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「第二章 銀河の旅路」続
雲の大地〈アルトリア〉
次に二人が訪れたのは、空に浮かぶ群島〈アルトリア〉。
この星には地面がなく、すべての土地が雲に乗って漂っている。
街の人々は鳥の羽を模した滑空具を背負い、島と島を渡り歩いて暮らしていた。
セレスティアは珍しくはしゃいでいた。
「こういう星、大好きなの。ほら、下を見て!」
眼下には、青と金色の雲海が広がっていた。
太陽が雲に反射して、まるで金粉を撒いたように輝いている。
しかし、観光気分は長くは続かなかった。
町の広場で、人々が慌ただしく鐘を鳴らし始める。
空の端から黒い影が近づいていた。
それは、無数の羽根を持つ巨大な蛇――〈空喰いのムラクモ〉。
雲の島ごと飲み込むと言われる伝説の存在だ。
セレスティアは滑空具を背負い、あなたに笑みを向けた。
「じゃあ、飛ぶわよ」
二人は風を切り裂き、空中で蛇と対峙した。
蛇の鱗の間にも、例の赤い結晶が埋め込まれている。
あなたは星剣を抜き、鱗の反射光を目印に一気に突っ込む。
セレスティアの星弾が蛇の動きを封じ、その間にあなたが結晶を砕いた。
蛇は苦しむようにうねり、やがて雲の海へと消えていった。
町の人々は英雄を見るような眼差しで二人を迎えたが、セレスティアはやはり笑わなかった。
「……やっぱり、誰かがこの結晶をばら撒いてる」
静寂の書庫〈エルガノス〉
さらに旅を続け、二人は漂流する巨大な書庫〈エルガノス〉に辿り着いた。
星の海をゆっくりと漂うその建造物は、外から見るとただの黒い岩塊だが、中は無数の光る書物で満たされている。
ここでは時間が異様に遅く流れ、外の一日が中では一週間に相当するという。
館の主は、人の形をした古代の自動書記人形だった。
彼は二人を奥の部屋へ案内し、古びた羊皮紙を差し出した。
そこには、赤い月と、それを中心に立つ銀色の巨人の姿が描かれていた。
「この絵は……」
あなたが息を呑むと、人形は無機質な声で答えた。
「過去の大破局の記録。赤月は千年前にも現れた。そして、その時――」
セレスティアが、突然その言葉を遮った。
「……十分聞いたわ。行くわよ」
彼女の声は硬く、背中の銀河の翼がかすかに震えていた。
あなたはその理由を問いかけようとしたが、彼女は一度も振り返らなかった。
赤月、再び
幾つもの星を巡るうち、夜空の赤い月はますます大きくなっていった。
最初は小さな点だったものが、今や空の半分を覆うほどだ。
港町の人々は月を指差し、不吉な祈りを捧げる。
獣も人も、月光を浴びると瞳が赤く染まり、理性を失っていく。
セレスティアは高台に立ち、月を睨みながら言った。
「このまま放っておけば……全銀河があの光に呑まれる」
そして、初めて彼女はあなたの目を見て言った。
「次の星域で……私の過去を知ることになるわ」
その声には、いつもの軽やかな調子はなかった。
冷たく、決意に満ちていた。