「…おや、奇遇だね、ユーリ君。エリオ君は元気?」
買い出しの帰り。家へ帰ろうと市場から歩き出した矢先、背後からトンと肩を叩かれた。振り向くとそこにいたのはキャソックを身に纏った背の高い男。近所の教会に勤める神父様だ。名前は確か…
「ガイオさん。お久しぶりです。元気ですよ、俺もエリオも。今朝は朝早く起きて男友達とサッカーをしに行ってました。」
この男はやけにエリオのことを気にかけていて始めの内は警戒していたが、話を聞くと亡くなった一人息子に似ているんだとか。本人から詳しいことは訊いていないが、ガイオの息子はレイプされてショックで自殺してしまったと噂されている。可哀想に、まだ11歳くらいだったそうな。流石の私でも同情した。
「そうかい、サッカーか…いいねェ、年相応で。けどあの可愛い顔に傷でもついたら大変だ。ちゃんと見ておくんだよ」
ガイオが目を細めて微笑み、優しい声色で話す。この男の声は低くて心地良い反面、上顎を舌か指かでなぞられるような不快感がある。正直、少し苦手だ。悪い人でないのは分かっているのだが。
「勿論。…あぁ、それと。明後日のエリオの誕生日に、また教会へ伺います。」
上澄みの笑顔でもちろんと返し、話していて思い出したので念のため報告をする。特に意味は無いがエリオは神父と話すのを毎年楽しみにしているから、留守では困る。
「ん、分かった。準備しておくよ。そうだ、エリオ君は今年で11だったよね。僕の教会では11から13歳の男の子は特別な祈りを捧げる事にしているんだ。特別縁のある神様が子供の姿をしていてね。良かったら、エリオ君もどうかな?」
ガイオは名案だと言わんばかりにぽんと掌を拳で叩き、私にそう提案してきた。あまりピンとこなかったので反応に困ったが、きっとエリオがこの場にいたらやりたいと瞳を輝かせることだろう。あの子は特別が好きだから。
「じゃぁ、せっかくなのでお願いします。……あ、俺はこれで。仕事の準備がありますので」
提案を承諾した後、視界の端に映り込んだ電子時計の時刻を確認し会釈すると体を家の方へ向け、神父の元からそそくさと去って行った。誰に会うことも無いだろうと思っていたから、今日は少しゆっくり買い物をし過ぎてしまっていた。今夜の客は家を知られているから…予定の時間に遅れて、迎えにでも来られたら困る。
重い袋をぶら下げながら小走りで家へ戻った。良かった、まだ少し時間があるから、エリオに置手紙を残してから行こう。あぁ…仕事に行く前に、顔を見たかった。抱きしめてから行きたかったな。
エリオへ
サッカー、楽しかった?ここ最近運動してないから、今度俺にも教えてほしいな。
夜ご飯はキッチンに置いてあるから、温めて食べるように。朝には仕事から戻ってこれると思うから、なるべく夜更かししないようにすること。
いってきます。おやすみ
ユーリ
手紙をリビングの机に置き、軽く髪を整えて家を出た。自ら穢れに行くことが、今日は一段と虚しく感じる。エリオとあまり、話せなかったからだろうか。
…
手紙を手に取り、眉を下げた。あぁ、今日もユーリは……
「僕の知らない誰かの処で、僕のために恥ずかしいことするんだね。」
鼻先と目頭が、ぼんやり熱くなった。
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