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本当に、怖かったんだ。
夜の暗闇の中、
急に腹を押さえつけて苦しみ始めたオメェ。
それを見るのは辛く、あまりにも心配で心配で、恐ろしくて。
死んじまうんじゃねぇかって。
本気で思った。
いやいや、馬鹿だなぁ、オレは。
こんなことで死なねぇよな、オメェの強さは知っているんだから。
その筈なのに。解っているのに。
オレはオメェが心配だったんだ。
あの時、意味不明な喧嘩をして、それで…
それで、紅茶を飲まなかったオメェを見て…
何で気づかなかったんだろう。
オメェは、1人で抱え込む。
オレたちは基本仲違いばかりしているからなぁ…。
先刻だって、オレたちは喧嘩していた。
だからって互いに 頼らないという 理由にはならない─── ならなくあってほしい、これはオレの願望だ。
あのあともう一度部屋に戻ってオメェの上半身の服を脱がせて、丁寧に口を拭いてやった。
テキパキと片付ける。
オメェをオレのベッドに姫抱きで連れて行った。
オメェのベッドは汚れてしまったし、しょうがない。
「うぉ、!」
「、ん゙〰、はふ、」
「ぁ、やべ…、ぉー流石に起きてねぇか」
体格はオレと同じはずなのに、吐いて胃に何も残っていないテメェの軽さには心底驚いた。
馬鹿じゃないオメェなら、食生活くらい安定している筈で、異様に体重が軽いなんてことはないと思う。
だからこそ、とにかく。
普段通りのオメェに戻ってくれないと、困るんだよ。
汚れた布団などを洗面所まで持って行き、
水と服を持って寝室まで戻る。
「おい、大丈夫かー?
着替え持ってきたが、着替えられそ──
───ッえ─────
聞こえるか!?ランス、ランス!!!!」
「は、ひゅ、んん゙ぅ、〰〰〰〰ひぅ…、! 」
果たして、オメェは。
寝ている、と表現しても間違いないだろう。それなのに、腹を押さえて呻いていた______
「起きろ!ランス!!」
ランス。それは、初めて呼ぶ名前。
あー、オメェ、そういう名前だったなぁ、 だなんて。
いつも聞き慣れた──けれど言い慣れていない、 その名前。
それをオレは当たり前のように呼んだ。
「ランス!!」
「ぅ、ゔぅ゛…」
「大丈夫か、ランス!!」
「 は、 んぅ…あ、れ…?、 は ひゅ、ッ」
「起きた、良かったぁ…
テメェ、凄く魘されてたぞ」
「ッ、…ぅ、だい、じょーぶ、だ… 」
ひゅー、と時折鳴る喉。過呼吸になりかけているな…そして、まだ胃痛が治まっていなかったのか…
「大丈夫な訳ねぇだろ」
「で も 、だい、じょ、
〰〰〰〰い゛ッ、ぃた゛い、
はひゅッん、カヒュ.けほっ ‼い゛、」
ギュッと腹を強く押さえるオメェの姿が、あまりにも辛そうで、苦しそうで。
いつも「死ね」だなんて平気で言える間柄なのに、どうしてだろう。
オメェのそんな姿を、死ぬほど見たくねぇよ…。
だから、せめてテメェが回復するためなら、何でもしたい、と。心から思う。
「はぁ、!ッヒュ _はひゅ、ん゙、」
「ランス、オレの呼吸に合わせろ」
「ッ、ごめ、ヒュ─,かひゅ、」
「息吐いて───、吸って───」
「ッ、いき、、できな、ぃ、!は、ヒュ、ッは!!」
多分オメェ、対処法は知っているんだろ?
今だって息を吐くことを意識したり、布団で口を押さえたりしているし。
過換気症候群、通称で過呼吸。
詳しいことは知らねぇが、悪い病気でも何でもない。
誰でもなりうるもの。
しかし、それはストレスによるものだ。
つまり。
ただ、不安なんだな、?
