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ーチュン チュンチュンー「…」
小鳥の声で僕は目覚めた。いつの間にか朝になっていたみたいだ。ここは僕の寝室。殺し屋の中でも最年少の僕は健康のためと、寝るためだけの寝室をカフェの隣の部屋に作ってくれたのだ。起き上がると眩しい日差しが目をチカチカとさせる。僕はツバルさんが作ってくれた珈琲を一杯飲んで、カフェの玄関へ行った。
「いってらっしゃーい」
「はい」
僕は一礼したあと外に出た。ツバルさんは気を使ってくれているのか、毎日必ず僕に挨拶をしてくれる。ツバルさんと友達以外の人達とは多分挨拶を交わしたことはないだろう。僕は学校までの道を歩いた。カフェがあった人気のない場所から段々と散歩する人や登校する生徒が見える少しにぎやかな場所になっていった。
「輝おは〜!」
いきなり後ろから肩を組んできた奴は優斗だな。
「優斗おはよ。」
僕と優斗は横並びになって雑談しながら歩いた。
「そういえば輝、またラブレター届いたんだって?」
「あー、まあうん。」
「結果は言われなくても分かるけどやっばお前はモテるなー」
「いや優斗だってつい最近直接告白されてたじゃん。」
「まあなー。」
言うのを忘れていたが、こう見えて僕はモテているらしい。殺し屋なことは知らずに。毎日のように告白やラブレター、携帯のメッセージでの告白がくる。でもこれは優斗も同じで、僕たちはイケメンコンビと言われている。お互い自覚はないが、気にしていない。僕は恋愛とか興味ないけど、優斗は彼女がほしいみたいだ。
「おはようございまーす」
「…ペコリ」
話している間に正門まで来ていた。ここからが始まり。
「うわ、またいるよ。」
昇降口までの道を歩いていると、その昇降口で誰かを待っているような女子の後輩がたくさんいた。どうやら僕達のファン?らしい。これがいつもの昇降口だ。
僕は全無視して昇降口に入り、優斗は苦笑いで手を振りながら昇降口に入った。
「お前も少しはファンサービスして上げたらどうだー?」
「めんどくさい。」
「そんなこと言ってたら女子友達できないぞー?」
…女子友達か。僕は優斗がポロッと言った言葉に少し引っかかりを得ながら教室までの廊下を歩いた。
「輝くんおはよぉ〜」
「…ペコリ」
この女の子は僕の隣の席の軽井沢(かるいざわ)さんだ。いつもふわふわしていて、男子にすごく人気があるらしい。僕には分からないが、良い人だし嫌いではない。
朝のホームルームがおわったあとは体育だ。あさイチから体育だなんて馬鹿げてる。女子は更衣室に移動し、男子は教室で着替えた。隣で着替えている優斗が言った。
「お前ほんとに腹筋すげえよな。身体までイケメンかよ。」
「別に筋トレとかしてるわけではない。イケメンでもない。」
そりゃあ毎日稽古してもらってるしなと思ったが、もちろん口には出さない。僕は着替えたあと、優斗と一緒にグラウンドへ向かった。挨拶をし、準備体操、先生の話に今日のメイン。今日は走り高跳びをやるみたいだ。背面跳びという技のみ。棒を背中を正面に飛ぶだけだ。あまり難しいことではない。説明が終わり、今日は時間がないということでぶつけ本番でミスしたら脱落式の背面跳び練習が始まった。何回かやったことがあるから、最初はみんなすいすいクリアしていた。
「輝余裕そうな顔してんなぁ。」
「優斗もまだ汗一つ書いてないじゃん。」
高さが上がる度に数人が脱落していく。それを繰り返していると、いつの間にか残り二人。僕と優斗だけとなった。
「つ、次が190…。」
先生がぽかーんとしか顔で言った。まずは優斗、僕たちの身長をとっくにこえているバー。少し緊張しているように見えた。
ーガシャーン!ー
バーが思いっきり倒れた。優斗が脱落した。残るは、僕一人。僕はバーから離れたところまで歩き、全力ダッシュした。
「くそっ!でも流石の輝でも…」
優斗がそういった瞬間、僕はおしりがつくほど深く座り込み、ジャンプした。きれいな輪を作った僕の背。僕はマットよりも一メートルほど離れた場所で音もなく着地した。飛べた。
『はぁぁぁ?!』
みんなの驚きの声。
「うるさい。」
今まで五センチ刻みだったバーが、時間も時間であるため、二メートルまであがった。流石に、高い。
「輝くん。この高さはまだこの学校の生徒誰一人として飛べてない高さだ。無理はしないでおくれよ。」
「はい。分かってます。流石の僕でもこれは無理かと。」
そう言いながら僕は腕まくりをし、二メートルほど離れた場所まで歩いた。そして全力ダッシュ。深く座り込み、思いっきりジャンプ。まずはなるべく横に直線。頭がバーを出たら腰をそる。僕は足元を見た。バーにあたる。残り数ミリのところで足を上に伸ばし回避。あとは真下に降りるだけ。一気に降りずに空中アクロバットを二回。そして音のない着地。
『うそでしょおおおおおおお?!?!?!』
