18話 一歩という距離
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私「 ….暇 」
期末試験も終わり、高校生活︎︎ 最初の夏休みが始まった
特にすることもなかった私は出された課題を1週間で片付いてしまい、先日も儀式を終えたばかり。
美凰が言っていた “ 記憶を消す ” という行為を何度も悩んでいるうちに、私は目の下にクマができる程 睡眠不足になった
私( 眠い….けど )
私( 流石に外に出ないと体に悪いか )
プルルル….
私「 ? 」
私( 固定電話 ….和田さんかな )
私「 はい、羽澄です 」
田沼「 あ、俺 羽澄伊吹さんと同じクラスの田沼と言います 」
田沼「 伊吹さんはいますか?」
私「 ….はい、その伊吹です / クスッ 」
田沼「 あ、羽澄だったのか 」
私「 電話だとややこしいね、もう伊吹って呼んでよ 」
田沼「 あ、あぁ….// 」
私「 それでどうしたの?」
田沼「 い、伊吹 ….この前アルバイトしてみたいって言ってただろ?」
田沼「 実は来週、親戚の人がやっている民泊の手伝いに行くんだけど 」
田沼「 良かったら一緒にどうかなと思って 」
私「 民泊?」
田沼「 人手が欲しいらしくて、向こうの人も日給は出すってさ 」
田沼「 どうだ?」
私「 うん、私でよければ行きたい….!」
田沼「 言うと思った / 笑 」
田沼「 じゃあ、8月3日○○駅に7時集合で 」
私「 分かった、3日だね 」
私「 ….. 」
田沼「 ? ….予定でもあったか?」
私「 ううん、何でもない 」
私「 じゃあ、また 」
田沼「 あぁ 」
朱楽「 いいのか?8月3日は儀式の日だ 」
私「 うん、分かってる 」
私「 始まりは19時だし ….それに 」
私「 今のうちに思い出作っておきたいんだ 」
朱楽「 …. 」
朱楽「 少し、張り詰め過ぎなんじゃないか?」
朱楽「 祓い屋なら今からじゃなく、もう少し経ってから…. 」
私「 朱楽、静司や周一さんは高校生で祓い屋になってたんだよ 」
私「 だから、きっと大丈夫 」
朱楽「 …. 」
私「 今度、朱楽とも出かけたいね 」
私「 綺麗な景色が見て、色々話したい 」
朱楽「 なら今から行けばいいだろう 」
私「 え?」
朱楽「 よし、背中に乗れ 」
私「 あ、ちょっと….!」
・
・
・
ヒュォォォォ
私「 朱楽、降ろしなさい 」
朱楽「 もう少しで着く 」
私「 普通の人から見れば、私が浮いているように見えるんだってば….!」
朱楽「 大丈夫だ、私に捕まっていれば見えない 」
私「 え、そうだっけ….?」
朱楽「 あぁ ….見えたぞ、主 」
私「 ! 」
私「 海だ….!」
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私「 わぁ、綺麗 」
朱楽「 祓い人を探していた時に偶然見つけてな ….伊吹にも見せたかったのだ 」
私「 ….こんな遠くまで来てたんだね 」
私「 ありがとう、朱楽 」
朱楽「 せっかくだ、海に入ってみろ 」
私「 うん….!」
パシャッ パシャ ….!
私「 冷たっ 」
朱楽「 伊吹 」
私「 ん?」
バシャッ!
私「 …. / 濡 」
朱楽「 …. / ニヤ 」
私「 やったね、朱楽 ….おりゃ!」
朱楽「 うぐ ッ / 濡」
私「 あははっ!」
・
・
・
私「 もうびしょびしょ…. 」
朱楽「 風邪で乾くだろう 」
私「 朱楽みたいに毛だけじゃないんだけど 」
朱楽「 …. / フン 」
私「 ふふ、久しぶりにこんなに笑った 」
私「 ….綺麗だなぁ 」
朱楽「 少しは気分転換できたか?」
私「 うん、本当にありがとう 」
ポタポタポタ….
