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自然の国の門兵は、簡単な手荷物検査を済ませると何の手続きもなく国内へと入れてくれた。
国の入り口から見渡す限りに広がる屋台は、何中祭をしているかの如く盛んで、小腹を空かせる香りがそこら中から舞い込んできていた。
アゲルも、目を輝かせ街をぐるぐる見遣っていた。
「あ、あの、アゲルさん……」
「あ、アゲルでいいですよ。僕たちは周りの人たちから旅人だと思われています。旅の仲間同士でさん付けし合っていると怪しまれますからね、ヤマト!」
途中で買ったイカ焼きのような焼き物を口に頬張りながら、アゲルはニコニコと答えた。
「じゃあアゲル。世界を救うと言っても、僕は具体的に何をしたらいいんだ?」
「そう言えば説明してませんでしたね。僕もこの自然の国に訪れるのが楽しみで舞い上がっていました」
そう言うと、アゲルは口元のタレを拭った。
「こんな、国々を回る必要性と、具体的な僕のやることを聞いておかないと、何も進展しないだろ」
「さすがっ! やる気は十分ですねっ!」
なんだか言い方に棘のあるような気もするが、一度そこは全て無視だ。話が進まなくなる。
「ヤマトには、この世界の七国を周り、それぞれが治める神に会い、力を譲って貰うのです。その力がなければ、唯一神の封印された鍵は開けません」
「待ってくれ。七つの国の神に会って、唯一神の鍵……色々と矛盾してないか……?」
「そうですね。言葉としては矛盾しています。各国に七人の神がいる時点で唯一神と呼ばれているのは、異郷の貴方からすればおかしいと感じるでしょうね。しかし、そう呼ばれているものはそう呼ばれているのです」
そうだ……ツッコんでも意味がないんだった。
なるべく自分らしく理解を追いつかせよう。
「国を治めていると言うことは、僕からしてみれば七国の神と言うよりも王に近い感じでいいのか……? その王たちから特別な力を貰う、そんな感じか……」
「そうですね、王という認識でいいと思います。ただ、神という認識もされておいた方がいいかと思います。何故なら、人と神では使う魔法も生きる年数も違いますので」
「兎にも角にも、その神を探すってことでいいんだな?」
「そうです! まずは神を見つけられなければ話になりませんからね!」
と、言われても、だ……。
この自然の国は、軒並み屋台のように続く周りには大樹の大自然が広がり、どこもかしこも人の山だ。
神を探すと言っても、手掛かりも何もない……。
アゲルはニコニコと、自分の腹が命じるままにちょこちょこと店に入っては片手に食べ物を持っていた。
「アゲル、食ってばっかもいいが、何か手掛かりはないのか……?」
「そうですね。ここ200年、自然の国の神の目撃情報がないですから、困りものですよね」
「200年!?」
200年、目撃情報がない……。
「それ、国にいないんじゃないのか……?」
「それはありません。七国の神は、唯一神との契約上、国から出ることは出来ませんから」
そう言うと、団子のようなものを平らげる。
「反対側にでも行ってみましょうか」
「反対側……?」
アゲルの案内に着いて行くと、大きな河川を挟んで反対側は、草木も生えない荒野が広がっていた。
「こっちも……自然の国か……?」
「そうですよ。自然と言うのは、ただ膨大な樹木を有しているわけではありません。こう言った、草木も生えない砂漠のような土地だって自然ですから」
「でも明らかに……」
そう、明らかに違うのは、人だった。
樹木が伸び、騒々しい人々とは対照的に、民族のような格好で焚き火の周りに集まっていた。
点々と麦の小屋が見えるのは家なのだろうか。
「貴様たち、どこから来た」
突如として、槍を持った少年に話し掛けられた。
(ど、どうするんだアゲル……!)
僕が両手を広げヘルプサインを目配しで送ると、アゲルはニコッと笑って答えた。
「自然の国の神を探しています。知りませんか?」
「貴様ら……ヒーラ様を愚弄する者たちか……!!」
少年は槍を構えると臨戦態勢を構えた。
「ばっ、ばかっ!! ド直球すぎだ!!」
「そうでもないですよ。何故探しているだけで怒ってしまうのか。聞かなければ、”進展” しないですからね」
僕の先程の発言を取って付けたように目配せをする。
「それではヤマト! 相手してあげてください!」
「ちょっと待て! 相手って言っても僕は何も……!」
そうこうしている間にも、槍の少年は走り、その先端を僕へと突き立てようとして来ていた。
「さあ、手を翳して唱えるのです! 自分の体の奥に感じるエネルギーをそのまま!」
なんだ……初めての経験のはずなのに、過去に何度も経験して来たような身に覚えのある感覚だ……。
この感覚は……!
『 風魔法 フラッシュ!! 』
手から透明な魔法陣が浮かび、そこから凄まじい暴風が、相手の少年を突き飛ばした。
「これが……魔法……」
「出来ましたね! それが風魔法です!」
少年は起き上がると、槍を隠して僕に頭を下げた。
「まさか、風の加護を受けられた方とは梅雨知らず。ご無礼をお許しください……」
「風の……加護……?」
すると、アゲルはふと耳打ちしてきた。
「本来、魔法は杖やら武器からしか発せないんです。手からそのまま繰り出すような真似は、神本人か、その加護を受けた者にしか成せないんですよ」
アゲル……コイツ分かっててやらせたな……。
アゲルはベロを出すとニコニコと笑みを返した。
「で、どうして急に攻撃なんてして来たんですか?」
「自然の国はこの通り、二分割されてしまっております。自然の国の神であるヒーラ様が姿を現さなくなった二年ほど前から、こちらの荒れた土地の民たちは枯渇して行ってしまっているのです。そこで、我々兵士が安全を守る役を担っております」
険しい顔で大きな槍を地面に突き立てた。
異世界での年齢は分からないが、推定16歳ほどの、僕とそう大して変わらない年頃に見えた。
アゲルは、どうして急に戦闘なんかさせたのか。
失踪してしまった神、ヒーラと呼ばれた存在。
二分割されてしまっている土地。
自然の国の謎は深まるばかりだった。