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#NL
瀬名 紫陽花
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「まさか、関係ない人間をわざわざ巻き込んで――俺の可愛い穂乃果をハメて、キズモノにしようとしてたんじゃないだろうな?」
(え……? え、嘘……、誰……?)
ナオミの胸に顔を埋めたまま、穂乃果は恐怖とはまた違う、激しい混乱で心臓を早鐘のように乱れ打たせていた。
耳元で響くのは、鼓膜の奥をじりじりと震わせる、信じられないほど低くて重い『男』の声。地を這うような凄まじい威圧感と、肌を刺すような冷酷なまでの拒絶のオーラ。
――この人は、本当に自分の知っているナオミなのだろうか?
いつも「やぁねぇ」と笑って、美味しいお酒を淹れて、私のくだらない愚痴を優しく受け止めてくれた、あのあたたかいママとは爪の先ほども似ていない。口調も、目つきも、まとう空気も、まるで全然違う、どこかの冷徹な支配者のようで――。
(全然、別の人みたい……っ)
あまりの変貌ぶりに眩暈さえ覚えながら、穂乃果はパニックになる頭で、ただナオミのパジャマの胸元をぎゅっと、引きちぎらんばかりの力で掴むことしかできなかった。
「な、何のことだか分かりません! というか、健司さんはなんで此処に?」
あまりの威圧感に気圧され、顔を引きつらせながらも、里奈は必死にしらばっくれようと声を上振れさせた。その期に及んでもなお、自分が仕掛けた悪事がどれほど悍ましい領域に足を踏み入れていたのかを理解していない、あまりにも愚かで醜悪な保身の笑顔だった。
「気安く名前を呼ばないでくれる? ――俺が何でここにいるかなんて、どうでもいいだろ」
ぴしゃりと冷酷に言い放つナオミの手が、ぎりっ、と骨の軋むような不穏な音を立てて固く握り締められる。怒りで肉体を震わせる彼の拳の音に、床に這いつくばっていた加藤が「ヒイッ」と情けない悲鳴を上げてさらに縮こまった。
「そんなことより、アンタのその手にあるスマホ……。何を撮るつもりでそこまで用意周到に構えてたわけ? ――俺の大事な人に、何しようとしてた」
逃げ道を完全に塞ぐような鋭い問いかけ。
普段の『ナオミ』としての柔らかさは微塵もない、完璧なまでの『男』の気配が、容赦なく室内の空気を支配していく。
(い、今。俺の大事な人って言った? それにさっきも可愛いって……)
そんな場合じゃないのは分かっている。
けれど、さっき彼が口にした言葉と自分を守ろうとしてくれている圧倒的な『漢』の熱量が脳裏に激しくリフレインして、こんな最悪な状況だというのに、耳たぶまで熱くなってしまう。
「わ、私はただ、動画を見てただけで……。人聞きが悪い事言わないでくださいっ」
ナースコールで呼び出された穂乃果が加藤に襲われる凄惨な現場――それを撮影して弱みを握るつもりだったなど、目の前の『織田健司』の冷酷な眼差しの前で白状できるはずがない。
「ふぅん? ねぇ、穂乃果。この病院のナースはコール対応に来る時まで動画を見ながらやって来るの?」
「い、いえ……。そんな事はしないです」
「だよねぇ。じゃぁいいわ。アンタのそのスマホ見せて? 動画を撮っていないってんなら今すぐ出して」
「それはプライバシーの侵害です! なんで見せないといけないんですか! だいたい、健司さんはなんでこの女を庇うんですか!」
「うっせぇな。アンタが動画を撮影してないって言う証拠。見せなさいよ……だいたい、穂乃果は俺のモンだって言ってるでしょうが」
スマホの目的を完全に言い当てられ、言い逃れができないと悟った里奈は、恐怖と焦りで顔を引きつらせながら、狂ったようにヒステリックに叫んで話題をすり替えた。