亮平 side
大介🩷『はぁ?別れた?』
亮平💚『甘めのコーヒーでいい?』
〝いやブラックで〟謎のキメ顔をして無駄に背伸びしているこの男。漸く甘々なコーヒーが飲めるようになった佐久間はカッコつけてブラックを注文した。〝苦ぇ〜やっぱ甘々で〟なんて言ってミルクと砂糖を大量に入れている。喧嘩でもしたと思っていたらしい佐久間は別れたと言った俺に驚いた様子で甘々のコーヒーを啜ると〝これこれ〟と言ってご満悦の様子だ。
大介🩷『お前達本当バカだよな!好き同士なんだこれって奇跡よ?』
亮平💚『アニメの見過ぎだ馬鹿はどっちだよ。あの子の話はもうやめて』
〝あの子ねぇ〜名前言うのも嫌って?〟いちいちむかつく奴だ。彼が幸せならそれでいいでしょと言った俺に〝彼ねぇ〜〟なんてホントうざいよ…
オフ日、佐久間を家へ呼び出した。まとめていた玄関にある翔太の荷物を見るなり〝俺は持ってかねえぞ〟と言った勘のいい男はいつものようにドカッとソファーに座った。こういう男らしい仕草や言動が好きだった。真面目な俺にとっては佐久間の自由奔放で後先考えずに思いのままに生きる姿がカッコよく映った。一方で、自分の夢に向かって直向きに努力する姿とのギャップに惚れたんだ。あの頃のドキドキは何処に行ったんだろう?
大人になればなる程融通が利かなくなり、感情に嘘をついたり我儘が言えなくなったり、誰かの機嫌を伺ったり、本来の自分を見失ってしまう。〝好き〟っていう気持ちにすら蓋をして恰も最初からそこには無かったかのように振る舞った。彼を愛した自分の存在を消したかったんだ。あの子の中にある自分の記憶ごと全部無くなって仕舞えればいいのに…そうすればお互い苦しまないですむ。
仕事は互いに忙しく、一人過ごす時間を除いては彼を思い出す時間さえ与えなかった。マンションに居る時間は地獄のようだった。微かに残る匂いに、彼が選んだカーテンや家具がより寂しさを誘った。
二人で過ごしたベットには眠れず、自身の部屋のベットで横になった。いつまでもこんな生活は続けられないと思い切って二人の寝室のベットを処分しようとシーツを剥ぐとコツコツと音を立てて何かが床に転がった。ベット下を覗き込むとサンキャッチャーのスワロフスキーが光を失って寂しそうに転がっていた。
亮平💚『おいで…ごめんね見つけるの遅くなって』
一個足りないだけでバランス悪く不格好になったサンキャッチャーを目を輝かせて嬉しそうに喜んでくれたあの笑顔を思い出して床に崩れ落ちて泣いた。
泣きながら組み立てたクリスマスツリー。一人暮らしを始めてからずっと一人で組み立ててきた筈なのにどうしてこんなにも悲しいのだろう。取り残された一個のスワロフスキーに糸を通すとツリーに飾った。
亮平💚『今日から君も仲間入りね…ツリちゃん宜しくね…』
あの子のいないリビングに独り言を呟く俺の声が響いた。点滅するライトの光を浴びたスワロフスキーがキラキラと光放って天井や壁を虹色に染める。〝綺麗〟…ほら綺麗なものを綺麗と思える…きっと俺はもう大丈夫だ。
大介🩷『へぇ〜ツリー飾るんだ?乙女じゃん』
亮平💚『はぁ💢何?ちょっと触んないでよ大事なものなの!』
スワロフスキーを人差し指で揺らす佐久間はニヤリと笑うと〝へぇ〜さっちゃんだもんな!〟何処まで勘がいいんだこの男…むかつく。急に伸びてきた手が俺の手首を捉えて離さない。
亮平💚『何?やめてよ!』
大介🩷『指の怪我はもう治ったみたいだな?誰かのためにあそこまでする?あの子くらいじゃね?』
亮平💚『むかつくんだよ💢いちいち何?』
〝無理すんな亮平泣きたい時は泣けよ〟腕を引かれて収まった先は佐久間の胸の中だった。温かくて逞しいその胸はゴツゴツしてて男らしい。ドクドクと打つ早鐘に呼応するように鳴り出した俺のドキドキは昔のそれとは少し違う気がした。誘うように佐久間の頰を撫でると〝やめろ〟と言って払われた手のひらが寂しくテーブルにコツンと当たった。
大介🩷『好きでもない奴から抱かれても気持ち悪いだろ?蓮にされたの忘れたの?あの時の気持ち忘れんなよ…翔太は今どんな気持ちで抱かれてる?……蓮の腕の中できっと泣きながら嫌な思いしてんじゃねえの?』
亮平💚『それ以上何も言うな』
翔太…涙って血液って知ってた?
