テラーノベル
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門を潜り抜けた僕らは、すぐさま河川敷へと降り立った——などと言うと優雅に聞こえるが、実際は旅客機の胴体着陸のようなものだ。
蒼梧は半ば墜落するようにして、河川敷へと突っ込んだ。
背中に乗った僕らは、悲鳴をあげながら砂利だらけの地面へと投げ出された。
オーマを小脇に抱えたまま、河川敷を転がる。
そこは、川幅の狭い場所だった。
パッと見たところ、学校のプール——二十五メートルより少し広いくらいか。
僕らの居る側の岸には、数台のバンが停まり(鳥居の前より数が増えていた)、幾つもの照明機材が周囲を照らしていた。
離れたところでは防護服を着た人々が、地面に並べられた、SFじみた機械類をいじっている。
「マイナスのエネルギー反応接近!〝夜〟です!」
「霊鎖フィールド展開!最大出力!」
矢継ぎ早に、何やら難しい用語が飛び交う。
川のほとりには、幸村さんと、狐面の二人組の姿もあった。
幸村さんが前方に立ち、二人組はそのすぐ後ろに並んでいる。
三人は光る渦の方を向いて、手で印を結びながら、ぶつぶつと何かを唱えていた。
「う……うう……!」
苦しげな呻き声に、僕は慌てて蒼梧を見た。
「蒼梧、大丈夫!?」
呼びかける僕の目の前で、蒼梧の体は急速に縮小し、あっという間に人間の姿へと戻った。
いや——正確には、人間のそれではない。
かといって、半竜族というわけでもない。
裸の体は、人間の皮膚と竜の鱗とが斑になっている。
頭の角も短い。
僕が呪符を貼り付ける直前の、中途半端に力が覚醒していた時の姿にそっくりだ。
蒼梧は再び意識を失ってしまったらしく、揺すっても反応を示さなかった。
一体、これはどういうことだ?
誰かに尋ねたいのはやまやまだったが、残念ながらそんな暇はなさそうだった。
渦の中から、黒い液状の怪物が飛び出したからだ。
怪物の表面は、沢山の赤い目玉で覆われていた。
魔女だ。
魔女はすぐに巨人の姿に変貌し、川に着水した。
水飛沫が派手に飛び散る。
魔女を追いかけ、背後の門から〝夜〟を纏った鴉の軍勢も姿を現した。
いくら高名な拝み屋だという幸村さんでも、こんな奴らが相手では分が悪い!
——そんな僕の焦りは、ありがたいことに杞憂で終わった。
川の水が盛り上がり、巨大な河童となったのだ。
体が透き通ってはいるが、かろうじてわかる。
頭の皿、嘴、甲羅——誰が何と言おうと、まごうことなき河童である。
脛のあたりまでが水に浸かっており、
顔をあげた巨人を、河童が思いっきり殴り飛ばす。
「水神め——アタシの邪魔をする気かい!?」
呆気に取られる僕達の前で、闇の巨人と水の巨大河童は、激しい殴り合いを開始した。
まるで、特撮番組のワンシーンだ。
「お前ら!援護しなあっ!」
魔女の命令に従い、鴉の群れが河童へと襲い掛かる。
しかし、援軍が居るのは魔女だけではなかった。
空から一斉に、光の筋が降り注いだ。
——白い鴉の群れだ。
黒い鴉と、同じくらいの数が居る。
〝夜〟を纏った鴉よりも一回り小さいものの、その機動力は段違いだ。
白い鴉の体当たりを受け、次々に〝夜〟が霧散していく。
こうなると、黒い軍勢はもはや文字通りの烏合の衆だ。
魔女の手下達は、ギャアギャアと叫びながら上空を逃げ回った。
魔女は焦っていた。
体が、異様に重い。
自分だけではない。
〝夜〟の力を得たはずの手下達も、白い鴉達にいいようにやられてしまっている。
(この空間——何重にも結界が張られていやがる——)
目には見えないものの、透明な膜のようなものが幾重にも重なって、ドーム状に周囲一帯を覆っている。
#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
