」
「お前の好きにしろ」
「なら早速〜♪」
魔王デルキラ様が居なくなった今の魔界は、表だけ見ればとても平穏だ。だが、実態を見れば元祖返りで溢れていたり、犯罪が後を絶たなかったりと散々である。そんな不安定な社会の中、俺たちバビルス教師は「我らが愛しき学仔」を命に変えても守らなければならない。しかし、いつでも教師がついている訳では無い。彼らには、力を蓄えいずれは。なんて。
「できたっすー!!!」
「どれ見てやろう」
「おなしゃす!」
「悪くない。このまま訓練内容を決めるぞ」
「え!」
「なんだ騒がしい。」
「一緒に決めてくれるんすか!?」
「…仕方なくな。」
「やりぃ!」
そうして時は過ぎ、合宿当日となった。
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