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現実世界――
目を覚ました“ないこ”は、ゆっくりと身体を起こした。
その部屋は、以前と変わらないようでいて、どこか違っていた。
カーテンが揺れている。
机の上には、一通の封筒と壊れたスマホ。
それは、“ないこ”が深層に沈む直前のままだ。
ないこ(心の声): ……戻って、きたんだよね……。
でも、喉に力が入らない。
声が、出ない。
ないこ: (……喋れない……まだ)
深層の影響が、完全には抜けきっていなかった。
それでも、“ないこ”は立ち上がった。
部屋の片隅。ギターが、静かに立てかけられている。
ないこ(心の声): 声が出なくても……音なら、まだ。
ギターをそっと抱える。
指先で弦を弾くと、ひどくぎこちない音が鳴った。
ないこ(眉を寄せて): ……忘れてた。どれだけ、弾いてなかったか……。
けれど――その音は、確かに“今ここにいる自分”の証だった。
*
同時刻、いれいすのグループチャット。
初兎: 「最近、また夢見るんだよね。ないこの声」
いふ: 「オレも……昨日の配信中、急に思い出してた」
悠佑: 「何もしてないのに、音が残る。あいつの声、まだ消えてないんだなって」
りうら: 「会いたい、って言ったら、また逃げると思う?」
いむ: 「……いい加減、逃げさせないほうがいいでしょ。次に見つけたら、引きずってでも連れ戻すから」
その会話を、“ないこ”は読んでいた。
画面の向こう、届かない距離で、みんなが確かに自分を見ている。
ないこ(心の声): 嬉しいのに……声に、できない。
言いたいことが、喉で全部止まってる……
ふと、鏡を見る。
その中で、歪んだ何かが動いた。
*
深層――
否、“鏡の裏側”。
闇ないこは、激しく呼吸しながら自らの頭を抱えていた。
闇ないこ: ……うるさい……うるさい……!
“ないこ”が戻ってきた? 笑わせるなよ……!
鏡に手を叩きつけると、その奥で“いれいすメンバー”の姿が揺らいだ。
闇ないこ: ……こっちに来るな。
あいつらが近づけば近づくほど、オレは……崩れていく……!
だが――彼の目の奥に、微かな“涙”が滲んでいた。
闇ないこ: なんで……オレのくせに、泣いてんだよ……
闇ないこは、ゆっくりと立ち上がる。
闇ないこ: ……消えるくらいなら、全部、壊してやる。
その手が、鏡の奥の“いれいすメンバー”に向かって伸びていく。
*
現実世界――
ないこの部屋の鏡が、微かに“ヒビ”を入れた。
ないこ(心の声): いや……やめて……
声にならない叫びが、胸の奥からあふれていた。
次回:「第十八話:声が、出ないまま叫んだ」へ続く