それらの効果は、大規模な戦闘を民間人の目から隠すことであり、敵を結界の外に出さないことであり、味方の力を底上げすることであり——そして、〝夜〟の力を大幅に削ぐことだ。
(拝み屋の呪法に——何らかの科学技術——それに、この辺りの土地神の加護——多種多様な力が、総動員されてやがるんだ——)
殴りかかった腕を河童に掴まれ、巨人の体がぐるんと宙を舞った。
一本背負いだ。
再び、盛大な水飛沫が辺りに飛び散る。
「く——糞があ——!」
「放射!」
掛け声と共に、まるで火炎放射器のような装置を背負った防護服の人間数名が、手にした銃部を巨人へと向けた。
その先端からは火炎の代わりに、青白く発光するレーザーの様なものが発射された。
何本もの光の線が、起き上がった巨人の体を貫通する。
「ぎゃああああああああああああ!」
『効いているようですね。一安心です』
悶え苦しむ魔女の脳内に、女の声が直接響き渡った。
『どうにも嫌な予感がしたもので。現状考えうる最悪のケースを想定して迎え撃たせて頂きました』
「だ、誰だてめえ!?」
『子供達がここまで傷つき、命をかけて闘ったのです。たとえ相手が〝宵闇〟だとしても、我々大人が見て見ぬ振りはできません』
(この声——あの女か!?)
魔女は全身の瞳で、川岸に立っている着物姿の女を睨みつけた。
間違いない。
〝夜〟の力を押さえつけているのは、あの女だ。
サポートに徹している狐面の二人もかなりの素質を持った術士であるのを感じるが——あの女の実力は桁違いだ。
女は口では詠唱を続けながら、念話で魔女に語りかけてくる。
『とは言え——ここであなたの恨みを買うと、後々面倒くさそうです』
「わかってるんだったら——とっとと、そのおかしな術を——」
『と、いうわけで——』
魔女の言葉を遮り、女が続ける。
『——あなたをここで終わらせます』
氷のように冷たい宣言が頭に響き——次の瞬間、目には見えない力が、鎖のように巨人の体を縛り上げた。
「ぐ、ぐああっ!?」
土地神の加護で力を底上げしているとはいえ、一介の拝み屋風情が〝夜〟を纏った状態の彼女をここまで追い詰めることなど、普通は考えられないことだ。
しかし——それができる拝み屋を、魔女は知っていた。
『長らくこの世界には近寄らなかったようですが——喉元過ぎれば熱さを忘れる、というやつですか?数十年経った今なら、問題ないとでも思いましたか?』
かつて、怖いもの知らずだった自分を死の寸前まで追い詰めた存在。
刻みつけられた恐怖の記憶。
「て、てめえ——あいつの——幸村の血筋かあああああああああああああああああああ!?」
『祖父の無念、晴らさせて頂きます』
河童の拳が、頬を捉える——
僕は、ただただ圧倒されていた。
目の前で繰り広げられる、壮絶な死闘と——そして、幸村さんの全身から溢れる圧倒的なエネルギーに。
今ならわかる。
鳥居で僕や蒼梧を止めようとした時、幸村さんは手加減してくれていたに違いない。
僕らを傷つけないよう、細心の注意を払っていたのだ。
河童の拳が直撃し、巨人の顔面から何かが弾け飛んだ。
真っ黒なそれは、まるで殴られたボクサーの口からマウスピースが吹き飛ぶかのように宙を舞うと、僕らの居る河川敷へと落下した。
黒豹だ。
立方体の上で対峙した時に比べるとだいぶ小さい——おそらくは動物園などに居る普通の豹と同サイズだろう——が、その体内に魔女の魂が宿っていることを、僕は直感で感じ取っていた。
黒豹は、慌てたように水面に目をやった。
しかし逃亡を許すまいと、渦の周囲には白い鴉達が縦横無尽に飛び交っていた。
魔女の手下達はと言えば、この場から逃げ出そうと必死に羽ばたいているものの、目に見えないドームに遮られ、パニック状態に陥っている。
河童が、黒豹を捕まえようと手を伸ばす。
しかし——
グオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオオオォォォォォォオオオッ!
