第0章 追放者
時は大乱戦時代。
それぞれの国同士の争いや、国内での反乱を総括する指導者がこの国の全てを治めている。
皆が1粒の危険物を呑み込んだように狂いだし、それを異常とも思わない。
まさに穢れた世界が蔓延していたのだ。
「君達は美しいよ、愛しの我が息子達よ。」
そしてまた、彼も僕達によって狂わされている。
「いい?カイリアス。貴方は俺らを絶対とするんだよ。俺らは表面上で貴方を慕い、敬愛し、何をするにしても貴方を基準にし、信仰する。当たり前だよね。」
「あぁ、アイゼアとヘイズンこそが私の全てだ。」
耳を塞ぎたくなるような大きな叫喚とヘイズンの思惑が含む笑顔。
世界はどのような結末で終え、狂った終わりの惨劇はどのくらいの悲惨さになるのか。
それはまだ分からない。
第1章 聖愛者
【ライアス帝国―西暦800年にミシェルア一世によって造られたこの世で最も強大な国。】
そう記され、模倣された新帝国定理・定義本には何かが足りなかった。
ピースの一部が放棄されるのを見るといつも胸が突き放されている気分になる。
「アイゼア様はいつも一人でいらっしゃるのですね。ヘイズン様は社交界に顔を出しておられますのに。」
大聖堂に居る一人の清教徒が僕に尋ねる。
「ヘイズンは、他人と関わるのが好きだから関わっているだけだよ。僕とは対照的だと言いたいの?」
ローブを被っているその男は振り向いて言う。
「そういうことかもしれません。同じ環境に育ってきたというのに何故性格が大いに違うのかと気になっていたのです。あぁ、そうだ。カイリアス様がその人体実験をされたそうです。」
何かをただ熱心に熱望し、それを追い求めている彼の瞳は寂寞だけが感じられる。
「あの人がそんな事をしてたなんて意外だったな。父親としての役目は全うしないくせに。君もそう思うでしょ。」
「あのお方はこのライアスに必要な方です。ですがアイゼア様にとって必要な方とは限らないのでしょう。」
心理学通りの事を当たり前のように言い、僕を軽んじる彼は違和感の塊であった。
「….君とはどうも性格の不一致が常に生じてしまうな。もういいよ、ヘイズンを呼んできて。」
「かしこまりました。」
大聖堂の中に響く足音が僕の横を通り過ぎていく。
一人の静寂感溢れる此処は僕の心のピースを埋めてくれる気がする所だった。
言葉に言い表せないほど繊細なもので神によって享受される。
「アイゼア、何か用?」
息を切らし、目元にクマがあるヘイズンを見て僕は驚愕した。
「疲れた時にはいつも君を見たくなるんだ。でもそれをしたら、ヘイズンは余計に疲れてしまうよね。」
「はは、馬鹿らしい。この疲れはアイゼアじゃなくて大臣の事だよ。元老会って何であんなに疲れるんだろう。」
面白おかしく笑った。
「本来はカイリアスがするべき事だろう。何故君がやるのか分からない。」
「これも全てあの計画のためなんだ。我慢してよ。カイリアスが呑気に放浪していられないのも時間の問題だ。」
この瞬間のヘイズンは人間ではなく悪魔のように見える。
「そうかもね、….。」
「アイゼア、計画を練り、実行する事を躊躇わないで。1度決意した事だろう。逃げてはだめだよ。」
なにが彼の精神を揺さぶり、心が破綻してしまう程の憎悪をつくったのか。
永遠の疑問であり、永遠の恐怖になる。
「知っているよ。安心して。僕はヘイズンだけは裏切りたくない。」
「うん。俺もアイゼアだけが生き甲斐で、生きる意味だから裏切らない。俺らは二人で1つの存在だからね。」
暗黙のように手を繋ぎ、大聖堂から出ていく。
噴水に澄んだ水が1滴落ちて濁らせている。
それを見て僕らは1つとなる。
濁り、駆逐された関係は少しの破片ですぐに壊れてしまう。
彼は僕を失うのを恐れる小鹿だった。
「きっと5年後には悪態がバレて処刑される運命に過ぎないのに、何を焦っているんだか。こんな事は本当に意味があるの。」
