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いい天気だ。
サボるのに絶好の陽気だな。
秋津蓮は、頼まれた急ぎの郵便物を会社の裏の郵便局に持っていったあと、土手に囲まれた駐車場で、階段に腰を下ろし、一息ついていた。
よく冷えた缶コーヒーとか飲みたいな、甘いの、と思いながら、しばし、ぼんやりとする。
あー、早く戻らなきゃな。
そう思いながらも、小さな郵便局の上を雲がゆったりと流れていくのを眺めていると、いきなり後ろに人の気配がした。
振り返ると、男が立っている。
煙草を吸っているようだ。
見たことはないが、この会社の社員だろうか。
やたら整った顔の若い男だ。
蓮も小さい方ではないが、男の方が随分大きい……
と思う。
座っているのでよくわからないが。
後ろに立っていた男はこちらをちら、と見下ろしたあとで、
「吸うか?」
と煙草を向けてきた。
いや、吸うわけないだろ、と思っていると、
「俺はいつも此処で一服するんだ。
最近、社内は何処も禁煙禁煙うるさいからな」
と言う。
「それで、なんで私に勧めるんです?」
「いや、そこに座ってたら、煙いだろうと思って」
じゃあ、他所に行けばいいではないかと思うのだが、この男、どうしても、此処で吸いたいらしい。
「一緒に吸ったら、煙いのもわからないだろ」
と男はよくわからない理屈を言ってくる。
まあ、確かに此処は、ぼんやりするのにベストポジションだ。
譲ってやるか、と立ち上がり、
「私、もう戻りますから、どうぞ」
と言ったのだが。
男は煙草を吸うのをやめ、こちらをマジマジと見ている。
「……なんですか?」
と問うと、
「お前、俺の子を産んでみるか?」
と言ってくる。
幻聴かな?
それとも、何処か違う場所から聞こえてきたのだろうか、今の声は、と思っていると、男は言った。
「ところで、貴様は誰だ?」
いや、訊く順番おかしいだろ、と思う。
お前こそ誰だ、と思いながらも、
「派遣社員様です」
と答えると、
「そうか。
最近来たんだな。
どうりで見たことないと思った」
と言う。
「まあ、見たことない奴の方が多いんだが。
お前みたいなのが居たら、すぐに目につくからな。
派遣社員なのか」
と確かめるように訊いてきた。
「はい。
会社の上司にビールかけて辞めたので、派遣社員に」
「それはなかなか豪気な女だな。
今、何処に居るんだ?」
「総務です」
と言うと、ふうん、と言う。
「名前は?」
「……秋津蓮です」
「男みたいな名前だな」
「蓮の花の咲く頃産まれたので」
失礼な奴だなーと思っていると、
「俺は渚だ」
と言ってくる。
なるほど。
この人も男だか女だかわかんない名前だな、と思った。
「じゃあな、蓮」
と煙草を消して、律儀に携帯灰皿に入れた渚が手を振る。
いきなり呼び捨てか、と思っていると、
「さっき言ったこと考えておけ」
と言う。
さっき言ったことってなんだ? と思いながら見送った。