——唐突に、漆黒の巨人が天を仰ぎ咆哮した。
巨人は見えない鎖を引きちぎるような動きをしたかと思うと、蒼梧やナギとはまた異なる、翼の生えた、西洋のドラゴンのような形状へと変化した。
「魔女が〝夜〟の手綱を手放したぞ!」
近くで、誰かが叫ぶのが聞こえる。
「気を抜くな!ここからは本能のままに襲ってくる!」
主の制御下を離れた目玉だらけの黒いドラゴンが、牙を剥いて河童へと襲い掛かる。
怪獣バトルが激化する中——黒豹の血走った瞳が、僕の傍らの由宇を捉える。
地面に倒れこみ、荒く息をつくその体には、未だに生贄の印が刻まれていた。
——ぞくり。
背中に悪寒が走るのと同時に、黒豹が由宇めがけて走り出す。
この世界はまだ、門を通じて境の世界と繋がっている。
魔女は由宇を生贄に、再び〝夜〟から力を授かる気なのだ。
『いけない——由宇さんを守ってください!』
幸村さんの声が、脳内に木霊する。
きっと、その場にいる全員に呼びかけたのだろう。
武装した防護服姿の面々が、すかさず僕らの前へと躍り出た。
黒豹に銃部を向け、各々がレーザーを放出する。
しかし、当たらない。
黒豹はレーザーを巧みに避けながら、大きく吠えた。
衝撃波で、防護服の人達が吹き飛ばされる。
何とか上体を起こした由宇が、迎撃のため、黒豹へと右の掌を向ける。
しかし——由宇も既に、限界を迎えていた。
操り人形の糸が切れたように、再び地面へと倒れてしまう。
「く……そ……!」
由宇はうつ伏せの状態で顔だけを起こし、悔しそうに魔女を睨みつけた。
「できた——修さん!私の口に、手を!」
そう叫んだのは、腕の中のオーマだった。
「体は死んでますけど、『森』の入り口は開けられました!さあ早く!」
「う、うん——」
言われるままに、口に手を突っ込む。
指先が、硬いものに触れた。
考えるより先に、勢いよく引きずりだす。
それは先程オーマが飲み込んだ、魔女の箒だった。
「〝夜〟よ!贄の命と引き換えに、我に力をおっ!」
黒豹はそう叫ぶと、地面を蹴り、大きく跳躍して僕らへと——由宇へと飛び掛かった。
僕は蔓を箒から引きはがすと、
「由宇っ!」
と大声で名前を呼びながら、柄の部分を切っ先に見立て、槍投げのように黒豹へと投げつけた。
一瞬遅れて——由宇の渾身の叫びが、河原に響き渡る。
「——飛べっ!」
箒が白い光に包まれ、加速する。
「なっ——!?」
黒豹が、空中で驚愕に目を見開く。
光の矢は、黒豹の大きく開けた口の中へと放たれ——その喉を突き破った。
コメント
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みぅです🥀 第82話「総力戦」、一気に読んじゃいました…! もうね、河童vs魔女の怪獣バトルとか、白い鴉の援軍とか、見せ場が詰め込まれすぎてて息するの忘れたよ😳 特に幸村さんが「祖父の無念、晴らさせて頂きます」って言った瞬間、ゾクッときた…やっぱ只者じゃなかったんだね。 あと、オーマちゃんが飲み込んでた箒を由宇に投げさせるシーン、痺れたよ! 「飛べっ!」って叫ぶ由宇と、それに応える修くんの連携プレイ、アツすぎる🔥 阿炎さんの書くバトルシーン、毎回引き込まれる…今回も最高でした✨