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店長と別れたあと、私はどこか野宿できそうな公園を探そうと…するはずだった。
「なーんで、こんな場所にいるのかなぁ、私。」
バスタオルを身体に巻き付いた状態で独り言を呟くと、柔らかなベッドに身体を預ける。
期待を裏切らない、心地よさだ。そして、まだ乾き切っていない、湿った髪に温かい風を当てていく。
横目で周りを見渡すと、シンプルな冷蔵庫とテレビがあるだけの空間。
それでも、野宿より遥かにマシなその環境に、身を委ね、少し前の出来事に思いを巡らせるのだった。
それは、食事が終わって、店長にお礼を告げた時のこと。
行く宛もないことを思い出し、店長から送られることを拒んだのだ。
家に帰れない事情を話すのがめんどくさかったから、寄りたいところがあると。
適当に電車を拾って帰るから大丈夫だと。
しかし、あのお人好しな店長が心配しないはずがなかった。
「もう9時だよ?女の子一人で歩くのは危険だって…」
「大丈夫ですよ。援交で慣れてるのは店長も分かってるんじゃないですか?」
「そ、それは…」
「すぐ帰りますから平気ですってば。それでは…」
「…もしかして、家に帰れない事情でもあるのかな?」
「っ…。」
いきなり確信をつかれて心臓が大きく跳ねる。普段、鈍そうなのにどうしてこういう時は鋭いのだろう。
もう、誤魔化す理由を考えるのもめんどくさくなった。
「だったら、どうします?店長の家に泊めてくれるんですか?」
くすり、と笑いを溢すと店長は困ったように眉を下げた。
「い、いや…それは…」
(ほらね…心配するだけ。他人にできることなんて限られてる。)
「とにかく、適当に過ごすんでほおっておいてください。」
「あーっ…ちょっと待って!!一瞬待って…!!」
「…はい?」
眉間にシワが寄るのを感じる。私が立ち止まると、店長は慌てて携帯を操作した。
額に汗を浮かべ、慣れない指先で何やら検索している様子の店長。
時々、頭を抱え、悩んでいる表情も見えた。
そんな様子を黙って見つめている。
未だにガラケーなんだな、とかどうでもいいことに気づいたりもした。
どこが一瞬なんだろう。この時間に何の意味があるのか。とっとと立ち去ることもできたはずなのに…できなかった。
やがて、店長の顔がぱっと明るくなったかと思えばおもむろに電話をかける。
「あ、もしもし…えっと…俺…あ、いや私…」
ぎこちない口調で話しているが少し離れた場所に移動した為、聞こえなかった。
ますます理解不能な彼の行動に、小さくため息を漏らす。