朱楽「 ….ん?」
私「 え 」
私「 え、嘘….!」
朱楽「 伊吹、あそこのバス停へ走れ!」
私「 うん 」
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私「 くしゅんっ 」
私「 寒い….、風邪引きそう 」
朱楽「 人間はなんと脆いんだ 」
私「 うるさい ….せめて拭く物があればなぁ 」
私「 朱楽も疲れたでしょ?休んでいいよ 」
朱楽「 主を置いて休めるか 」
私「 いいから。帰る時にまた呼ぶよ 」
朱楽「 ….分かった 」
私「 ….さて、どうしようかな 」
私( この雨の量だとすぐにはやまないよね )
私は屋根の外に出て、雨に濡れながらバスの時刻表を確認した
私( 1時間後…. )
私( 本数少なすぎない….?普通はこんな感じなのかな ) ← 東京出身
私「 …. 」
頬や足に流れる水は止まることなく
雨は一層強さを増す
私は時刻表に触れながら、ふと思い出した
『 我に情など持つなよ、伊吹 』
幼い頃、美凰が私に言った言葉
確かに持つべきではなかった
離れ難くなるから 、嫌気がさすから 。
こんなにも悩ましくなるとは思っていなかった
きっと彼らならすぐに判断できるだろう
だが
私はできない 。できる訳ない 。
妖だろうと私のずっと傍に居てくれた友人だ
私と一緒に生きてくれた
大切な友人 __
私「 ? 」
一台の車がクラクションを鳴らす
車道に立ってるつもりはないが、車は少し離れた場所に止まった
助手席に座っていた女性が声を出す
雨の音で少し聞き取りずらいが、想像よりも大きな声で何とか聞こえた。
?「 この雨でバスは来ないよ!」
?「 迷子かい?」
私「 ….いえ、雨宿りをしていたところです!」
私「 もう少し弱くなったら帰ります!」
?「 雨はこの後も強くなるよ!」
?「 家はどこだい?」
私「 ○○町です!」
?「 ○○町?随分遠いな 」
?「 海の近くは危ない、私らの宿に一度来な!」
私「 …. 」
そう言うと車はゆっくり近づき、停車する
ドアが開き、私は戸惑ってしまった
私( の、乗っていいのかな )
私( 全身濡れてるんだけど…. )
?「 早く乗りな、車内も濡れてしまうよ 」
私「 …. 」
とても聞き覚えのある声がした
私は先程会話した助手席の人を見る
私「 な、七瀬さん….?」
七瀬「 ?….おや、アンタ 」
七瀬「 もしかして、羽澄家の? 」
私「 …. / チラッ 」
私は後部座席に座っている人を見る
的場「 …. 」
私「 …. 」
私「 すみません ….失礼します!」
私は扉を閉め、その場を走った
的場「 ….追え 」
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私「 はぁ、はぁ….!」
私( どうして的場一門が….!)
ガシッ
私「 !? 」
的場の式 「 …. 」
私「 な、妖怪….!? 離して ッ 」
コツ コツ コツ ….
的場「 もういい、戻れ 」
的場の式 「 …. 」
的場「 お久しぶりです、伊吹 」
的場「 ….何故、逃げるんです? 」
私「 …. 」
的場「 そんなに会いたくなかったのですか?」
私「 …. 」
的場「 今までどこにいたんです?」
私「 …. 」
的場「 ….はぁ、行きますよ 」
グイッ
私「 わ ッ 」
的場「 大人しくしていて下さい、雨で落としそうだ 」
私「 降ろして下さい 」
的場「 …. 」
私「 今はダメです、分かっているでしょう 」
的場「 なんの事やら / クスッ 」
私は話しているうちに、そのまま車に戻されてしまった
的場「 出せ 」
部下「 はい 」
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的場「 降りますよ 」
私「 …. 」
的場「 いつまで怒っているんです?せっかくの整った顔が台無しですよ 」
私「 な ッ 」
私( 誰のせいだと…. )
中に入ると暖色のエントランスが広がり
私は外との寒暖差に少し震えた。
私「 くしゅんっ 」
七瀬「 全く ….ずぶ濡れじゃないか 」
私「 七瀬さん…. 」
七瀬「 先に風呂へ行きな、替えの服は用意するから 」
私「 いえ、そのうち乾きますので…. 」
七瀬「 …. / ギロリ 」
私「 すみません、すぐ行きます 」
七瀬「 的場もだよ、無駄に濡れやがって 」
的場「 あぁ、すみません 」
的場「 では行きましょうか、伊吹 」
私「 …. 」
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私「 何故、私だと分かったんです?」
的場「 何メートル先の相手を判断する視力など私にはありませんよ 」
的場「 妖怪だったら祓うし、人間だったら話を聞くまででした 」
的場「 まぁ、初めは単なる自殺志願者かと思いましたが / クス 」
私( 自殺志願者….?)
