テラーノベル
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本当に、怖かったんだ。
あまりにも心配で心配で、恐ろしくて。
死んじまうんじゃねぇかって、
本気で思った。
いや、そんな事は馬鹿げてる。
こんなことで死なねぇよな、
テメェ____ランス・クラウンは。
テメェの強さを知っているのは、
他でもない ずっと隣にいるオレだから。
その筈なのに。解っているのに。
オレはテメェが心配だったんだ。
あの時、意味不明な喧嘩をして、それで…
それで、紅茶を飲まなかったテメェがいて…
何で気づかなかったんだろう。
テメェは、1人で抱え込む。
オレたちは基本仲違いばかりしている。
だから、仕方の無いことかもしれない。
先刻だって、オレたちは喧嘩していた。
だからって互いに 頼らないという 理由にはならない─── ならなくあってほしい、これはオレの願望だ。
あのあともう一度部屋に戻って、上半身の服を脱がせて、丁寧に口を拭いてやった。
テキパキと片付ける。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
ドット・バレットはランス·クラウンを姫抱きで自身のベッドまで連れて行く。
「うぉ、!」体格は同じはずなのに、吐いて胃に何も残っていない同室者の軽さに心底驚いて、ドットは声を上げた。
「、ん゙〰、はふ、」
「ぁ、やべ…、ぉー流石に起きてねぇか」
全てにおいて完璧な外部生トップは、食生活くらい安定している筈である。
異様に体重が軽いなんてことがあるだろうか?
だからこそ、とにかく。
「普段通りのテメェに戻ってくれねぇと、オレが 困るんだよ。」
返事はない。
暗闇に言葉は溶け消えた。
汚れた布団などを洗面所まで持って行き、
水と服を持って寝室まで戻る。
「おい、大丈夫かー?
着替え持ってきたが、着替えられそ──
───ッえ─────
聞こえるか!?ランス、ランス!!!!」
「は、ひゅ、んん゙、〰〰〰〰ひ、ぅ…、! 」
果たして、オメェは。
寝ている、と表現しても間違いないだろう。それなのに、腹を押さえて呻いていた______
「起きろ!ランス!!」
ランス。
それは、ドットが初めて呼ぶ彼の名。
あー、テメェ、そういう名前だったなぁ、 だなんて。
いつも聞き慣れた──けれど言い慣れていない、 その名前。
それをドットは当たり前のように呼んだ。
「ランス!!」
「ぅ、ゔぅ゛…」
「大丈夫か、ランス!!」
「 は、 んぅ…あ、れ…?、 は ひゅ、ッ」
「起きた、良かったぁ…
テメェ、凄く魘されてたぞ」
「ッ、…ぅ、だい、じょぶ、だ… 」
ひゅー、と時折鳴る喉。
廃墟の隙間に刺す空気さながらの音がした。
過呼吸になりかけている。
そして、まだ胃痛が治まっていなかったのだろう。
「大丈夫な訳ねぇだろ」
「で も 、だい、じょ、
〰〰〰〰っ、!!
はひゅッん、カヒュ.けほっ ‼い゛、」
ギュッと腹を強く押さえる姿が、あまりにも辛そうで、苦しそうで。
いつも「死ね」だなんて平気で言える間柄なのに、どうしてだろうか。
(テメェの辛そうなそんな姿、
死ぬほど見たくねぇよ…)
だから、せめてランスが回復するためなら、何でもしたい、と。ドットは心から思う。
「はぁ、!ッヒュ _はひゅ、ん゙、」
「ランス、オレの呼吸に合わせろ」
「ッ、悪、い、、ヒュ─,かひゅ、」
「息吐いて───、吸って───」
「ッ、いき、、できな、、!は、ヒュ、…っ!!」
彼は今でさえ息を吐くことを意識したり、布団で口を押さえたりしている。
本当は知識として頭には入れているのだろう。過呼吸の、その対処の仕方を。
過換気症候群、通称で過呼吸。
詳しいことはドットにも分からなかったが、病気でも何でもないことは確かだった。
誰でもなりうるもの。
しかし、それはきっとストレスによるものだ。
つまり。
(ただ、不安なんだな、?)
