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「家はあるでしょ?家」
「ない。彩はかわをわたっててんにのぼった」
「は?なにを?」
「おじちゃんもでしょ?」
なにを言ってるこの小娘は!俺はそう心のなかで叫ぶ。
「俺は三途の川を渡ってないし天国にも逝ってない!」
「でも、しんだひとはかわをわたっててんにのぼるってパパがいってた。だってパパおぼうさんだもん!」
お坊さんだったらそんな事言うか?三途の川はいいものの天国は違くないか?いや子供に教えるためわかりやすく言ったのかもしれない。俺はそう解釈し、またこの子に質問する。
「とりあえずおじさんは死んでないから」
「ええ?…おじちゃんのおなまえは?」
「ん?俺の?まあ荒木宏斗(あらきひろと)」
「アキラヒトロ?」
「あ?違うって荒木!宏斗!」
「!!!荒木宏斗!!!」
「なんだよ!急に人の名前叫んで」
やれやれ。俺はそう思いながら女の子の雑談に付き合った。
まだあの事を知らなかったから。
「彩をたすけてくれたバスのうんてんしゅ。でもしんじゃった」
「は?」
「荒木はしゅうてんへいくとき、こうさてんでしろいじょうようしゃとぶつかった。そのとき、しんだ」
「俺はこのとおり生きてる。戯言をいうな。勝手に人を死なすな」
「ほんとうに!ほら!」
女の子は俺にとある記事の写ったスマホ画面を見せてきた。そこには「〇〇交差点で市営バスと乗用車が衝突。バスの運転手は心肺停止。」そうかかれていた。
「…?は…は…?冗談だろ?」
子供がスマホを持っていることに驚いたもののそれを上回り、その記事の内容に驚いた。冗談。そう信じたくて俺はわざと口角を上げる。いや自然と上がったのかもしれない。
「だっておじちゃん、ほっぺたたいたとき、いたくなかったでしょ?」
「あ…あぁ…」
信じたくない。生きていたい。俺は耳をふさぎたくなる。いつの間にか目から涙が出てきた。俺はその場で膝をついた。
「おじちゃん?こわいの?どしたの?」
「おじさん、死んだのか?」
「うん…。彩といっしょに」
「君と一緒に?」
「うん!」
「君、このバス乗ってたの?すまないね。未来ある子を死なせてしまって」
「ちがうよ!彩は…彩は…そこをあるいてただけ…」
「ごめん…本当に…すまない…」
ーーーーー<現実世界>ーーーーーーーーーーーーーーー
ニュース番組中継
男性アナウンサー「どうやらバスの方が信号を無視し、ええこの白い乗用車とぶつかったようです。このバスの運転手は先程、21時30分頃に亡くなったということです。バスの乗客5名ほどは軽症重症等負いながらも命に別状はないということです。ええここで速報が入ってきました!乗用車に乗っていた女性の死亡が確認されたということです。こちらからは以上です」
女性アナウンサー「この事故に巻き込まれた谷杉彩ちゃんが亡くなったということでしたが他にこの事故に巻き込まれた方というのはいるのでしょうか?」
男性アナウンサー「そうですね。今のところはいないようです」
女性アナウンサー「はい。原田アナウンサーありがとうございました。また後ほどこの事故に関してお伝えします。」
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俺は確かに信号が赤の時にアクセルを踏んでしまったのかもしれない。俺は俺の方から家族を嫌っているし家族の方からも俺を嫌っている。今日生きて帰っても離婚届をかいているかもしれない。でも俺はそれにサインするだろう。躊躇(ちゅうちょ)無く。だって双方が嫌っているから。妻子だけじゃない。俺には親がいる。妹がいる。でもそいつらもいい印象じゃない。父は早くに死に、母はアルコール依存。妹は精神病を患っている。俺の周りは酷い。俺は一人で解放されたかったのかもしれない。だからあの時、大勢を巻き込んで俺個人の意思で事故を起こした。俺は…俺は…大勢を死なせた極悪人だ。
「彩、おじちゃんとであえてたのしかった。いろんなかいわしたし、いろんなふざけあいっこした」
「俺はそんな人間じゃない」
女の子は俺の気持ちを悟ったかのように話す。
「おじちゃんはほんとうはいいひとだよ?だって彩ひとりのために彩のはなしをきいてくれた。ほんとうはやさしい」
「は…彩ちゃん…」
俺の目から涙が溢れてくる。
「おじちゃん…?」
「なんでもない。ごめんね彩ちゃん」
俺は涙を拭い女の子の顔を見て言った。
真っ暗の夜の中ひときわ輝くバスの中で一人の女の子と一人の男はあの世への迎えが来たようだった。