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「なんだ、男がいるんじゃねーか」
蒼さんが声をかけた瞬間、彼らはすぐ諦めてくれ、反対側へと歩いて行った。
「蒼さん、どうしてここに?」
「ああ、実は……」
蒼さんが言葉を発しようとした時
「蒼!なんであんたここにいるの!?」
ジュースを持った遥さんが現われた。
「姉ちゃん……。俺は……」
「あらぁ。偶然じゃない?」
その時、聞き覚えのある声がした。
この声、蘭子ママさんだ。
蘭子ママさんを見る時はいつも着物だし、男の人の服装、初めて見るから少し違和感を感じたが、すぐわかった。
改めて四人でオープンスペースになっているフードコートのイスへ座る。
「実はね、ここのチケットを貰っちゃって。どうしても行きたかったから、蒼を誘ったの」
と蘭子ママさん。
「偶然。私もそうなんだ」
遥さんが答える。
私と蒼さんは無言のままだ。
「良かったら、このまま四人で遊びましょう?って言っても、もう時間だし、次が最後のアトラクションになっちゃうかもだけど……」
蘭子ママさんが提案をしてくれた。
「良いわね!そうしましょう」
遥さんもノリノリだ。私も嬉しい。
なかなか四人で遊ぶことなんてできないし。
蒼さんはどう思ってるんだろ、チラッと見るとなんだか不機嫌そうだった。
どうしたんだろう。蘭子ママさんと二人が良いのかな。
「じゃあ、私。最後にあの観覧車に乗りたい!」
遥さんが指を差す。
「いいわね。行きましょう?」
蘭子ママさんが立ち上がる。
私も二人について行こうとしたが、蒼さんだけ無表情だ。
「蒼さん、ごめんなさい。蘭子ママさんと二人の方が良かったでしたか?」
私が二人に聞こえないようにコソっと話しかけると
「ああ。ごめん。ちょっと考え事してて。そんなことないよ。心配かけてごめんな?」
フッと笑って私の頭を優しく撫でてくれた。
あ、いつもの蒼さんだ。
四人で観覧車の列に並ぼうとすると
「ごめん!ちょっと旦那から電話」
そう言って遥さんがその場から離れた。
「あらぁ。私も電話が……」
蘭子ママさんも誰かから電話があったらしい。
遥さんの後を追うように、いなくなってしまった。
蒼さんと二人きりになる。
しばらく待っていたが、二人が帰ってくる気配はない。
もうすぐで閉園時間になっちゃう。
遥さん、観覧車に乗りたいって言っていたのに。
ふと、私の携帯が鳴った。
着信相手を見ると、遥さんだった。
何かあったのかな?
「はい?」
その場で電話に出た。
<桜、ごめん。ちょっとゴタゴタがあって……。観覧車、間に合いそうにないの。だから、蒼と二人で乗って?>
「えっ!?遥さん、何かあったんですか?」
<大丈夫よ。せっかくの機会だから、蒼に自分の気持ち、伝えてみれば?>
「えええええ――!!」
大きな声を出したら、蒼さんが「どうした?」と心配してくれている。
「すみません」
一言返事をし、会話の内容を聞かれないように蒼さんから離れた。
「でもっ!」
<そのシースルーの観覧車に乗って、一番高いところで告白をすると叶うらしいわよ!>
「えっ?そうなんですか?」
そんな話、知らなかった。
<私も今の旦那にそこで告白したの。だから本当よ!>
遥さんが言うなら本当なのかな。心の準備が全然出来ていないよ。
「あの……」
<あとは桜次第だから!じゃあね!>
一方的に電話が切れてしまった。
どうしよう。答えが出ないまま、蒼さんのところへ戻る。
「なんだって?」
「あの、ゴタゴタがあって観覧車に乗れなくなったから、蒼さんと一緒に乗って来てって……。言われました」
蒼さんは私と一緒に乗ってくれるかな。
「そっか。蘭子さんも戻って来なさそうだしな。どうする?桜は乗りたい?」
私は、緊張で心臓が飛び出そう。
告白なんて絶対無理!でも遥さんが言ってくれた通り、せっかくのチャンスだし。たぶん、蒼さんと一緒にいたらもっともっと好きになっちゃう。
その前に自分の気持ちに区切りをつけた方が良いのかな。
「嫌だったら、無理に乗らなくて良いよ。どこかでご飯でも食べて帰ろうか?」
すぐに返事をすることができない私に、蒼さんは優しく聞いてくれた。
「私っ!乗りたいです!あの透明な方が良いです!」
「うん。なら一緒に乗ろうか?並ぼう」
「はい!」
一歩一歩観覧車の列に近づく。
深呼吸を何度も繰り返す。緊張で頭が真っ白になる。
なんて伝えよう……。
好きです!って言って……。それで……。
ずっと友達でいて下さい!でいいかな。
蒼さんとは、フラれても友達でいたい。
そんなことを考えていたら
「桜、次だよ?」
「あっ、はい!」
「大丈夫?さっきからなんか変だけど……。具合でも悪いのか?」
「違います!」
蒼さんと話していたら
「はいっ、次の方どうぞー!」
係員さんが観覧車のドアを開け、誘導してくれた。
うわぁ。すごい。本当に透明だ!
「じゃ、乗ろうか?」
蒼さんが手を差し出してくれ、
「はいっ!」
その手を握り、観覧者の中へ。
「では、閉めますー!」
係員さんがドアを閉めた。
観覧車はゆっくりと上昇していく。