ランスは。
不安。
それは、胃痛のせいか?
それとも、_____
(頑張りすぎなんだよ、溜め込みすぎなんだよ。)
それとも、普段から蓄積されているのか?
(もっとオレを頼ればいいのにな、ばーか…)
ドットはランスの上腹部や背中をできるだけ優しく一定間隔で擦る。
その不安を少しでも和らげられるように。
「この速さに合わせて息をするんだ。な、できるか?」
「はひゅ、ん゙、ヒュ、はふ、ッは──、」
「そう、それだ、吸って──、そんで、吐いて──」
「は──、ヒュは─…ふ、は───_.」
「ん、出来てる出来てる、吸って…、」
「…、も、っ、だいじょ、ふ゛」
「そうだな、呼吸戻った、! …良かったぁ〜…」
ドットは胸を撫で下ろす。
「偉いな、よくできました」
とんだ茶番である。
ドットは頭を丁寧に撫でてやる。
「ひゃ、ッや゛、め゛ろ” 」
やめろ、だなんて言うわりには本心から嫌がっているように思えなかった。
本当は秀才がどう考えているかなんて分からなかったけれど、 ドットは撫で続けた。
行動に意味を持たせる前に。
「てか服早く着ようぜ、
ばんざーい」
「…」
無言という名の拒否。
自分でする、とでも言いたげな目。
ドットはその青くて透き通るような、綺麗な目に吸い込まれそうだった。
そんな訳で、着替えも終えた。
「胃もまだ痛ぇんだよな?ここらへんか?」
先刻からランスが頻りに押さえている胃の上の方。
「ッぁ”…、げほ、ん゙ん、」
あー、吐いてから何も飲んでなかったな。
「これ、水な。 1回沸騰させてから 人肌くらいまで温度下げてるし、飲みやすいと思う 」
オレに出来る配慮はこの程度だ、とドットは思いながら言った。
「んむ…、ん、ごく、んくっ ッげほ」
一瞬ランスは顔を顰めたが、 ギリギリで飲み込めたようだ。
「あー、…焦んなって」
そう言ってドットはランスの背中をまたゆっくり擦る。
「っ、けほ、──…ふー、」
危うく戻しそうになって、ランスは気づかないうちに顔を歪めて瞳に涙を浮かべる。
これ以上心配させんな、とドットは憂いのある目で見つめた。
夜は長い。時間はたっぷりあるのだから。
だからオメェは休め。
「ん、…も、飲 め な い…
まだ3口しか… 」
「飲めたんだから上出来だ、偉いよ」
「…迷惑掛けるな、すまない…… 礼を言う」
「…どういたしまして、で合ってるか…?
素直なテメェ、珍しいな」
「う、る さ.い」
うるさい、か…
言い返せるということは、体 調も少しは良くなったのだろうか?
(それなら、良かった…)
「…何を笑っている」
「あ?安心したんだよ、テメェの容態が安定して」
「…貴様という奴は…」
「よし、水飲んで喋れるようになったし、
もう一度訊くけど。どこが痛い?」
「…、鳩尾のあたりと上腹部…が、少し」
「あの痛がり方で、”少し”、かよ…我慢すんな」
すまない、迷惑掛ける、と
頭を下げる姿を見たい訳ではなかった。
「んー、オレは医療知識なんてものが
全くねぇからな…
何かあるか?」
「…?と言うと?」
「そうだな、んー… どういう痛み、とか、病名これかも、とかか?」
それなら、とランスは口を開く。
「おそらく胃痙攣、だと思う」
頭の中で、その文字が回る。
胃痙攣。いけいれん、胃痙攣────!?
