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いつものように外の寒さに震えながら塾に向かう途中、ポケットの中でスマホが震えた。氷室からだった。
画面を開くと、几帳面な彼の性格らしい短い文章が次々と並んでいた。理路整然と、けれど容赦のない言葉ばかりに驚くしかない。スクロールしては戻し、何度も読み返す。
(これ……全部が繋がってる)
学年1位の頭脳が導き出した線は、俺が見ようともしなかった影をくっきりと浮かび上がらせる。そこには反論の余地はない。むしろ、自分ではそこまで考えもしなかった事実が、一本の線で貫かれていくのがわかる。
否応なしに胸の奥がざわつくのを感じながら、返信欄に指を置く。突きつけられた事実に指先が震えてしまって、すぐに返信を打つことができなかった。
『明日の昼休みに、加藤くんと会う約束をしているよ』
明日の予定をなんとか打ち込み、送信ボタンを押してふたたび画面を見つめる。氷室は、疑いのある人物と一人で対峙しようとしている。本当は「無理しないで」って打ちたかった。けれど、それを言えばきっと、余計にややこしくなる気がした。
ドジな俺が計画を狂わせるのは、これまでだって何度もあったから。
(……結局、俺は蓮に頼まれたことしかできないのか)
そう思った瞬間、胸の奥が水底みたいに重く沈んだ。自分の不出来さを改めて思い知らされた気がして、足取りまで鈍くなる。
塾に着き、机に突っ伏したくなる衝動をどうにか抑える。スマホを伏せて置くと、窓の外の外灯が目に眩しく光った。俺に危険が及ばないように、一人で戦いに行く氷室を輝かせるような光に見えたのだった。