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ゆゆゆゆ
夜は静かだった。
重たいカーテンの隙間から、
赤い月光がわずかに差し込んでいる。
ベッドの上。
ノスフェラトゥは眠っていた。
長い黒髪がシーツへ流れ、
仮面を外した顔は珍しく無防備で、
呼吸だけが静かに上下している。
その傍へ。
スペクターは音もなく腰掛けた。
赤いシルクハットの影が、
眠る吸血鬼へ落ちる。
しばらく。
ただ見つめる。
眠っている時だけ、
ノスフェラトゥは少し幼い。
反抗も、
睨みも、
牙もない。
指先が頬へ触れる。
耳の付け根を指先でなぞる。
ノスフェラトゥの喉が、
小さく震えた。
起きない。
だが身体は反応している。
スペクターは微笑むと、
静かに顔を寄せた。
そして。
唇を重ねる。
最初は優しく。
熱を確かめるみたいに。
ノスフェラトゥの睫毛がわずかに震える。
だが。
スペクターは離さない。
むしろ、
さらに深く口づける。
吐息を流し込むように。
呼吸を奪うように。
「……っ」
眠っていたノスフェラトゥの喉が震える。
浅い息。
苦しそうに眉が寄る。
それでも。
スペクターは唇を離さない。
逃がさない。
ゆっくり、
じわじわと。
自分の熱を、
肺の奥まで満たしていくみたいに。
ノスフェラトゥの指先がぴくりと動く。
苦しい。
息ができない。
頭がぼうっと白くなる。
そして。
ようやく目が開いた。
赤い瞳。
涙で滲み、
焦点が揺れている。
スペクターはその顔を見て、
満足そうに微笑んだ。
「おはよう」
唇がほんの少し離れる。
その隙間で、
ノスフェラトゥは反射的に空気を吸い込もうとした。
「っ、は……」
だが。
スペクターの指が顎を押さえる。
逃がさない。
低い声が、
熱い吐息と一緒に落ちる。
「良い子だ、ノスフェラトゥ」
赤い瞳が細められる。
「君の肺を満たすのは、私の吐息だけでいい」
「……ッ」
ノスフェラトゥの背筋が震える。
次の瞬間。
再び、
激しく唇が重ねられた。
「……ぅ、っ……!」
今度は深い。
容赦がない。
息を吸う隙を与えず、
スペクターは自分の熱い吐息を、
無理やり流し込むみたいに口づける。
ノスフェラトゥは体を捩る。
肺が熱い。
頭が痺れる。
苦しいはずなのに。
身体のどこかが、
それを求めてしまう。
唇の端から、
小さく息が漏れる。
スペクターはそんな姿を見ながら、
さらにゆっくり、
支配するように口づけた。
呼吸を奪う。
思考を奪う。
肺の奥まで、
自分で満たしていく。
まるで。
“生きるための酸素”そのものを、
塗り替えるみたいに。
やがて。
唇が離れる。
細い糸みたいに、
熱が名残を引いた。
ノスフェラトゥは浅く喘ぐ。
涙目の赤い瞳が彷徨う。
口が、
魚みたいに小さく開閉する。
空気が欲しい。
でも。
何を求めればいいのか、
頭がうまく働かない。
スペクターはその顔を愛おしそうに見つめた。
そして。
親指で、
濡れた唇を撫でる。
「私の血が欲しいかい、ノスフェラトゥ」
その言葉だけで。
ノスフェラトゥの瞳が揺れた。
欲しい。
喉が焼ける。
さっきまで、
呼吸を奪われていたはずなのに。
今度は、
スペクターの血を求めてしまう。
ノスフェラトゥは掠れた声で呟く。
「……欲しい」
スペクターは笑う。
「いい子」
そのまま首筋を晒した。
白い肌。
脈打つ場所。
ノスフェラトゥは震えながらそこへ顔を埋める。
牙を立てる。
甘い熱。
スペクターの血が舌へ広がった瞬間。
「……ッ」
身体が震える。
まるで。
酸素。
溺れていた肺へ、
ようやく空気が流れ込んだみたいに。
スペクターの血が、
全身を満たしていく。
頭の奥まで痺れる。
熱い。
安心する。
ノスフェラトゥは縋るように、
スペクターの服を掴んだ。
もっと。
もっと欲しい。
スペクターはその髪を優しく撫でながら、
静かに笑う。
呼吸も。
渇きも。
安心も。
全部。
自分で満たされるようになっていく、
その姿を見つめながら。
コメント
1件
うわこれ…息するの忘れて読んでたわ。 「酸素」ってタイトルがもうエグい。肺の奥まで支配される感じ、文字でこれだけ伝わるのか。スペクターの「君の肺を満たすのは私の吐息だけでいい」、ガチで心臓掴まれた。ノス♡♡♡トゥが最初は苦しがってるのに、最後には血を求めて縋る流れ、依存的で背筋ゾワゾワした。支配と渇きが相互に絡み合ってて、読み終わったあと肺が熱い。めっちゃ好きです🔥