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#探偵
橘靖竜
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紗良にゃん
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38
如月 未澄斗
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バスを降りた堀口は、その足でビスタへ向かった。
正式な解雇通知を受けたわけではない。
まだ、わずかな望みは残っている。
そう信じて、事務所へ行くつもりだった。
「吾妻常務……」
堀口は勇信の名をつぶやき、田舎道を歩いていく。
あの方ならきっと、私の意図をわかってくれるはずだ。
常務。
私はただ、故郷を豊かにしたかっただけです。
神に誓って、不正など行っておりません。
どうかお願いします。
企画書に込めた純粋な情熱に、お気づきください。
企画書さえ読んでいただければ、私がどのような気持ちで仕事に取り組んできたか、きっとわかっていただけるはずです。
あの日、私と常務は秘密基地ビスタにいました。
私はあの日から、何も変わっていません。
ただ純粋な心で、自分が見つけたものをあなたにお見せしただけなのです。
どうか、お気づきください。
どうか……。
吾妻建設、ビスタプロジェクト建設事務所。
「お待ちください」
堀口が入り口に現れると、すぐに警備員が遮った。
いつもは元気のよい挨拶で社員を迎える警備員だった。
しかし今は、まるで別人のように冷ややかな表情を浮かべている。
——この犯罪者め。
言葉が雑音のように耳に届いた。
その音は、警備員が放ったものではなかった。
しかし堀口の耳には、明確な言葉として鳴り響いた。
「同行します」
警備員が言った。
エントランスを抜け、2階のオフィスへ上がっていく。
近くを通り過ぎる社員たちが、好奇の目で堀口を見ていた。
一夜にして、彼らは変わっていた。
軽蔑と嫌悪。
あるいは敵意。
その目が、針のように堀口の体を刺した。
「谷川所長はいらっしゃいますか」
階段を半分ほど上がったところで、堀口は警備員に尋ねた。
「いらっしゃいません。いても会えません」
どうして。
そう聞こうとしたが、それ以上会話を続けられる雰囲気ではなかった。
階段を上り、デスクのあるオフィスへ向かう。
中に入った瞬間、すべての音が消えた。
オフィスの全員が、堀口を見ていた。
長く一緒に働いてきた同僚たちが、遠くからただ黙って堀口を見つめている。
何度か一緒に飲んだ同僚に目をやった。
彼は堀口の視線を避け、デスクの書類をめくった。
「堀口さん。こちらです」
一度も言葉を交わしたことのない女性社員がやってきて、1枚のビニール袋を手渡した。
「これは」
「私物をこの中に入れてください。業務端末には触れないでください」
私情などまるでない、極めて事務的な口調だった。
ただ上司の命令に従い、マニュアル通りに動いているだけだ。
堀口は、彼女の立場を理解した。
「つらいお仕事をさせてしまい、すみません」
自分が発した言葉に、堀口は呆然とした。
どうして、こんなことを言わなければならないんだ。
「……」
女性社員は、一切の反応を見せなかった。
——この犯罪者め。
風が耳の中を吹き抜けた。
堀口はその風から逃れるように、自分のデスクへ向かった。
引き出しを開け、私物をビニール袋に入れていく。
カレンダー、ノート、ペン、ビタミンサプリメント、胃腸薬、頭痛薬、コーヒー、緑茶、懐中電灯、ビスタのロゴステッカー、妻と娘の写真……。
警備員と女性社員が、番犬のようにデスクのそばへ張りついている。
業務端末に触れさせないために。
これ以上の不正を起こさせないために。
監視の目。
軽蔑の目。
怒りの目。
あらゆる種類の目が、堀口に注がれていた。
「……終わりました」
多くの目を避け、沈黙が続くオフィスを出ようとした。
そのとき、ふと妻と娘の笑顔が脳裏に浮かんだ。
——ああ。危うく催眠術にかけられたまま去るところだった。
ただ静かに会社を去れという催眠術。
権力に抵抗したところで、誰も助けてはくれないという催眠術。
私は何もしていない。
催眠術から目を覚ますと、堀口は体を反転させた。
すべての目は、まだ堀口に注がれている。
「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。私は何もしていません。今日の件はすべて――」
うぐっ。
話し終えるより前に、強い力がのしかかった。
堀口は床に倒れ込んだ。
ビニール袋に入っていた私物が、床に散らばった。
警備員が背後から堀口をつかみ、引き倒したのだ。
馬乗りになった警備員が、堀口を睨んでいる。
「黙れ、この犯罪者が」
犯罪者。
何度も耳元を通り過ぎた幻聴が、実際の音となって届いた。
女性社員が、散らばった堀口の私物を拾っている。
まるでゴミでも拾うように。
「うぐぐ……」
馬乗りになった警備員の重みで、呼吸ができなかった。
堀口が苦しんでいるにもかかわらず、警備員はどこうとしない。
まるで彼が抱えていた個人的な鬱憤まで、そこに加えられているようだった。
解雇されて終わりではなかった。
現実は、それ以上に厳しかった。
ようやく警備員が立ち上がり、堀口は気道を確保した。
ゼェ、ゼェ、ゼェ……。
荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がると、大勢の社員たちが近くに集まっていた。
近所のボヤを眺める野次馬と同じ目だった。
「これ」
女性社員はビニール袋を手渡さず、床に置いた。
堀口は袋を拾った。
しかしその姿が、頭を下げて謝罪しているように思えて、腹のあたりが熱くなった。
「おまえのせいで、このオフィスが閉鎖されることになったんだ。この犯罪者め」
社員の誰かが、ついに声を上げた。
すると、シャンパンの栓が抜けたように、多くの社員たちが一斉に堀口を罵った。
「俺たちがどんな思いでビスタを作ってたか、わかってんのか!」
「おまえのせいで、俺たちまで犯罪者扱いされてるんだ! 責任を取れ、このクソヤロウ!」
「しそね町の人たちに謝罪しろ!」
かつての同僚たちは、一夜にして敵となった。
一度点いた火は、消える気配がなかった。
絶叫に近い罵詈雑言。
誰も堀口の弁明など聞く気はない。
彼らはただ、堀口を焼き尽くすための熱の塊にすぎなかった。
言葉ではどうにもならない。
どれほど抵抗したところで、最後に待つものは集団の暴力だと悟った。
「さっさと出ていけ」
警備員が、堀口を部屋から引きずり出した。
クソヤロウ。
正義を自称する集団の叫びが、堀口の鼓膜にこびりついた。
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