テラーノベル
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翌日、また憂鬱な朝が幕を開ける。俺は掛け布団を体に纏いながら目を瞑っていた。その時、ぴんぽーんとベルが鳴る。今日はどうしても体が動かない。もう一度、もう一度とベルが叫ぶ。俺は頭をぐしゃっと掻きながらドアノブを捻る。そこには祐がいた。
「あ、ごめん。寝てた?」
「何の用…。」
すると、祐がよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに片手に持っていた袋を俺に差し出す。
「昨日作って余っちゃったから。」
祐は俺の腕に袋の紐を引っ掻けた。すると、祐はにこっと笑って帰っていった。
「…いただきますっ。」
座椅子に座って、袋の紐をほどいてあげると、そこには一枚の紙があった。そこには「お前、これ好きだろ?」と書かれてあった。すぐさま中にある箱を取り出し、蓋をあげると、肉じゃがが入っていた。ありがたいことに、しっかりとレンジで温めてくれたみたいだ。ジャガイモを一口食べてみる。
「…美味っ。」
俺は涙をすーっと流しながらパクパクと食べ続けた。
ぴんぽーん。祐の部屋のベルを鳴らす。
「あ、乃亜。」
祐は笑顔で名前を呼んだ。俺は何も言わずに箱が入った袋を差し出した。すると、祐は箱を開け、中身を確認した。
「全部食べてくれたのか。」
俺は小さく「美味かった。」とだけ言って、自分の部屋に向かおうとした。その時、祐ががしっと俺の腕を掴む。
「ちょっと寄っていけよ。」
「好きなとこ座って。」
祐はそう言って、キッチンでコーヒーを作りはじめる。俺はベッドの上に座った。
「はい、ココア。」
「え…?」
「お前、コーヒー苦手だろ?っだから。」
俺はココアをじーっと見つめる。そのココアは柔らかく温まっていた。
(なんで、祐は俺のことこんなに知ってるんだろう。)
俺は祐の横顔を見つめながら思った。 高校2年生の時、たまたま同じクラスで、たまたま同じ委員会になった祐は、とても陽気で、俺みたいなのに関わってくれるなんて1ミリも思っていなかった。でも、何故か俺みたいなのにも話しかけてくれた。その驚きを、今でもしっかり覚えている。
「乃亜。」
「何…。」
祐は俺を真剣な表情で見つめながら言った。
「やっぱり、なんかあっただろ。」
そのまま、祐は続けて言った。
「もし困ってる事があるなら、いつでも相談しろよ。」
祐は微笑みながら言った。俺はその微笑みで怒りが湧いた。
「俺の事何も知らないくせにっ、そんなこと勝手に言うなよっ!」
俺はいつの間にか立ち上がってそう叫んでいた。大粒の涙がカーペットに落ちる。
「…っごめん。」
祐はすぐに立ち上がり、俺の涙を優しく手で拭った。その手はとても暖かかった。
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