オメェは。
不安。
それは、胃痛のせいか?
それとも、普段から蓄積されてんのか?
頑張りすぎなんだよ、溜め込みすぎなんだよ。
もっとオレを頼ればいいのにな、ばーか…
だからその不安を少しでも和らげられるように、オレはテメェの上腹部をできるだけ優しく一定間隔で擦る。
「この速さに合わせて息をするんだ。な、できるか?」
「はひゅ、ん゙、ヒュ、はふ、ッは──、」
「そう、それだ、吸って──、そんで、吐いて──」
「は──、ヒュは─…ふ、は───_.」
「ん、出来てる出来てる、吸って…、」
「…、も、っ、だいじょ、ふ゛」
「そうだな、呼吸戻った、! …良かったぁ〜…」
本当に良かった。もうあんなオメェ、見たくねぇよ。
「偉いな、よくできました〜」
そう言ってオメェの頭や腹、背中を丁寧に撫でてやる。
「ひゃ、ッや゛、め゛ろ゛⸝⸝」
やめろ、だなんて言うわりには嫌そうじゃない。だからオレはオメェを撫で続けた。
「てか服早く着ようぜ、
ばんざーい」
「…」
あらら。拒否かよ。
自分でする、とでも言いたげな目。
青くて透き通るような、綺麗な目に吸い込まれそうだ。
まぁいいや、自分で着替えたいならそうすりゃいいわ。
そんな訳で、着替えも終えた。
「胃もまだ痛ぇんだよな?ここらへんか?」
さっきからテメェが頻りに押さえている胃の上の方。
「んッ…、げほ、ん゙ん、」
あー、吐いてから何も飲んでなかったな。
「これ、水な。 1回沸騰させてから 人肌くらいまで温度下げてるし、飲みやすいと思う 」
オレに出来る配慮はこの程度だ。
「んむ…、ん、ごく、んくっ ッげほ」
ごぽり、とまたオメェの喉が嫌な音を立てたもんだから、また戻すかと思ったわ。
ギリギリで飲み込めたみてぇだけど。
「あーこらこら、焦んなって」
そう言ってオレはオメェの背中をゆっくり擦る。
「っ、けほ、──…ふー、」
危うく戻しそうになって、また顔を歪めて瞳に涙を浮かべるオメェ。
ほんっと、これ以上心配させんなよ…。
夜は長い。時間はたっぷりあるのだから。
だからオメェは休め。
「ん、…も、飲 め な い…
まだ3口しか… 」
「飲めたんだから上出来だ、偉い偉い」
「…迷惑掛けるな、すまない…… ありがと…⸝⸝」
「…どういたしまして…で合ってるか?⸝
素直なテメェ、珍しいな」
「う、る さ.い」
うるさい、か…
言い返せるってことは、ちょっとは
体調もマシになったのか?
なら良かった…
「…何を笑っている」
「あ?安心したんだよ、オメェの容態が安定して」
「…貴様という奴は…」
「よし、水飲んで喋れるようになったし、
もう一度訊く。どこが痛い?」
「…、鳩尾のあたりと上腹部…が、少し」
「あの痛がり方で、”少し”、かよ…我慢すんな」
すまない、迷惑掛ける、と
頭を下げるオメェを見たい訳じゃない。
「んー、オレは医療知識なんてものが
全くないからなぁ…
何か目星はあるか?」
「…?と言うと?」
「そうだな、んー… どういう痛み、とか、病名これかも、とかか?」
それなら、と言いたげな顔をするオメェ。
「おそらく胃痙攣、だと思う」
頭の中で、その文字が回る。
胃痙攣。いけいれん、胃痙攣────!?