赤くないじゃん?って…涙のもとは血液。涙は血液から赤い色ヘモグロビンなどを抜いた血漿という透明な液体からできてるんだよ。涙は透明な血液ってことなんだよ。そして 泣く理由によって味が違うんだよ?
翔太の涙はどんな味がしてる?しょっぱい?甘い?
今の俺の涙は少ししょっぱい気がする…悔しさや怒りを感じてると涙はしょっぱいらしい。自分の不出来振りに怒りしかない。
翔太の幸せを願ったつもりが…
そうじゃないって言って?
喜びの涙は甘いんだって。悲しい時も同じように甘く感じるらしいけど、きっと翔太は泣いてないでしょ?お願いだから笑ってて。
誰を思って慟哭している?自身の不甲斐なさ故に翔太を幸せに出来なかった己に対して?俺との幸せを願った翔太を思って?
また逃げちゃったね亮平…何にも変わってないじゃん。翔太を好きになる前と今と何も変わってないお前はただの臆病者で一人の愛する人すら幸せに出来ない情けない男だ。
大介🩷『泣くなよそんな酷い面…翔太に見せれんのかよ?しっかりしろよ亮平』
泣かせておいて泣くなよだなんて全く酷い男だ〝お前とは仲良くなれそうにない〟そう言いつつ佐久間の胸にもう一度ご厄介になった。優しく迎え入れられた胸に小一時間程抱き締められた。こんな風に甘えられる存在が翔太もきっと居るよね?
大介🩷『気晴らしにどっか行くか?何処へでも連れてくよ!お前の行きたいところ言ってみろよ』
〝ペンギンが見たい〟泣き腫らした目を擦ると乱暴に頭をわしゃわしゃと撫でられた。〝いいとこ知ってる〟そう言って佐久間に連れてこられたのは江戸川にある小さな動物園だった。いつだったか佐久間とあの子が二人でデートした場所だ。
彼の見たものを見てみたかった。目を輝かせてペンギンの話をする姿は無邪気で穢れっけひとつ無く純真無垢で可愛らしい。一緒に過ごしたひと時が遠い昔のように感じられて、確かに二人で過ごした筈なのに…会いたかったんだ彼が見た景色に。
シャカシャカと音を立てて青色のニット帽に青色のダウンジャケットを羽織った5歳くらいの男の子が俺の横を通り過ぎて行った。小さな男の子に何故だか彼の面影が類似していて思わずクスクス笑うと〝翔太みたい〟なんて数日振りに自分の口から出た愛しき人の名前に思わず両手で口を塞いだ。ニヤリと笑う佐久間に〝何も言うなこの能天気男〟と言うと声を押し殺して我慢しているようだけど肩が震えていて益々イライラした。
亮平💚『ほら早く行こう////』
佐久間の腕を取りグイグイ引っ張ると頰を赤らめた佐久間は〝おいそんなに引っ張るなよ〟と言いながらもなんだかちょっぴり嬉しそうだ。
チビ翔太に会えたし、翔太の大好きなペンギンにも会える。逸る気持ちを抑えきれず佐久間の腕を引いて急かした。
再び迫り来るシャカシャカ音に直前まで気付かずに、傍目には仲睦まじいカップルだったろう二人の元に突如として突撃してきた青色のダウンジャケットの男が手を繋ぐ二人を引き裂くようにぶつかると3人同時にコンクリートの舗装された地面に転がった。
亮平💚『痛った…何?へっ?お父さん?』
チビ翔太と同じ色のダウンジャケットを羽織った男……あの子のお父さんだろうか?
