テラーノベル
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「は…っ?オーナーの、娘……?」
リカの呆然とした声が、静まり返ったリビングに響く。
透は、手に持っていた高級ワイングラスをガタガタと震わせ、今にも落としそうになっていた。
「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ美咲! 頭がおかしくなったのか?」
透は顔を引きつらせ、無理やり笑おうとした。
隣のリカを安心させようと、私の肩を乱暴に掴もうとする。
「リカちゃん、信じちゃダメだ。こいつはただの家政婦……いや、ちょっと精神的に不安定な嫁で……!」
「お前の実家が地主だなんて、そんな話聞いたこともないぞ!」
「ええ、言ってなかったもの。あなたが『実家の助けを借りる男は二流だ』なんて偉そうに言うから、気を使って黙っていたのよ。まさか、その優しさを利用して私の実家の持ち物で浮気三昧とはね」
私は透の手を冷たく振り払い、テーブルの上の『立ち退き勧告書』を指差した。
「よく見て。管理会社の代表者名。……私の父の苗字と同じでしょう?」
透は這いつくばるようにして書類に目を落とした。
そこには、彼がいつも「古臭い名前だ」と馬鹿にしていた私の旧姓が、重々しく印字されている。
「う、嘘だ…だって、家賃はあんなに安くて……。俺のスペックが高いから優遇されてるって……」
「それは私が父に頼み込んでいたからよ。あなたが『自分は一流だ』と勘違いして恥をかかないように。でも、もうその必要もなくなったわ」
私はスマホを取り出し、リカに画面を見せた。
そこには、探偵から送られてきた透の「借金リスト」と
彼女に貢いだバッグの購入履歴
そして消費者金融からの執拗な督促通知が並んでいる。
「リカさん、でしたっけ?彼、あなたの前では御曹司を演じているみたいだけど、実態はこれよ。このマンションの家賃すら、本当は1円も払っていない。全部、私の実家の好意に寄生しているだけ」
リカの顔が、みるみるうちに険しくなる。
彼女は透の腕を汚いものでも見るかのように振り払った。
「ちょっと透、これどういうこと!? 自分の持ち家だって言ったよね? 私に買ったバッグも、全部カードの分割払いなの!?」
「あ、いや、リカちゃん! これは一時的なもので、すぐに昇進すれば……!」
「最悪……!金持ちのふりして私を騙してたわけ?泥船じゃない、あんた!!」
リカはソファに置いてあった自分のバッグをひったくると、透の顔に飲みかけのワインをぶちまけた。
「お邪魔しました!こんなクズ、熨斗つけて返してあげるわ!」
嵐のようにリカが去っていき、玄関のドアが激しく閉まる。
後に残されたのは、高級ワインでびしょ濡れになり
床にへたり込んだ透と、冷めた目で見下ろす私だけ。
「……さて、透さん。お客様も帰られたことだし、これからの話をしましょうか」
私はバッグから、もう一枚の書類を取り出した。
それは、父が用意してくれた「離婚届」と
これまでの生活費を算出した「損害賠償請求書」だった。
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#不倫
#離婚