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現実世界――
ないこは鏡の前に立ち尽くしていた。
まだ震える指先で、鏡のひび割れをなぞる。
そこから、闇の気配がじわりと滲み出している気がしてならなかった。
ないこ(心の声):
「声が出ないまま……叫んだら、どうなるんだろう……」
思わず、喉の奥から絞り出そうとした声は、掠れて消えた。
それでもないこは、ギターを抱えたまま震えながらも、部屋の扉に手を伸ばす。
――外の声が聞こえた。
それは、いれいすのグループチャットで交わされたあの優しい言葉たち。
「戻ってこい」ではなく、「待っている」と言ってくれる声。
ないこは涙で視界が滲み、唇を震わせた。
「ありがとう」と言いたいのに、それはまだ言葉にならない。
*
深層――鏡の裏側。
闇ないこは、揺れる鏡越しのメンバーたちの姿をじっと見つめていた。
彼らの優しさが、心の奥底に刺さり、痛みを伴って震えている。
闇ないこ(吐息混じりに):
「……俺は、声を奪われた。自分の叫びも、救いも、全部押し込められたんだ」
彼の目から、止めどなく涙が溢れた。
それは自分でも気づかなかった、深い孤独の涙だった。
だがその時、闇ないこの背後から、かすかな光が差し込んだ。
鏡の奥の世界に、小さな亀裂が生まれていた。
闇ないこ(驚いて):
「……?」
そこに浮かび上がったのは、ないこの姿。
無言のまま、闇ないこに向かって手を差し伸べている。
闇ないこは戸惑いながらも、その手をゆっくりと取った。
*
現実世界――
ないこは鏡のひび割れが、ひとつの繋がりに変わるのを感じた。
まるで自分の中に眠っていた何かが、呼び覚まされていくようだった。
そして――ようやく、喉の奥からかすかな声が漏れた。
ないこ(震えながら):
「……帰るよ」
声はまだ弱く、途切れ途切れだった。
でも、その小さな一歩が、彼女にとっての大きな希望だった。
――次こそは、きっと、声にできる。
*
いれいすのグループチャット画面。
りうらのメッセージが光る。
りうら: 「待ってる。ずっと。」
画面の向こう、メンバーたちの想いが繋がり、ないこの声はまたひとつ、世界に響き始めた。
次回:「第十九話:声が出ないまま叫んだ、その先」へ続く