「あ、飛べた。」
丁度チャイムがなった。みんなはこれが現実とは思っていないらしく、ぽかーんとした顔で片付けをしていた。なんか、申し訳ない。
ー放課後ー
「やっとおわりだー!って今日部活あるじゃん。だるー。着替えて行こうぜ輝。」
「うん。」
僕は優斗と同じ部活動に所属している。バスケ部だ。三年生は引退。新体制となって、なぜか僕がキャプテンとなり部を動かしている。副キャプテンはもちろん優斗だ。僕と優斗は着替えたあと、小走りで体育館へ向かった。殺し屋の僕は本当は部活なんかやってる暇はないが、青春くらい味わいたい。最初は帰宅部として部活に入っていなかったのだが、バスケ部の顧問に誘われ、遊び半分でバスケ部に入っていた。今では少し真剣に取り組んでいると思っている。
「こんにちはー!」
「こんにちは…」
『こんにちはっ!』
僕と優斗が体育館へ入ると、みんなが挨拶をしてくれる。
「集合」
僕は大きな声を出すのが苦手だ。だからオーラでほとんどは伝えている。言葉にするのは難しいが、その気配でみんなが察してくれる。
「この前の新体制で行った大会。東日本突破で次は全国です。今日は筋トレといつものグループ分け練習。お願いします」
『お願いします!!』
僕たちの学校は全国でもトップクラス。全国大会は常連だ。二週間後に控えている全国大会に向けて今必死に練習している。今日は監督不在のため、僕がすべてを管理することになっている。そのため、みんなの練習姿をここで見ていなければならない。ちなみに、隣のコートを使っている女子バスケ部も全国常連。僕は無意識に近くに転がっていたボールを取った。そして、今僕がいるゴール真下から反対側のゴールめがけて投げてみた。このシュートは僕の場合八十%ほどの確率できまる。リスクが高すぎるため、本番では使っていない。最近練習でも入らないので投げてみたのだ。きれいな輪を作るボール。
ーシュポッー
「入った。」
『うおおおお!』
『きゃあああ!』
後輩と同級生たちの歓声、隣の女バスの悲鳴。一応このゴールは世界レベルの大人バスケットボール選手でも難しいシュート技らしい。みんな少しの間僕を見たあと、普通に練習を再開した。また体育館が騒がしくなった時、後ろから声がした。
「素晴らしいではないか。」
後ろを振り向くと、そこには白髪のおじさんがいた。いや、ボスだ。
「ついさっき、君達の学校の裏庭で花が咲いたんだ。見てみてくれ。」
「…了解です。」
僕は優斗に少し離れると伝えた後、先生用更衣室の中と周りに誰もいないことを確認し、中で殺し屋の服に着替えた。身バレされないように仮面もつける。さっきのはボスからの命令だ。花が咲いたというのは人が殺されたということ。大事になったらまずい。僕は更衣室から出て、裏庭へ向かった。幸い、教師たちは職員会議で誰もいない。
「…!?」
裏庭に出ると、そこには想像以上に残酷な死体があった。両腕、両足が切断されている。こんなの大きな斧かそれ以上のものでないとできないはずだ。辺りを見回すと、カサッっと茂みが揺れる音がした。
「…」
僕は無言で拳銃を向けた。茂みに隠れている誰かは怯えた様にして出てきた。
「ぼ、僕です…」
最近僕たちの殺し屋入ってきた子だ。確か昨日か一昨日あたりだった気がする。昨日の夜、やっぱり殺せないとボスに向かって言っていた。情けない奴だなと思ったが、やればできる。僕は仮面をとってにやりと笑った。
「あはは…なぁんだ。やっぱ殺せるじゃん。」
「…!」
新人の子はすごくびっくりした顔をしていた。というか、なにかに反応していた、ように見えた。
「りつきくんご苦労さま。」
すると、後ろからボスが歩いてきた。僕は首だけを後ろに向けて、笑いながら言った。
「なんで呼んだ?」
ボスはさっきよりもいっそう嬉しそうな笑みを浮べて言った。
「君を見たかったからだよ”ウラン”。」
「ふーん。」
僕は興味なさそうに返事をしたあと新人、りつきに笑い返して跳躍した。屋上についた時にはもうすでに”ウラン”はいなくなっていた。
ー裏庭ー
「あ、あの今の方は時期ボスとされているウランさんですよね、?あんな人ではなかったような…」
ナイコは屋上にいる”輝”を見たあと、
「あれが”無花沙ウラン”だよ。」
と呟くように言った。
あれ、なんで僕屋上に…。ってああそうか、ウランがいたのか。僕の殺し屋のニックネームは無花沙ウラン。普段は殺しをするときも学校のときも輝だ。でもたまに、殺しをしているときだけ“ウラン”が出てくることがある。二重人格のようなものだろう。僕の場合結構重くて、ウランの時の記憶はほとんどない。数年前にそれで暴走したことだってある。ウランは少し危険なのだ。僕は部活に戻らないといけないからまた更衣室で着替え、体育館へ向かった。もうみんな片付けをしていた。どうやら優斗が仕切ってくれていたみたいだ。その後僕たちは今日の反省などを言い、挨拶をして解散した。