漂流する手紙
滑らかな潮風が髪をなびかせ、暖かな空気で眠気を誘う。一定の感覚で揺らす波音は子守唄のよう。昼寝でもしたい気分だが、辺りは象牙色の砂で充満し、横になれば自然と体が飲み込まれてゆくだろう。いっその事そのまま消えてしまおうか。それも悪くないかもしれない。
ゆらゆらと波の近くに寄ると、砂に埋まる小さなガラス瓶を見つけた。
古びた栓がしてあり、中には色あせた小さな紙が入っている。
中身を確認しようと栓を抜いた。栓は永らく海水に浸かっていたのだろう、簡単に外す事が出来た。最後の力をふりしぼり、手紙を護る使命を果たした。
四つ折りの手紙を開いてみれば、中身はこう記されていた。
「永遠に行先を知らず、海の中へとこの手紙は消えてゆくかもしれない。幸運な事に、この手紙が誰かの元へと届く事を祈り、送りたいと思います。本題ですがわたしは今、ある孤島に遭難しています。広々とした島なので、ここらの州では数少ないと思います。毎日火を起こしてはいる為、上空から探してもらえれば確認できると思います。わたしはまだ死にたくありません。どうか、命を救って下さい」
そうか。救助の手紙か。この者にとって、人の手に手紙が行き着いたのは幸運な事だろう。いや。悪かったのだろう。わたしも今、孤島で遭難しているのだから。
この者の状態を知る由もないが、わたしはいまから火を起こす事にしよう。
古びた栓に息を吹き返すよう祈りを込めて、ガラス瓶に蓋をし波へと帰した。