テラーノベル
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幸いにも学校の隣がコンビニで、そこでサンドイッチとカフェオレを買って学校に戻った。
明日はちゃんとお弁当を作って行こう。
あの事務室の雰囲気が初日にもかかわらず苦手で、私は事務室に戻らず体育館裏にベンチがあるのを見つけて、そこでサンドイッチを食べることにした。
体育館の中からは運動部の生徒たちの賑やかな声が聞こえてくる。
サンドイッチのラップを外して、ひとつ取り出しパクリとかぶりついた。
初日からいろいろあり過ぎて疲れたな……。
もう辞めたい……。
でも生活があるからそんなこと言ってられないし。
私はサンドイッチを食べながら空を見上げ、大きな溜息をついた。
「あれ?姫ブーじゃね?」
私の斜め後ろから、男性の声が聞こえてきた。
えっ?
空を見上げていた顔を戻す。
てか、何でそのあだ名を……。
あの頃の、高校生の頃の嫌な記憶が蘇る。
「やっぱ姫ブーじゃん!」
誰かが私の横に立っていた。
そちらにゆっくりと向き、顔を上げていく。
白衣を着た男の顔を見て声にならない驚きがあった。
笑顔で私を見下ろしている男。
な、なんでいるの!?
「お前、なんでここにいるの?」
いやいや、それはこっちのセリフですが?
最も再会を喜べない人に再会するなんて……。
最悪。
何年も会ってなくてもヤツが誰なのか、すぐにわかったくらいだ。
「黒崎先輩こそ、なんでここにいるんですか?」
「ん?俺?」
高校時代のふたつ上の部活が一緒だった先輩。
黒崎拓真(クロサキ タクマ)
高校時代はイケメンだと周りからチヤホヤされて、モテまくりで、チャラくて。
私はこの男にいい思い出なんかなく大嫌いだった。
それは今でも。
黒崎先輩は私の隣に座ってきた。
私は横に体を少しずらす。
「俺、ここで理科の先生してるんだよ」
えぇぇぇ!!!
この男が教師だぁ?
ありえない、ありえない……。
絶対にありえない。
こんな男が聖職だなんてありえないって!
みんな騙されてる。
「へ、へぇ……」
黒崎先輩は私の隣に座ってきた。
私は横に体を少しずらす。
「俺、ここで理科の先生してるんだよ」
えぇぇぇ!!!
この男が教師だぁ?
ありえない、ありえない……。
絶対にありえない。
こんな男が聖職だなんてありえないって!
みんな騙されてる。
「へ、へぇ……」
「で、お前は?何しにここにいるの?」
「今日から事務員で……」
「お前が事務?てか、なんで今頃?」
黒崎先輩はそう言ってケラケラ笑う。
「派遣なんです。なんで今頃って私も知りませんよ」
もう、早くどっか行ってよ!
「で、お前は?何しにここにいるの?」
「今日から事務員で……」
「お前が事務?てか、なんで今頃?」
黒崎先輩はそう言ってケラケラ笑う。
もう、早くどっか行ってよ!
「てか、お前、昔から変わってねぇな」
黒崎先輩はそう言って、白衣のポケットをガサゴソ探るとタバコを取り出した。
「これでも10キロ痩せたんですが?」
アナタに散々バカにされたからね。
「そうなんだ」
黒崎先輩はクスクス笑うと、タバコを咥えて火をつけた。
「ちょっと今食事中なんでタバコやめてもらえます?てか、校内禁煙なんじゃないんですか?」
「生活指導のババアみたいなこと言うなよ。ここは喫煙する先生方の唯一の喫煙場所なの。秘密の場所みたいな?」
「ふーん……」
まぁ、私は派遣だし、タバコは吸わないから関係ないけどね。
黒崎先輩が怒られようがクビになろうが。
「てかさ、お前、昼メシこんだけで足りるの?」
「はっ?」
「ほら、高校ん時はデカイ弁当箱だったじゃん?」
まぁ、確かに高校の時はデカイ弁当箱だったけど。
てか、今そんなこと言わなくても良くない?
本当に昔から変わってないよね。
人を見下したその態度と性格。
「昔の私とは違うんです!」
「それは失礼しました」
黒崎先輩は笑いながらヘラヘラとそう言った。
携帯灰皿に短くなったタバコを押し付ける黒崎先輩。
ベンチの背もたれに背中を押し付け、空を見上げる黒崎先輩の横顔をチラリと見た。
綺麗な顎のライン。
少し長めの黒い髪。
筋の通った鼻、男性にしては色白な肌。
整ったイケメンな顔なのに性格は残念なんだよね……。
「なんで夏休みなのに仕事しなきゃいけねぇんだろうな?」
黒崎先輩はそう言って私の方をチラリと見た。
「それは学生じゃないからじゃないですか?」
「そんなことわかってるよ」
「じゃあ、聞かないで下さい!」
「お前はいいよなぁ」
「はっ?」
「お気楽な派遣社員でさ」
はぁ?
何も知らないくせに!
そんなこと言わないでよ!
私は残ったサンドイッチを黙々と食べ、カフェオレを飲み干し、ゴミをコンビニ袋に押し込んだ。
そしてベンチから立ち上がる。
こんなとこってか、この人と1分1秒も一緒にいたくない。
「もう戻るの?」
「お気楽な派遣社員は戻ります!」
私はそう言って、ゴミの入ったコンビニ袋を黒崎先輩に投げ付けた。
「……って!」
コンビニ袋が黒崎先輩の頭に当たった。
地面に落ちるコンビニ袋を黒崎先輩が拾い上げる。
「それ、捨てといて下さいね!」
「何だよ、それ。人使い荒いな」
私は黒崎先輩を無視して、カツカツとヒールの音をワザと大きく鳴らしながら歩いた。
「なぁ?姫ブー?」
だーかーらー!
私は黒崎先輩の方に振り向く。
「昔のあだ名で呼ばないで下さい!」
「いいだろ?別に。それより今日暇?」
「だったら何なんですか?」
「飲みに行かね?お前の歓迎会してやるよ」
「はぁ?結構です!」
「17時に校門前で待ってて?」
「行きませから!」
私はそう言って、黒崎先輩に背を向けると更に大きくヒールの音を鳴らしながら教職員の下駄箱に向かって歩いた。
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