的場「 いつからあんな表情をする様になったのです?伊吹 」
私「 ….さぁ、いつからでしょう 」
的場「 まぁ、話は後で聞きます 」
的場「 あがったらここで待っていて下さい 」
静司は休憩用の椅子を指さした
私「 …. 」
的場「 では、また後ほど 」
私「 はい 」
・
・
・
数分経っただろうか
私はお風呂に行ったフリをして入口の壁に寄りかかっていた。
私( 逃げるなら今、だよね )
私「 スッ…. / 顔を出す 」
的場「 …. 」
私「 ! / ビクッ 」
的場「 まだ入ってなかったんですか?」
私「 そっちこそ…. 」
的場「 ….酷いクマですね、最近寝れてないのでは?」
静司は私の頬を両手で優しく包む
的場「 ….何かあったのですか?」
私「 言えません 」
的場「 何故?」
私「 ….何なんですか、全て知っている癖に 」
的場「 なんの事やら / クスッ 」
私「 静司! 」
自分から出た声にハッと我に返る
つい、声を上げてしまった
周囲の人が驚いたように私たちを見る。
七瀬「 おい、何を騒いでいるんだ 」
私「 ….すみません 」
七瀬「 ほら、着替えだ。早く入ってきな 」
私「 ….はい 」
的場「 では、また後ほど 」
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私は大浴場のお湯に浸かりながら思考を巡らせる
私「 …. 」
神ワタリ様の素性を他者に知られてしまうと、記憶を消されてしまう。
あの儀式の日、私の正体に気づいた静司は記憶を消される寸前だった
私との記憶を__。
何故 あの後、静司の記憶が消されなかったのかは私には分からない。
ただ、もう一度がないことは分かる
私が神ワタリ様だと知られてはいけない
だから、私は関わりたくなかった
彼だけに構わず 七瀬さんや周一さん、和田さん達に。
これ以上、迷惑をかけたくなかった。
私に守る人がなくとも、守りたいモノはある
孤独に耐えることができたのは “ 記憶 ” のおかげだったから。
消されるのは私だけでいい
私( それなのに、静司は…. )
私「 はぁ 」
?「 ふふふ、恋人と喧嘩?」
私「 へ?」
私は声のする方に振り向く
すると、70代と見える女性がこちらを見ていた。
?「 さっき入口で喧嘩していたわね 」
私「 すみません、騒がしくして…. 」
?「 いいのよいいのよ!彼氏に何かされたの?」
私「 か、彼氏 ….?」
?「 あら?違うの?」
私「 彼氏じゃないです….!友人です!」
?「 最近の子はすぐ誤魔化すんだから ~ 」
私「 ほ、本当です!静司は….!」
私( 友人__? )
私「 …. 」
?「 どうかしたの?」
私「 ….少し、悩みというか、分からないことがあって 」
?「 私でよければ答えるわよ 」
私「 …. 」
私「 私が悩んでいたら、彼は一緒に悩みたいと思うものでしょうか….? 」
?「 そりゃあ、友達が困っているなら誰だって助けたいものよ 」
?「 私だって、今アンタの相談に乗ってるでしょ?」
私「 ….!」
?「 心配しなくても、困ってたら誰かがきっと助けてくれる 」
?「 アンタもまだ若いんだから!ビシッと胸張りな!」
私「 ….はい / ニコッ 」
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私は髪を乾かし、休憩用の椅子へ向かう
そこにはまだ見慣れない姿の静司がいた。
的場「 おかえりなさい、湯加減はどうでしたか?」
私「 気持ちよかったです 」
的場「 それは良かった、夕食は19時からバイキングを…. 」
私「 静司 」
私はいつもより声を落として名前を呼ぶ。
表情を読み取ったのか、彼も目つきが変わった
的場「 はい 」
私「 ….さっきは声を上げてごめんなさい 」
私「 少し悩んでいることがあるの。相談に乗ってくれませんか 」
的場「 ….勿論 」
友人の為なら喜んで__
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友人という繋がりの糸が広がり、
︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎異端なアクシデントが続出 ….!?
“ 独りで悩み果てていた “︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎伊吹
” 友人と悩み、頼られたかった “︎︎ ︎︎︎ ︎︎︎ ︎的場
的場の意図に気づいた伊吹は全てを話す決心をする
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コメント
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話すんだ伊吹ちゃん! でも記憶とかどうするんだろう、?続きが気になる!!