言葉足らずで不器用に会話をする。
「宿敵を殺すにはこうするしか無いんだよ。俺は平民達から罵倒されて処刑しろと晒されても計画を遂行するつもり。」
「じゃあもう僕らは今日でお別れになってしまうかも。本当は嫌だったんだ。さっきはあんな事を言ってしまったけど。」
「….なんだそれ、じゃあ計画を練ってた過程も、俺と過ごした日々も全部偽りになるってことじゃないか。アイゼアは裏切ったんだな。」
憎悪の気持ちが強まり、ヘイズンは僕をカイリアスを見る目で睨んだ。
出会って数年経った今でも知り得ない程の彼の心の鏡を見てしまった。
全身が硬直し、足りない思考の中で最善の答えを見つける。
いや、見つけてしまいたい。
早くこの場から逃避して草原の中を彼がいない状態で掛け走りたい。
「違うよ。計画を練った過程も君と過ごした時間も全て僕の意思だよ。でも数多の時間を費やして考えたらこれは過ちではないかと疑問をもったんだ。君が好きで一緒に居たいのは本当だよ。あの時約束したでしょ。」
彼の様子を伺うと、先程の心が欠如した悪魔とは違う、心の一部分をもった青年へと変わっていた。
「そんなに俺が大事なら別れるなんて言わないで。お前はしなくていいから、お願いだから傍に居てよ。お前が居ないと俺は死んじゃう。」
か弱きヘイズンは僕の裾を引っ張り、そう呟いた。
これは僕への当てつけや縋っているようにしか見えなかった。
彼なりの警告であり、約束の価値が高ければ高い程、彼は僕を骨の髄まで愛してしまう。
二面性をもつ彼に僕はもう慣れや当然という感情をもって接していた。
「ごめん。もう離れないよ。」
呆れを少々感じながら発す。
「約束だよ。幼馴染なんだから死んでもずっと一緒にいよう。」
彼のくすむ瞳を前に同意することしか出来ずまた過ちを犯してしまう。
頭の中にある土台が崩れ落ち、それは粉々に壊れていく。
そして神殿内に1つの警報音が鳴り響いた。
『スランシュリア大国からの襲撃が発生。国民は直ちに避難を。』
第三之世界戦の序章が近づいてきている。
終幕が最低100年訪れないと神によって予言されたのが現実となった。
「アイゼア、今回こそ試される。俺達の計画が。今度こそ死ぬかもね。」
悲壮での真の計画を前に彼は屈しなかった。
彼らが迎えるのは成功か敗退か、彼らでも検討はつかない。
足跡が往く道を辿り、僕らは1つの場所へと到達した。
何ヶ月もの間、2人だけの世界がある場所。
写真のように見る景色は炎に包まれるのだと思うと哀調の悲しみを感じる。
「最後の部屋だから長く居座ってていいよ。ここは俺の所有所だけど、襲撃には強いはずだから。」
少しの笑みがより苦痛を味わせた。
「ありがとう、ヘイズン。君はもう行ってしまうの。」
「うん。緻密な計画を立てているからきっと成功するさ。行ってくるよ、アイゼア。」
「….うん。」
過ぎ去る背中と無くなっていく足跡は僕が彼から解放される架空の景色なのだ。
カイリアスを従わせる事や計画を立てた事は君だけれど、一緒に遂行すると決めたのは僕自身であるのに。
1つの景色が消えたこの空間を人肌恋しいと思ってしまうのは罪であり、悪なのだろうか。
それはまだ分からない。
第2章 裏切り者
「お戻りでしたか、ヘイズン様。アイゼア様はどちらへ?」
一人の護衛兵は焦りに焦っている。
「アイゼアなら自分の部屋に戻ったみたい。皆はどこへいるの?」
「大神官様や教皇様は護衛兵たちと防空壕へ、カイリアス様はスランシュリアの元へと向かっておられます。」
「そう、カイリアスにこちらを渡せととある人物から命じられてるんだ。代わりに他の護衛兵にでもいいから渡すように伝えておいてくれる?」
1つの小瓶を出す。
「分かりました。渡すよう伝えておきます。」
護衛兵がそれを受け取り、後ろを振り向く。
