テラーノベル
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ーー最後に笑顔でそれだけを言い遺し、手鏡は本来在るべきものへと戻った。
アミは手鏡を包むように抱き締め、打ち震えている。
「ミオ、ユーリ……ごめん、少しだけ……少しだけ独りにして貰えるかな?」
そして振り返らぬまま、背後の二人へと震える声で懇願した。
「えっ? でも……」
ミオはその真意に不安になる。後を追おうとしていたのだから無理はない。
「出ようミオ」
何かを察したユーリがミオの肩を抱いた。ミオの気持ちも分かるから。
「アミはもう大丈夫よ。ただ今は……“見送らせて”あげよ?」
そっと囁かれたその意味にミオも気付いた。
「うん……そうだね」
後追いではない。これは必要な決別だと。彼女がーーアミが前へ進む為の。
全てを察した二人は、そっと部屋を後にする。そして視界が歪み、涙が零れる。二人にもユキの想いが伝わっていたからーー
“ユキ……こんなにも姉様を想ってくれて、ありがとう”
堪えきれなくなり、ミオはユーリの胸に顔を埋め、声なく泣いた。
“ユキ、大丈夫だよ。きっと何時かーー”
何時かきっと二人が巡り合えると、そうユーリは優しくミオをあやしていた。
…
***
二人が出ていった後、私は堪えていたものが一気に吹き出たかのようにーー泣いた。
「ユ……キーーうぅあぁぁぁぁ!!」
もう出ないと、出尽くしたと思っていた涙が止まる事なく溢れ続ける。
だけど、悲しみの余り泣き続けたあの時とは違った。まるで心が洗われていくように。
これはきっと前に進む為の、これからも生きて行く為のーー決別の、見送りの涙。
「ユキ……ユキぃ」
ユキの事は全て思い出せる。忘れようはずがない。
誰よりも強くーー誰よりも私を想ってくれた人。
私が誰よりも愛してーー誰よりも私を愛してくれた人。
決して見返りを求めず、ただひたすらに私の幸せだけを願って。
私はユキの為に何かをしてあげられたのだろうか。
私はユキへ何かを遺してあげられたのだろうか。
そんな彼が最期に遺したのは余りにも崇高で、純粋なまでのーー愛。
それが自分自身の意思でユキが選んだ、彼の“生きる意味そのもの”だったのだから。
“トクン”
ユキが繋いでくれた心臓の鼓動が確かに聴こえる。そうだ、私は一人じゃない。ユキの想いは確かに、ここに在るから。
ユキ……私は生きていくよ。あなたが紡いでくれた命と、想いを胸にこれからをーー。
私があなたの命を全うして、その後生まれ変わっても、何度生まれ変わっても、私は絶対にーー絶対に忘れない。
あなたとの想いを魂に刻んで、必ず思い出してみせるから。
だから……その時は、今度こそ一緒にーー
“願わくば、再びあなたと巡り合いますように”
雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~(完)
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