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「涼くんの好きな人ってどんな人?」
街灯に照らされた夜道を並んで歩きながら、空を見上げると今日もまた雪が降ってきた。粉雪だから、今回は積もらないかな。
そういえば、大学の頃も涼くんと雪の中歩いて帰ったな。
傘がなくて困っていたら、涼くんが一緒に入れてくれて初めてお互いの話をたくさんした。あの時すっごく楽しくて、私の中で今でも大切な思い出だ。
「かわいい人です。時々無邪気で、ケーキとか好きそうに見えるのに枝豆が好きみたいです」
「その人のこと、すごく好きなんだね」
言葉の端々から伝わってくる想いを聞いていると私まで照れくさくなってくる。
涼くんに好かれている人はきっと幸せだ。
「それで、彼氏に浮気されてる人です。別れたら俺にもチャンスがあるかもっていつも思ってるのに、浮気されてもなかなか別れません。今回だって結局別れないんじゃないかってもやもやしてます」
「え……っと」
それってまるで私みたいだと思って振り向くと、まっすぐな瞳がこちらに向けられていて、思わず立ち止まる。
吸い込まれそうなほど綺麗な真っ黒な瞳に、少しだけ前髪が長い黒髪。
寒さでほんのりと頬が染まっているように見える。
涼くんはただじっと私のことを見つめていて、その真剣な表情が私から言葉を奪う。
冗談だよね。気のせいだよね。そんな言葉は口に出す前に溶けて消えていく。
「俺と浮気しませんか」
私たちの間に、粉雪がはらはらと降っている。
まるで世界に私と涼くんしかいないように、音が聴こえない静かな夜だった。
唇から漏れた吐息が白く染まって、視界を遮る。
「……う、浮気はしないんでしょ」
「それは俺に彼女がいたらって話です。俺が好きなのはずっと一人だけですから」
鼓動が高鳴り、冷えていた指先に熱が流れ込んでくる。
甘く優しい言葉で私を誘い、逃すまいと距離を縮めてきた。
「でも、私……別れたつもりだけど相手はそのつもりじゃないみたいだし」
「だから、今から浮気しましょう」
向き合うのが怖くて言い訳ばっかり並べている私の手を涼くんが掴んだ。
温かくて、大きな手。線は細いのに案外男らしい手をしていて、緊張に心が震える。
「ずっと好きでした。もう見守るのはやめにします」
「あの、」
「奪います」
だめだ。心を完全に掴まれてしまった。
ちゃんと終わっていないのに、彼はまだ別れた気ないって言っているのに。浮気彼氏に嫌気がさしたのに。
私は向けられたまっすぐな恋に手を伸ばしたくなってしまった。
街灯に照らされて色濃くアスファルトに落ちた二つの影が近づいていく。
伸ばされた手が私の頬を捕らえて、ゆっくりと顔を上に向かされた。なにをされるのかわかっているはずのなのに、私は抵抗をしなかった。
寒空の下、冷えた唇を重ねられる。
久しぶりに感じるときめきに心臓がドキドキと大きく跳ねて、恋の始まりみたいな甘い痺れに酔いしれた。