【山本視点】
世界でいちばん嫌いな貴方へ
世界でいちばん大好きなあの子と
キスしてください。
そうして俺は、棚を倒した。
「どうして…グスッ」
「!」
「!」
中野さんは泣いた。
世界でいちばん綺麗な涙を流して。
「俺が悪かった!俺が悪かったから!」
中野さんは泣き虫だ。
「うぅ…なんでそんなに酷いことするんですか…」
どう答えるべきか、分からなかった。
「嫌い…やから?うーん…『嫌い』じゃダメかな?」
全てわかっている北村先生は呆れた顔でこう言った。
「…とりあえず、退けてくれませんか?たな。」
それを言ったら、負けですけどね。
「んじゃ、キスしたら退けてあげますよ?」
ニコッと笑ってそう言った。
極悪人の顔にでもなっている気分だ。
「さっきしたけどな。」
北村先生の声で、空気が変わった気がした。
「えっ?」
中野さんまでも驚いていた。
嘘なのか
言うと思わなかったのかは分からないが。
「まじっすか?」
俺はなぜか胸が痛かった。
「棚が落ちて来たからちょっと唇が触れた…。」
何がしたいのか忘れるところだった。
「お、俺が見てなかったらノーカンです!!」
そう言うと、北村先生はボソッと何か言った。
「…生徒に危害は加えられまい。」
あなた、それでも男ですか?
胸同士が当たっているのに、
貴方のあそこと中野さんのあそこ、服の上からだけど、
当たっているのに、
こんなに可愛い子とキスしたのに、
なんで〈教師〉としてまだ息をしているんですか?
すかさず俺は、北村先生の性欲を煽った、子供のように。
「ほらほら早く〜!」
さすがの北村先生も怒ってはいた。
「💢…中野さん、もう一回泣いてくれへん?」
「えっ、えーっと…」
だけど、北村先生の性欲が爆発することはなかった。
「ずっとこのままか…」
北村先生は、少し顔が赤くなっていた。
チャイムがなった。
「あ、俺授業あるんで。また!」
心臓をバクバクさせながら、笑顔を忘れずそう言って、逃げるようにドアの前に行った。
「俺も授業あんねんけど!?………………はぁ。」
俺は廊下で隠れて二人の話を聞いていた。
「先生、次の授業どこですか?」
「三組やな…。…中野さんこそ、次の授業何?」
「数学です………」
北村先生は聞き直した。
「数学…?」
中野さんも聞き直した。
「三組…?」
やっと気づきました?
全部、俺が仕込んだことだって。
俺は、少し遅れて1組の教室に入った。







