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トントントン、と教会の扉を叩く。随分豪勢で、ギラつた扉。中は簡素な癖に。
「ユーリ、ごめんね。食べたいもの思いつかなかったや」
私の手をきゅぅと握り、共に神父が扉を開けるのを待ちながらエリオが眉を下げる。結局、エリオの食べたいものは決まらぬまま誕生日を迎えてしまった。今まですっと思いついていたものが急にでてこなくなったことに焦ってしまったのか、たかが夕飯の希望を彼は重く捉えすぎている気がする。
「…気にしないで。帰るまでに決まればいいさ。それに、無理に今日決めないといけないわけでも無いからね。」
私は繋いでいない方の手でエリオの頭を撫で、気負う彼を慰めようと努めた。続けてなんと言葉を掛けようか悩んで居たところ、教会の扉が開いた。中からはこないだ会った大柄な男、ガイオが前回同様キャソックを身に着けて現れる。
「久しぶりだね、エリオ君。ユーリ君はこないだぶりだ。さて、さっそく祈りを捧げるかい?それか、お菓子食べる?」
上機嫌に神父は話し、エリオの前にしゃがむ。同じ目線になり対等な関係にでもなったつもりか、無礼な奴だ。天使と肩を並べようなんて。
「先に祈りを捧げたいです。お菓子も食べたいけど…」
少し悩み、頬を掻いてエリオが神父に返す。やはり、私以外にはあの徹底された敬が抜けてない。特別勘があって気分が良いので気にしないが。
「ん。じゃぁ行こうか。ユーリ君は聖堂で待っていてくれ。」
ガイオがエリオの頭を撫で、手を差し伸べて私にそう告げる。なんだ、一緒には行けないのか。なんて内心残念に思いつつも、エリオを見送る事にした。ひらりと手を振り、柔らかく微笑む
「行っておいで。俺はエリオが気に入ってくれそうな夕飯の案でも考えてるよ」
そう言うとエリオは嬉しそうに笑って頷き、ガイオの手を取って小さな礼拝堂の扉の中へ消えていった。聖堂で待っていろと言われたが…まぁ、扉の前でもいいだろう。多分。五分、十分と時間が過ぎていく。中は不自然なほどに静かで、時折ガタ、と机が動くような音がするだけ。だけ、なのだが。先ほどからその音の違和感が拭えない。物を動かすような動作が、祈りにあるだろうか。中を少し覗いてみようと好奇心にまけドアノブに手を置いた途端、中から声が聞こえた。
「……も、いゃ…っ!」
待切れも無く、エリオの声。ドア越しでよく聴こえない。だが、確かに何かを拒否している。中で何が?思考が混濁する。ドアを開けようにも鍵がかかっている。この扉を蹴破る事ができるような力は、貧弱な私には無い。
「エリオ!大丈夫か?!中で何があったんだい!」
外から声をかける事しかできない。コン、と向こう側からドアに触れる音がする。触れた手は爪を立てていて、ギリギリと引っ掻く音が聞こえだした。獣がいる?いや、きっとエリオだ。ここにいる。何かに怯えるエリオが、此処に。耳をドアに貼り付けよぅく音を聴くと、時折荒い息が聞こえる。一つは高くてひゅぅひゅぅ喉が同時に鳴っていて、もう一つは声といっしょになってて上顎をなぞる様な甘ったるい息。……まさか、そんなはずはない。嘘だ。思考することすら嫌になってしまうことが、脳裏を過った。嫌だ、違うと否定してほしい。誰か。助けて
……カチャ、
内側から鍵を開ける音がした。随分ゆっくり。きっとエリオが、悟られぬよう気を使って開けたのだ。掴んでいたドアノブを捻る。扉が重い。違う、私が動けてないんだ。もし考えていることが本当だとすれば…。そんなことをぐだぐだ考えてる場合ではないだろうか。重い重い、体感1tは裕に越えていそうな扉を押し開け、中を覗いた。