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第63話
次の日。
いつもより早く起きるとアニカが僕に抱きついていた。
何が起こった?
夜は、眠くて、とりあえず持ち上げて布団をかけてから……ん? 同じベッドに運んだ?
まぁ、そうだけど、どんだけ疲れてたんだっけ……?
数刻後。
抜け出せずにすっかり朝日が昇っていた。
「姫様。僕は生きてますから離してください。姫様? 朝ですよ。離してもらわないと困ります。起きてくだ……」
「う〜ん……ん? だ、れ?」
そう言いながら目を瞑っている。
……強硬手段にでるか……それしかないし。
「アニカ。おはよう」
僕が少しふざけて言うとアニカが飛び起きた。
「ん? って、ロ、ロルフ! 今、何をって、私の事、名前で……」
「姫様が離れないからです。朝食をっ……」
そうだ。動けないんだった……
アニカはベッドの端に座った。
「……そのままでいいよ。後で、持ってくるから。そういえば、ロルフは何で今頃『姫様』呼びなの?」
「それは……その……また、同じ事が起きるかもって考えたら、気安く呼べなかったからです。だって、あの時は僕の事を想っての行動だったから、二度とそのような事を繰り返さないためにっ……」
そこまで言った所で僕は涙が溢れた。
怖かった。寂しかった。楽しみたかった。甘えたかった。沢山の感情が出てくる。
「ごめんね。気づけなくて……辛かったよね……これからはうんと頼ってね」
そう言ってアニカは僕の頭を撫でてから退室した。
今日の昼にここを立つ事になってたから、僕は馬に跨った。
あれから、リンゴのすり下ろししか食べてないけど、動けるようになった。
りんごって凄。
「ロルフ殿。ありがとうございました」
第一王子が僕の方へ来た。
「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」
「お体に気を付けて下さい。ロルフ殿は、将来的に注目される騎士です」
第一王子はそう言って微笑んだ。
それから、一週間後。
僕は普通に動けるようになったし、別に食欲も普通になった。昔みたいに沢山食べるってわけじゃないけど。
鍛錬にも復帰して、今度こそ、いつも通りに戻れた。
腕は、やっぱり落ちている。筋力も、体力も。
「無理するなよ」
「分かってますよ。二度とあの様なヘマは起こしませんから」
「あの様なって、ロルフには沢山あって分からないんだぞ。もう、全く……」
そう言って、団長がいつも通りにため息をついている。
「あ、渡し忘れてたけど、これお願いします」
そう言って、僕は報告書を渡した。
「ずいぶんと沢山だな。龍について、何か進展は?」
「すみません。まだ」
「全部、任せて申し訳ない。まさか、ナッサウとコルサーノか……」
「巻き沿いを食らったら、まずいですね……」
「あぁ、そうだな」
拍子もなく団長は僕の頭を撫でた。
え? 団長?
「ロルフは、護衛向きだな」
「何を言いたいんですか?」
「いや、何でもない。気にするな」
そう言って団長は食堂の方へ向かった。
✡
休暇を貰ってから十ヶ月。お兄ちゃんと再開してから年。起きてから一年。
私とティモと医者がいる部屋に男の子の産声が響き渡った。
この子の名前は『アドルフ』と二人で命名した。私のお母さんの一族は、男の名前が狼に由来してるから、この子もアドルフにした。
「良かった……無事に生まれたんだ……」
「ルディが、緊張してて、どうするの。ルディの家族に挨拶しないとね」
「それより、ソフィーの兄さんはどうするんだよ? 最近、会って無いみたいじゃないか」
「お兄ちゃんは……いつ会えるのかな……?」
私が首を傾げていると「聞いたことなかったけど、何の仕事をしてるんだ?」とティモが尋ねてきた。
「聖騎士の第一部隊」
私がサラッと言うとティモは固まってしまった。
「あ、あの、エリート中のエリートが集まる、聖騎士か……どう、顔を合わせれば……」
「お兄ちゃんはそういう人じゃないから大丈夫。いつも、無理して、直ぐ熱をだして、でも、お節介というか、人の目を気にしすぎてるような気もする。まぁ……直球に言うと不器用なんだよ」
私が「フフッ」と微笑むとティモも微笑んだ。
「ソフィーがそう言うなら、大丈夫か。この子も光って見えるのか?」
……光ってる。
私が無言で頷くとティモも「そうか」と言って空を見上げた。
「私の家系の所為で……でも、ちゃんと大人になるまで、支えてあげたい」
「俺も同感だ。ソフィー。その十五年間を埋め尽くせるように、俺も尽くす。ソフィーと同じような想いをさせないように、な」
私と同じような想いなんて、絶対に、させない。
私は力強く頷いた。
コメント
1件
わあ、第64話、読み終わりました…!今回もいろんな感情が溢れましたね。 まず朝のロルフとアニカのシーン、あの「アニカ。おはよう」って呼びかけるところ、すごく好きです。それまで距離を取ろうとしてたロルフが、ふと本音で名前を呼んでしまう瞬間の甘さと切なさがたまらなかった。涙を見せたあとのアニカの「うんと頼ってね」という言葉に、彼女の強さと優しさがぎゅっと詰まっていて、じんときました。 それと後半のソフィーとティモのシーン。赤ちゃんが生まれて、その子が「光って見える」と知りながらも「同じ想いをさせない」と誓う二人の覚悟が、静かに、でも力強く響いてきました。十五年の空白を埋めるように、これからも支え合っていくんだろうな…と想像すると、なんだか温かい気持ちになりました。 こはるさん、今回も素敵なエピソードをありがとうございます。この物語がどこへ向かうのか、続きがとても楽しみです🌷