下を俯いたまま膝を打ったのか摩りながら起き上がり顔を上げたその男の顔を見て一瞬時が止まった。
亮平💚『ショウ……』
翔太💙『亮平!』
数日振りとは思えないほどの熱烈な抱擁だった。遠距離恋愛のカップルが久々の再会を果たしたかのような熱い抱擁に俺の腕はダラリと下げられたまま彼を抱きしめることは無かった。
亮平💚『ごめん離れて?今デート中なの…見たらわかるでしょ邪魔しないでくれる』
大介🩷『おい亮平💢』
佐久間の腕を掴んで園の門をくぐる。こうと決めたのだ今更どうしろと言うんだ…強い衝撃を背中に感じた。あの子の頭が俺の背中を押している。
翔太💙『見たくないならそのまま聞いて//大好きだよ亮平…好き過ぎてどうにかなっちゃう。俺諦めないからね!俺しつこいからね!覚悟しろよこのポンコツ……デート楽しんで…さっくん亮平宜しくね』
シャカシャカ音が遠ざかる。愛しき人が奏でるきっと歩幅が狭めのその音は可愛かった。
亮平💚『ふふっ///お口にチョコレートなんか付けちゃって……可愛いんだから…行くよ佐久間』
〝おいマジかよ?追いかけろよ?〟うるさいんだよ…能天気男
何処もかしこも翔太だらけ。全てのペンギンさんが翔太に見えた。尖った嘴は怒った時の翔太にそっくりだし、小さな歩幅で歩く姿もそっくりだ。産毛の残る赤ちゃんペンギンは寝起きのぼーっとしている翔太にそっくりだった。
亮平💚『翔くんおいでご飯食べましょうね♡あらっ食事中はあまり可愛くないのね//ワイルド〜』
魚を頭から丸呑みするペンギンは思ったより可愛くなかった……〝翔太は食べてる時も可愛いぞ〟泣きながらペンギンに餌やりをする俺は惨めだった。
あともう一歩、少しの勇気が出ない俺は滑稽だ。あの子を好きになった頃の情けない弱虫の俺にまた逆戻りの亮平さんは、駐車場の空き地で開催中のクリスマスマーケットに寄ると温かくて苦いコーヒーを飲んだ。俺の隣でバカみたいに甘ったるいホットチョコレートを頼んだ佐久間は〝うま〜い!〟なんて大声を上げて飲んでいた。ロマンチックにはほど遠いこの男と二人で大きなもみの木のツリーを眺めると、優しく背中に添えられた手がトントンと俺を叩いた。
亮平💚『痛いんだよお前の指輪💢背骨に当たってる!』
大介🩷『ふん可愛くない奴///』
〝ありがとう一緒に居てくれて…〟佐久間には素直に言えるのにどうしてあの子に素直になれない?また傷付くのが怖いから?ツリーを見上げた俺の頰に雨粒が落ちた。いつの間にか空は雲で覆われ先程まで煌々と光っていたお月様は何処かでかくれんぼ中だ。大急ぎで車に乗り込むとマンションまで佐久間に送ってもらい別れた。
一雨一度、遅れ遅れの冬到来。本格的な冬を前に誰かの心を表すように降り出した雨は明け方まで降り続き東京の街を凍えさせた。
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今日で解決すると思ったら…意地っ張りだなーあべちゃん!!🥺💚可愛くないぞぉ〜😭😭😭