「ハァ!?オメェ重病じゃねぇか!!」
「少し黙れ…胃に響くから」
「あ、すまねぇ」
あの異様な痛がり方、激しい嘔吐。
合点がいく。
「てことは原因ストレス、か?」
余計に心配になるだろうが。
「ッ、違う」
「そっか、ストレスかぁ」
「だから違うと───むぐ」
オレはオメェの口を手で塞いで、続きを遮る。
「ランス。」
できる限り、真剣な声色で言う。
“ランス”。その名前を呼ぶだけで身構えるオメェは、イケメンで腹立つと同時に、真底愛らしいとすら思えるよ。ここだけの話だが、な。
「あのな、ランス。 迷惑なんてもっと掛けてくれ。 だからオレもオメェを頼るからな!…へへ ──でもな、だけど…心配だけはさせるな」
目を逸らすテメェもイケメンだよ、クソが。
「オメェは頑張ってる。
オレなんかとは比べ物にもならない」
きっとオメェはこんな言葉聞きたくない筈だ。
だからこそオレは続ける。
「でもオメェは、
…ランスは、頑張りすぎなんだよ。
根、詰めんなよ」
『…す ま な い、』
微かに蠢いた唇は、今、そう告げたよな?
聞き取れねぇよ、そんなん。
オレには伝わったけど。
顔を背けたテメェの顔は、いよいよ暗闇に溶けて見えなくなる。
「オレにとって、ランスという存在は大きいんだよ」
そう言って、オレはまたテメェの頭を優しく撫でる。
「存在がデカイと同時に、ランスはとても大切だ」
「…恥ずかしいことを口にするな」
「うわ、すぐそういうこと言うよな、テメェ。
だいぶ、本調子に戻ったな」
「…フン、 …おかげさまで、な
そして───────ありがとう」
「いいってことよ」
「ふあ〜」
オレは伸びをする。
「そういやぁ、明日は休日だったな
ゆっくり休暇とでもしようぜ。
オメェはもーちょい休んだ方がいいわ」
「てか、そこオレのとこだから入れてよ」
“そこ”…つまり、使えるベッドは今、1つしかない。
「…ぅ、はやく入れ、」
流石に、他人のベッドを奪う気にはなれねぇわな。
渋々承諾してくれた。
「うわ布団あったけぇのにお前冷てぇ〜
寒いんじゃねぇの?」
「先刻胃の中身全て戻したばかりの
人間に温もりを求めてどうする」
よく見たらオメェ、ふるふると震えてるな。
「ほらぁやっぱ寒いんじゃねぇか
…今日だけな…!」
後ろを向いて寝転がるテメェの後ろから抱きつく。
びく、だなんて、あからさまにビビんなよ。
「な、あったけぇだろ?」
「…嗚呼、…」
そして、抱きついたままオメェの腹を、胃を擦る。
とにかく、優しく、温めてあげられるように。
「らーんす、お疲れさま」
「…」
くるりくるり、と丁寧に擦る。撫でる。
「早く良くなるといいなぁ」
「…んぅ」
「ど?眠くなったか?」
「…べつに」
オメェらしい、素直じゃない返答。
それでこそランスだよ、良かった──。
「へへ、そーかよ」
数分が経った。
オレはまだオメェの腹や胃を擦っている。
「す──、す───」
規則正しい寝息が聞こえ始める。
あ、テメェ寝たな。
やっぱ吐いて疲れたのか。
多分オレもすぐに、まどろむ。
抱きついたまま、オメェを撫でたまま。
「おやすみ、ランス」
月明かりはオレたちを包み込む。
それで暗闇は幾分か明るくなって──
夜は朝になるのだろう。
きっとオレたちは今、同じ夢を見ている筈だ。
魔法薬を零したみたいな満点の星空。
星空は時間が経てば
次第にランス、オメェの髪色みたいな
美しい空色に染まる筈だ。
───朝が待ち遠しいな。
最後にもう一度オメェにギュッと軽く力を込めて抱きつき、 オ レ.. も 、 … 寝 …
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完
コメント
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いいねぇ
過換気症候群…きついよ( > <。) でも初めて知ってる人初めて見た!
結構性癖に来たのでいいね1100にしときました()