「はァ!?テメェ重病じゃねぇか!!」
「少し黙れ…胃に響くから」
「あ、悪ぃ」
あの異様な痛がり方、激しい嘔吐。
合点がいく。
「てことは原因ストレス、か?」
余計に心配になるだろう。
「ッ、違う」
「そっか、ストレスかぁ」
「だから違うと───むぐ」
ドットはランスの口を手で塞いで、続きを遮る。
「ランス。」
できる限り、真剣な声色で言う。
“ランス”。その名前を呼ぶだけで身構える彼のことが、イケメンで腹立つと同時に、真底愛らしいとすら思える。勿論、これを知るのは思考している本人であるドットだけだ。
「あのな、ランス。 迷惑なんてもっと掛けてくれ。 だからオレもオメェを頼るからな!…へへ ──でもな、だけど…心配だけはさせんな」
目を逸らすテメェもイケメンだよ、クソが。
「テメェは頑張ってる。
オレなんかとは比べ物にもならない」
ランスはそういう類の言葉を聞きたくない筈だ。
だからこそ、ドットは続ける。
「でもオメェは、
…ランスは、頑張りすぎなんだよ。
根、詰めんなよ」
『…す ま な い、』
微かに蠢いた唇は、今、そう告げていた?
この場に、他に誰かがいたとして。
誰が聞き取れただろう?
しかし、ドットの耳にははっきり届いた。
離れていても鮮明な一等星の光のように。
顔を背けたランスの顔は、いよいよ暗闇に溶けて見えなくなる。
「オレにとって、ランスという存在は大きいんだよ」
そう言ってドットは目を伏せる。
「存在がデカイと同時に、とても大切だ」
「…恥ずかしいことを口にするな」
「うわ、すぐそういうこと言うよな、テメェ。
だいぶ、本調子に戻ったな」
「…フン、 …おかげさまで、な
そして───────ありがとう」
「いいってことよ」
「ふあ〜」
ドットは伸びをする。
「そういやぁ、明日は休日だったな
ゆっくり休暇とでもしようぜ。
テメェはもーちょい休んだ方がいいわ」
「てか、そこオレのとこだから入れてよ」
“そこ”…つまり、使えるベッドは今、1つしかない。
「…ぅ、はやく入れ、」
流石に、他人のベッドを奪う気にはなれなかったのだろう。
ランスは 渋々承諾する。
「うわ布団あったけぇのにお前冷てぇ〜
寒ぃんじゃねぇの?」
「先刻胃の中身全て戻したばかりの
人間に温もりを求めてどうする」
よく見るとランスは、ふるふると震えている。
「ほらぁやっぱ寒いんじゃねぇか
…今日だけな!」
後ろを向いて寝転がるランスの後ろから抱きつく。
びく、とランスがあからさまに驚く。
「な、あったけぇだろ?」
「…あぁ、…」
そして、抱きついたままランスの腹を、胃を擦る。
とにかく、優しく、温めてあげられるように。
「らーんす、お疲れさま」
「…」
くるりくるり、と丁寧に擦る。撫でる。
「早く良くなるといいなぁ」
「…ん」
「ど?眠くなったか?」
「…べつに」
同室者らしい、素直じゃない返答。
それでこそランス・クラウンである。
「へへ、そーかよ」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
数分が経った。
オレは未だにランスの腹や胃をゆっくりと擦っている。
「す──、す───」
規則正しい寝息が聞こえ始める。
(やっぱ吐いて疲れたのか。)
きっとオレもすぐに、まどろむ。
抱きついたまま、テメェを撫でたまま。
「おやすみ、ランス」
月明かりはオレたちを包み込む。
いつしか、暗闇は幾分か明るくなって──
夜は朝になるのだろう。
きっとオレたちは今、同じ夢を見る筈だ。
魔法薬を零したみたいな満点の星空。
星空は時間が経てば
次第にランス、テメェの髪色みたいな
美しい空色に染まる筈だ。
───朝が待ち遠しいな。
最後にもう一度テメェにギュッと軽く力を込めて抱きつき、 オ レ.. も 、 … 寝 …
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完
コメント
35件
いいねぇ
過換気症候群…きついよ( > <。) でも初めて知ってる人初めて見た!
結構性癖に来たのでいいね1100にしときました()