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キャハハハ
「ドーン!!ママ!顔赤いよ!」
力がトイレに行った後、音々が後ろから抱きついて沙羅を無邪気にからかう
途端に沙羅の心が温かく満たされる、私の愛しい子、この子は私の人生で最高の宝物、毎日彼女を産む決断をした自分をよしよしして褒めている
「おじいちゃんが外に来ているよ」
クスクス笑って耳元で囁く、音々に手を引かれて沙羅も庭に出ると、力と健一はこの庭に何を植えるか激しく議論している、喧嘩になりかけたら沙羅が(まあまぁ)と二人の間に割って入る、音々は仔猫を追いかけて庭を走り回る
「お腹空いた!音々お寿司食べたい!」
「今なら(寿司弦)さんが開いてるな、ランチ時を過ぎてるから待たなくていいだろう」
健一が微笑んで言う
「音々ちゃんお寿司何が好き?」
「たまご!」
ブハッ
「それは安くつくなぁ~」
「それじゃぁ!行こう!沙羅」
当たり前のように彼らの行く所に自分が入っている
皆が笑い、楽しんでいる、チャイルドシートを付けた健一の車に乗ると、音々は、はしゃいで健一と行ってしまった
てっきりお互いの車で寿司屋に向かうのだと思っていたら、意外にも沙羅の運転する車に力が乗り込んで来た
クンクン・・・
「良い匂い・・・」
助手席で力が鼻をひくひくさせる
「ああ、これかしら?来る前にお花屋さんに行ったらユリがとても綺麗だったから買って来たの」
ふ~ん・・・
「ユリが好きなの?」
後部座席を見ながら力が言う
「うん、お花の中ではユリが一番好き、長持ちもするし」
沙羅が微笑んで言った、暫くして力がスマートフォンの画面をタップしながら言った
「よし、出来た」
「どうしたの?」
「君に花を注文した、1年間、毎週日曜日にユリが届くよ」
「力・・・」
「これは僕からの感謝のしるしだよ、一週間仕事に子育てに頑張っている君に、いつもありがとう沙羅・・・でもあんまり頑張って働かなくてもいいんだよ、これからは僕がいる、音々ちゃんと三人で楽しい事だけして生きようよ」
ニッコリ力が笑って沙羅に微笑みかける
沙羅の声が震える・・・
そうだ・・・思い出した・・・
力はこういうことを平気でする子だった、心臓のドキドキが止まらない、このままだと心臓発作を起こすかもしれない
昔の沙羅なら自信に満ちて、これでもかとぶつけてくる力の愛を平気で真正面から受け止めていた、でも今は彼に対してどんな態度をとればいいか正直戸惑っている
コホン・・・
「いつもこんなふうに女の人を口説いてるの?」
「八年前からずっと愛してる人だけ」
ドキドキが煩さすぎて、皮肉のひとつも言ってやりたいのに返す言葉が見つからない、こーゆー所も全然変わっていない、八年前のあの頃もいつも沙羅は星屑の下でこんな力にそそのかされて、すべてを差し出していた
「言っただろ?君の愛を取り戻すって」
「バッ・・・バッカ見たいっ・・」
沙羅はあわててエンジンをかけてアクセルを踏んた
「それじゃ・・・8年間あなたは誰とも付き合わずに何をしていたの?」
ハンドルを握りながらチラチラ力を見る
「コンサートと作曲」
赤信号で停車した時、マジマジと沙羅は力を見つめた
「本当にそれだけ?」
「うん、毎年1年かけてワールドツアーを回るんだ
アメリカ、北欧、アジア・・・コンサートが終わると混乱を避けるために、すぐに車に詰め込まれる、それで翌日の飛行機の時間までホテルの部屋から一切出ちゃいけないんだ」
「どうして?」
せっかく海外に出ているんだから、美味しい物を食べたり、現地を観光したり出来るだろうに、なぜそれをしないのか沙羅は不思議に思った
「どういうわけか僕の海外のファンは、僕達が何処に泊まっているか嗅ぎ付けるんだ、いつもホテルの前には追っかけがいる、フィラデルフィアのツアーの時はクタクタに疲れて眠っている僕のベッドルームに、まったく見知らぬファンが無断で入って来たこともあったよ、あれは本当に怖かった、服を脱がされかけて、それで他の数人は僕が嫌がって暴れているのをカメラで撮影してたんだ、ずっと思いっきり叫んでたらメンバーとスタッフが飛んできて助かったけど、あの体験はしばらくトラウマになった」
「そんな・・・」
「窓開けていい?」
パワーウィンドウを下げた力が窓枠に肘をつき、気持ちよさそうに風を受けている