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「それでさっそくだが、私から一つ提案があるんだ」
笑顔から急にまた真顔になって、そう口にした父に、なんだろうと彼と顔を見合わせた。
「提携後の一番最初の企画は、彩花が作ったオリジナルブランドの香水にしたい」
父の言葉に、「ええー?」と、驚く私を尻目に、「それは、いいですね」と、彼が賛同をした。
「で、でも貴仁さん、その香水って……」
モデルにしたのが他ならぬ彼自身でということを思い、気恥ずかしくもなっていると、
「貴仁君をイメージしたメンズトワレなのだから、尚更ぴったりだろう」
自分の口からはもじもじとして言い出せずにいたことを、父があっさりと暴露してしまった。
「もう~お父さん……」
当の彼の前でと、赤面をする私に、
「私をイメージしてなのか、うれしいな」
柔らかな笑みが向けられる。その笑みに、一瞬で心が凪いで、この人と共にいられる幸福感に満たされていく。
(そのトワレは、オリエンタル・プリンスって云うんですよ。まさにソフトな笑顔で私を包むあなたに、すごく似つかわしいでしょ)
心の中でそう呟いて、すぐそばにいる私の王子様に、テーブルの下でそっと手を重ねた──。
お父さんヘ妊娠を知らせてからしばらくして、源治さんにも、貴仁さんと共にその事実を伝えたところ、
「それは、大変に良うございましたね!」
そう手放しに喜んでくれた。
「それでは今日は、住み込みの者たちへ声をかけて、シェフにお祝いの晩餐を用意してもらいましょうか」
既にじっとしていられない様子で、いそいそと話を広めに行こうとする源治さんに、喜んでくれるのはとてもありがたいのだけれど、まだ出産前でもあり、あまり早まらないでほしいかもとちょっとためらっていると、
「待たないか」と、彼が代わりに引き止めた。
「源じい、そう大事にしては、彼女の負担にもなるだろう。それに以前には森本さんのようなこともあったんだ。だから子供が生まれるまでは、しばらく見守っていてほしい」
私の気持ちを寸分たがわずに代弁してくれた彼に、源治さんと揃って大きく頷いた。
「……ああ、そうですよね。承知しました。ならば祝宴もお子さまのお誕生まで、心待ちにしましょう」
胸に片手を当てて恭しく頭を垂れた源治さんが、
「誠におめでとうございます。以前にお話しをしたように、『お子さまが増えたら、もっとにぎやかにもなりますね』という言葉が、現実になりまして、源じいは、とてもうれしゅうございます」
再び喜びを噛みしめるようにも口にして、その顔を上げると、目に薄っすらと嬉し涙が滲んでいるのが窺えた。
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