テラーノベル
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試合が再開されても、ピッチの空気は冷え切ったままだった。
チームZの連中は浮き足立っている。
「おい、今の動き見たかよ……!」「世一のやつ、一瞬で抜き去られたぞ……」
ヒソヒソと交わされる焦燥混じりの会話。
世一は、センターサークルでボールをセットしながら、じっと自分の足元を見つめていた。
拳が強く握りしめられ、微かに震えている。
(――効いてるな)
俺はポニーテールを軽く揺らし、あくびを噛み殺しながら自陣へと戻った。
世一の弱点は知っている。
あいつは「理解できない才能」にぶつかった時、一度自分の頭の中で思考を過加熱(オーバーヒート)させる癖がある。
自分の空間認識が通用しなかった原因を必死に分析しようとして、脳のキャパシティを勝手に使い果たすのだ。
「おいおい京介! 今の、一人で完結させちゃったよ! 俺のパスいらないじゃん!」
玲王が呆れたように笑いながら寄ってくる。
「あいつら、お前の『死角潜行』に完全にビビってるぞ。このまま一気に畳みかけるか?」
「……勝手にして。俺、もう走るの嫌だし」
「嘘つけ、さっき一番楽しそうに笑ってたろ」
玲王の軽口を無視して、俺は世一に視線を戻した。
ピーーッ!
チームZのキックオフ。
蜂楽とかいう黄色い髪の奴から世一へ、そして国神というオレンジ髪の奴へボールが渡る。
チームZは焦りを打ち消すように、愚直なパスワークで前線を押し上げてきた。
「上げろ上げろ! 1点返せば流れは変わる!」
「世一! 前で張っとけ!」
熱苦しい。実に熱苦しい。
世一は必死にマークを外そうと、俺の死角へと走り込もうとしていた。
俺のマネをして、俺の「死角」を使おうとしている。
(……浅いんだよ、思考が)
俺は走らない。
世一の動きを追うことすらしない。
ただ、ピッチ全体の「音」と「空気のズレ」だけで、世一が次に着地するポイントを割り出す。
(ここだ)
タッ、と一歩だけ右へ足を出した。
「――え」
前線でボールを呼び込もうと振り返った世一の視界に、ぬるりと俺の顔が躍り出る。
走って追いかけたわけじゃない。
世一が「誰もいないはずだ」と確信して飛び込んできたその場所に、俺が最初から立っていただけだ。
「なっ……なんでお前がそこに……!?」
「お前がそこに来たがってたから。……お前の考えることなんて、全部透けて見えるんだよ」
ポン、と差し出された国神からのパスを、俺は右足のつま先で軽く掠め取るように奪い去った。
「インターセプト……!? 潔の兄貴、いつの間にあそこに――!」
「バカな、全く走ってなかったぞ!?」
チームZのベンチから悲鳴のような声が上がる。
世一の顔から、急速に血の気が引いていく。
自分の得意な「空間認識」を使えば使うほど、俺という檻(おり)の中に自分から飛び込んでくることになる絶望。
「あー……奪ったはいいけど、蹴るのめんどくさ」
俺は奪ったボールをそのまま、自陣から相手ゴールへ向かって前線へだるそうにポンと放り投げた。
「凪。適当に取って」
「はーい。京介のパス、相変わらず優しいね」
遥か頭上を越えていくロングボール。
チームZのDF陣が追いつく前に、白い髪の化け物――凪誠士郎が、磁石のように吸い付くトラップでボールを収める。
そして、そのまま冷酷なボレーシュート。
バサァッ!!!
【チームV 2 - 0 チームZ】
試合開始から、わずか3分。
スコアボードの数字が、刻一刻とチームZの死を告げていた。
膝から崩れ落ちる世一。
その肩は激しく上下し、瞳からは光が完全に消え失せていた。
「どうしたの、世一」
俺はゆっくりと歩み寄り、ひざまずく弟を見下ろした。
汗で濡れたポニーテールが、冷たい風にそよいでいる。
「お前の自慢の『未来予知』で、この結果は見えてた? ……見えてないよね。お前の世界には、最初から俺という『死角』が存在しないんだから」
世一の口唇が、震えながら動く。
「……きょう、すけ……」
「静かにしなよ。惨めだろ」
俺は背を向け、自陣へ戻りながらボソリと呟いた。
「さっさと諦めて、家帰ろうぜ。お前の好きなハンバーグ、母さんに作ってもらえばいいじゃん」
冷たい言葉を投げつけながら、俺は胸の奥で歪んだ充足感を覚えていた。
そう、これでいい。
世一は俺の影で、ずっと大人しくしていればいいんだ。
……だが、この時の俺はまだ気づいていなかった。
完全に折れたはずの世一の瞳の奥で、小さく、だが狂暴な「青い火花」が散り始めていたことに。
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コメント
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おおっ、第5話めっちゃ熱かったわ!🔥 京介の「走らないで読む」感じ、能力の理屈がしっかりしてて刺さる。世一が得意の空間認識で追い詰められていく絶望感と、最後の青い火花の伏線がたまらん。弟の成長フラグだけど、まだまだ兄貴の“死角”が深そうで続きが気になる!