テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
築留(ちくどめ)工業高校に激震が走りました。あの「モテない人生」を爆走していた怜也に、人生最大の、そして最悪(?)の**「モテ期」**が到来したのです。
きっかけは、実習棟裏での些細な出来事でした。
覚醒の優しさと、ざわつく校内
その日、怜也は放課後の掃除中、他クラスの女子生徒が重い溶接機材を運ぶのに苦労しているのを見かけました。
「あ、それ……重いよね。僕が運ぶよ」
怜也にとっては、息をするのと同じくらい自然な親切でした。彼は機材を軽々と(工業高校での鍛錬の結果)運び、彼女が指に小さな傷を作っているのを見ると、ポケットから絆創膏(茜に無理やり持たされていた可愛いキャラもの)を出して手渡しました。
「これ、使って。……じゃあ、お疲れ様」
少し照れ臭そうに微笑んで去っていく怜也。その「圧倒的な不器用な優しさ」に、助けられた女子生徒は雷に打たれたような衝撃を受けました。
「……何、あの人。超絶イケメンじゃないけど、雰囲気が……聖母?」
噂は光の速さで駆け巡る
翌日から、怜也を取り巻く空気が一変しました。
「ねぇ、あの二組の長島くん、知ってる? 超ギャルの茜ちゃんがベタ惚れで、あの怖いものなしの由奈ちゃんが付きっきりでガードしてるっていう……」
「相当な『隠れ名君』らしいわよ。優しさの塊だって噂!」
工業高校という女子が極端に少ない環境において、**「学園トップクラスの女子二人が奪い合っている男」**という事実は、最高の付加価値(ソーシャルプルーフ)となりました。
「長島くん! これ、昨日のお礼……チョコ、食べてくれる?」
「長島先輩! 実習のレポート、教えてもらってもいいですか!?」
廊下を歩けば呼び止められ、下駄箱には手紙が入り、休み時間には他クラスの女子が覗きに来る。怜也の「女子怖いトラウマ」を刺激するには十分すぎるほどの猛攻でした。
「ひ、ひぃぃ……! 何、何が起きてるの!? 怖い! 誰か助けて!」
茜の焦りと、由奈の爆発
この状況に、黙っていない二人がいました。
「ちょ、ちょおー! マジであり得ないんだけどー! 何これ、あーしの怜也きゅんが、知らない女に囲まれてるー! 詰んだー! 完全に詰んだわー!」
茜は金髪を振り乱し、ギャル特有のハイスピードな動きで怜也の前に立ちはだかりました。
「みんな、どいてどいてー! 怜也きゅんはあーしのなの! 今から二人で激辛デートの打ち合わせすんの! 邪魔したらマジで激おこなんだけどー!」
茜は怜也をぎゅーっと抱きしめ、周囲を威嚇します。しかし、今回のモテ期は茜のガードすら突き抜ける勢いでした。
「……長島くん、今、鶴森さんと付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
他クラスの女子が冷静に突っ込むと、茜は「ぐぬぬ……」と絶句しました。
そこへ、背後から**「ドォォォォン!!」**と壁を叩く音が。
「……おい。誰が怜也を囲んでるって?」
殺気立ったオーラを纏った由奈が登場しました。彼女の手には、なぜか実習用の大きなレンチが握られています。
「怜也。あんた、調子に乗ってんじゃないでしょうね。……この鼻の下伸ばした顔、鏡で見てきなさいよ」
由奈は怜也の首根っこを掴んで自分の方へ引き寄せると、周囲の女子たちを鋭い眼光で射抜きました。
「悪いけど、こいつは昔から私の『所有物』なの。変な虫がつかないように、私が一生監視し続けるって決めてんのよ。……文句ある奴は、表に出なさい」
「ひぃ……! やっぱり高知さんは怖い!」
「逃げろー!」
女子たちが蜘蛛の子を散らすように去っていく中、怜也はガタガタと震えていました。
幸せな修羅場、加速中
「……怜也きゅん。あーし、決めたわ」
茜が潤んだ瞳で怜也を見上げました。
「もう、あーしの気持ち、『マジで好き』のレベル超えて『尊すぎて無理』まで来ちゃった。これからは24時間、GPSつけて監視してもいーい? やばくなーい?」
「良くないよ!!」
「あんたもよ、鶴森。……怜也、分かった? あんたは大人しく私と鶴森の間で縮こまってればいいの。……勝手にモテてんじゃないわよ、バカ」
由奈は真っ赤な顔で怜也の腕を強く握りました。
怜也は、右手に茜の柔らかな温もり、左手に由奈の力強い絆を感じながら、空を仰ぎました。
(……モテ期って、もっと楽しいものだと思ってた。これ、ただの『命がけのサバイバル』だよ……!!)
「ちょ、怜也きゅん! 今日の放課後は激辛麻婆豆腐10倍で、あーしへの愛を証明してもらうにゃん!」
「私も行くわ。あんたが激辛で苦しむ姿を動画に撮って、弱みを握ってやるんだから」
「うわあああ! もう勘弁してくれええ!」
怜也の平和な工業高校生活は、最高の「モテ期」という名の、最も騒がしい「修羅場」へと進化を遂げるのでした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!