長い髪を靡かせながら管理棟の方へと向かっていく護衛兵を見届けて僕は大聖堂へと向かう。
護衛兵達を除き、誰1人として神殿に残らず皆防空壕へと行く浅はかな考えを持っている。
時には悪知恵を使い効率良く場所を確保する事が良い選択としてなることがあるはず。
人間よりも遥かに大きいドアを重力によって開け、神へと緩歩する。
「神よ、私を正しき道へと導いてください。アイゼア・スチュワードと共に。」
壁一面に飾られている聖母リラに向かって乞う。
「彼女は様々な苦念に蝕まれながらも苦闘を共にした戦友と共に神となる。とても当てはまる作り話ですね。ヘイズン様。」
後ろには一切の闘牙を見せず息を殺した一人の清教徒。
アトランティス教を否定し、信仰した者を裏側で痛めつけ、死に致らしめる者達の一人。
そしてアイゼアを神と称し、俺を神から疎外された可哀想な子と称している。
「何故入ってきた?お前は清教徒達と身を潜めるのではなかったのか。」
「あいにく私は清教徒達から近寄り難い存在なので。大聖堂は神殿の者ならば自由に出入りする事が出来る唯一の場所なのでここに留まろうと思ったのです。」
「それならば俺は出ていく。」
後ろを向いた時、突然手が震える。
指先を目視すれば、嫌悪する人間が掴んでいるではないか。
恐れの概念を知らず、そもそも存在しているのかすら分からないと思っている異端児が気色悪かったのが原因なのだ。
ただの未熟者に過ぎないこの者を殺してしまいたい。
世間知らずで、神の定義を知らないこのモノを。
「離せ、俺がお前を嫌っていることが見えないのか。それとも知らないフリをして誤魔化そうとしているのか。」
「1度、貴方のお手に触れたいと思っていたのです。私の唯一の神が愛しく愛している者はどんな優れ者であるかを知りたくてね。」
人は何かの限界の境界線を超える時、冷静な判断が無意識に出来なくなる。
それはどの人間でも変わらない事柄なのだ。
例え異端児に過ぎない人間でも同じ哺乳類である限り変わらないのだ。
同じ人間だと言い表せない程の狂気の限界で塗り固められたこの者だけは笞罪だけで済ませてはいけない。
「カイリアスの息子と接する時は無礼な行いをしてはならないと母親に教わらなかったのか?どこまでも子供なのだな、お前は。」
「カイリアス様の息子は貴方ではなく、アイゼア様です。自身を本当に息子だと勘違いなされていたのですか?過信されるのも程々にしておくのがよろしいかと。指導者の座を羨望するならね。」
俺のいた種を突き、軽んじる清教徒に怒りの沸点が抑えきれなかった。
大聖堂に何かを打つ音が鳴り響く。
瞳が揺れ出した時、ようやく怒りの沸点を抑え込めた。
軽蔑する清教徒の顔に赤く腫れ上がった痕跡があった。
「ごめん、抑えきれなかったみたい。あぁ、でもいいんだよ、俺は。だって指導者であり、帝国のトップであるカイリアスと正式に結ばれた親子だもん。許してくれるよね。」
口元を緩ませ、権力を誇示する。
俺とアイゼアだけが許される行為であり、それを逆らうとリラに殺される。
そんなことは素人や平民、奴隷でも伝わる事実である。
「…..申し訳ございません。私が悪態をついたせいですね。」
笑顔を取り繕いながらも口元が怒りにより緩み、口角だけが上がる。
「分かってくれるならいいんだよ。早く出ていかないと君も襲撃に巻き込まれて死ぬかもね。」
焦燥感に駆られた清教徒は何も言わずに俯きながら走って行く。
神は常に貴方を見ていると言うが、それは迷信なのだろう。
こうして悪は悪のまま苦痛を味わわずに済んでしまう。
開放された俺は神殿の庭園へ足を踏み入れると、そこには火花が1つ落ちた。
被爆を宣言するかのように落ちた火花を一瞬触ってしまった。
高い熱が保たれる火花を触れば、すぐに指先が赤く染まる。
