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第五章 封じられた真実
第十話 幽閉塔事件記録
地下禁書庫には、重苦しい静寂が落ちていた。
シュンタは少し顔色が悪い。
それでも、真紅の瞳は古い記録書から逸れなかった
ハヤトが静かに問う。
「……読めるか」
シュンタは頷く。
「たぶん……」
「残留思念みたいなもんや」
クラウスが不安そうに息を呑む。
「残留思念……?」
「強い感情とか魔力って、
場所や物に残ることあるねん」
シュンタは、本の表紙へそっと触れた。
「これは……怖かった人達の感情や」
静かにページを開く。
古びた紙。
滲んだ文字。
だが、記録は異様なほど詳細だった。
『幽閉塔事件記録』
『◯月◯日 満月の夜』
『二十三時頃より異変発生』
『北幽閉塔外扉警備兵より、
『高濃度瘴気発生の報告』
『同時に、塔内部より無数の影を確認』
『警鐘発令』
『兵及び魔導師、計三十七名出動』
ジュウタロウの目が細まる。
さらに読み進める。
『対象、幽閉室及び外扉を破壊』
『塔内部より出現』
『対象の身体、著しく崩壊』
『全身より触手状影発生を確認』
ハヤトの喉が、小さく鳴る。
脳裏へ浮かぶ、黒い少女。
その姿が、崩れていく光景。
記録は続く。
『対象及び放出された影、
『上空へ移動を試みる』
『しかし、幽閉塔周辺結界により阻害』
『対象、著しく抵抗反応を示す』
『触手状影による攻撃開始』
『兵士側は、対象による攻撃行動と判断』
『放出影も同様に、上昇を繰り返す』『阻害時、周辺兵士へ襲撃行動』
空気が静まり返る。
シュンタの指先が、僅かに震えた。
さらにページを捲る。
『対象、理性喪失状態』
『人語反応なし』
『影放出継続』
『周辺被害拡大』
『皇子率いる精鋭五名、現場到着』
『討伐開始』
ページの端。
そこには、当時の魔導師による走り書きが残されていた。
『攻撃性というより、
何かへ向かおうとしているように見える』
そこで、シュンタが小さく息を呑んだ。
真紅の瞳が、その一文へ釘付けになる。
「あ……」
ハヤトが見る。
シュンタはぽつりと呟いた。
「どこかへ向かおうとしてたんやろか……」
静寂。
クラウスが不安そうに顔を上げる。
シュンタは、ゆっくりページへ触れる。
「これ……逃げようとしてたんかも」
「それとも……」
少し考える。
「何かを探してたのかもしれん」
ジュウタロウの銀の瞳が揺れる。
ハヤトも息を止める。
シュンタは続けた。
「せやけど、結界で止められた」
「行きたい場所へ行けなくて、
苦しくて……」
「結果的に、周りを傷つける形になったんちゃうか」
その言葉に、地下禁書庫の空気が、さらに重く感じられた。
もし。
もし本当に、月蝕の子が、最初から人を襲うために現れたのではなかったなら。
三百年前のあの夜は
“闇の襲撃”ではなく。
行き場を失った存在が、崩壊していった夜だったのかもしれない。
ジュウタロウは、静かに記録を見つめる。
『対象、結界阻害により崩壊加速』
その一文が、やけに胸へ残った。
まるで、本来なら、起きるはずのなかった悲劇のように。
だが三百年前の人々には、その意味を知る術など何もなかった。
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コメント
1件
うわ……この話、すごく重かったです。特に「逃げようとしてたのかも」「何かを探してたのかも」ってシュンタが言ったところ、胸がぎゅっとなりました。三百年前の“闇の襲撃”が、実は行き場を失った存在の崩壊だったかもしれないって視点、すごく切ないですね。結界に阻まれて崩れていく様子が、ただの怪物じゃなかったんだなって思わせてくる……。comiさんのこういう、視点を変える描き方、本当に好きです。