「ヘイズン様、何をしておられるのですか!?火傷してしまいますのでおやめください!…..じきに神殿や大聖堂は襲撃で崩れます、なので防空壕へと向かってください。アイゼア様と一緒に。」
神殿の中にただ1人生き残る護衛が駆け走り、僕の方へと近寄ってくる。
その額には汗がたくさん放出されており、いかに彼が状況判断をしながら指示を伝えているのかが分かる。
息を切らしながら必死な思いで俺へと訴えかける。
「うん、アイゼアと一緒に逃げるよ。ところでさっき渡した小瓶はカイリアスまで行き届いた?」
「え、えぇ、。ですが…..ヘイズン様、カイリアス様はその時から呼吸困難に陥って死に至るかもしれないと医師から言われているそうです。その原因をヘイズン様がご存知かと思い、声を掛けました。」
まるで俺が犯人であり、主犯格であると言わんばかりに怪訝そうな表情で俺を疑う。
「小瓶を渡したのがリシュリー伯爵なんだ。リシュリー伯爵からカイリアスの治療薬だと聞いていたから渡したのだけれど。リシュリー伯爵にそれは聞いてくれる?」
「かしこまりました。他の護衛兵を収集しますのですぐに護衛兵と共に防空壕へ向かってください。」
最後の力を振り絞って小さく笑う護衛を無下にアイゼアの元へと向かう。
だがその瞬間、前にはミサイルで撃ったと思われる炎が辺り一面を覆う。
あいにく一酸化炭素を鼻に勢い良く吸い込んでしまい、息がこれまでの喘息よりも苦しくなる。
炎に足が浸かりながらもアイゼアがいる目的地まで渾身の力を込めて走る。
「アイゼア!!!」
音が炎により、こもり、鈍くなる。
レンガを何重にも立てて作られた隠れ家からアイゼアは顔を出す。
「ヘイズン!?1人にしててごめん、今助けに行くから。」
「来るな!お前が来たら余計に危険性が高くなる。…..お前に伝えたいことがあって来たんだよ。」
「えっ…..?」
「あの時言った、死んでもずっと一緒にいるは守れそうにないかもなんだ。別々に死ぬ運命なんだ、きっと。」
「僕は、ヘイズンがそう言ったとしても離れるつもりはないよ。ずっと離れたいと思っていたけれど、それは不可能に近いみたい。」
彼の思いをどこにも見い出せず捨てることも出来ない感情を出したような表情は俺の胸にナイフを突きつけているようだった。
「アイゼア…..やっぱり好きになって良かった。」
「死んでもずっと好きでいてよ、ヘイズン。僕もヘイズンを好きでいたいんだから。」
アイゼアは俺の胸へと飛び乗り、お互いを見つめ合う。
たくさんの苦念や信念を背負った彼と俺は幸せになることが出来るのかもしれない。
あの計画はきっと失敗に終わる。
例え遂行出来たとしても、それを遂行したと言えるか否か分からない。
永遠とあの人を厭い、目の前にいるアイゼアだけを好きでいれば俺だけの終幕を遂げれる。
いつもの日常を過ごすように手を繋ぎ、指を絡めて俺達は神殿の中を歩いていく。
もし、この時代ではなく、戦争が無い時代に生きていたら結末はどう変わっていただろう。
それはまだ俺達には分からない。
第3章 伝道者
時は大乱戦時代の序章。
財政が少しづつ傾き、元老会が政界を支配していた。
そんな不安定期に一人の幼き少年と本当の兄弟のように思いながら生活する少年がいた。
「ねぇ、ヘイズンがずっと前から考えてた夢?教えてよ!13歳になったら教えるって言ったでしょ?」
「うーん、お馬鹿なアイゼアには難しいかもな。でも教えてあげるよ。俺の夢。」
俺の本当の夢は、宿敵を殺し世界を崩壊させることでは無かった。
「俺の夢は世界で唯一の皇帝になって、世界が平和になることだよ。」
終
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はああああすきですだいすき 表現とか言葉、1文1文の内容の重みとかりのにしか表せないよね。 小説にあったら即買いたい。 この2人の組み合わせすき!!!