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その数時間前の17:00頃
練馬駐屯地に駐在する機甲科部隊・第1偵察小隊46名のうち30名の隊員は、本部の命令『立川へ戻れ』を無視して、湾岸エリアへと車を走らせていた。
東京ジェノサイドでは、練馬駐屯地の自衛官の多くも行方不明となり、偵察小隊といっても静岡、宮城、山梨方面隊から召集された寄せ集めでしかなく、 隊長を任された雪丸亜久里2等陸佐は、心もとない表情を隠すので精一杯だった。
亜久里は、幣原喜三郎を師と仰ぐ人物で、新国家日本新党の理念に賛同する人物であった。
他の自衛官らも、幣原の考えに同調はしていたが、流行りに乗っただけの者も少なからずいた。
所謂、クーデターに参加した30名は、先日市ヶ谷で行われた新国家日本新党の演説の聴衆でもあり、中には途中で合流した空自や、海自の現役隊員らも含まれていた。
総勢70名に膨れ上がった部隊は、一路湾岸エリアへと向かっていた。
夕闇迫る空に舞う死のオーロラ。
その光は、海面に反射して虹色に輝いていた。
台場に聳えるさくらテレビ局を目的地に進む車列。
十数台の偵察用バイクが先導し、その後を89式5、56mm小銃を備え付けた5台の軽装甲機動車が進む。
後列の3台の73式大型トラックには隊員が乗り込み、合流した警察官や活動家、それに新国家日本新党の親衛隊も同じキャビンに乗り合わせていた。
最後尾を走る赤の軽自動車には、安座間と朝倉ケイが乗っていた。
監視業務を行う傍、安座間にはもうひとつの任務があった。
内通者、栗原ケイを粛清せよ。
それは、東京国総監からの指令であった。
SNSに組織の集会の様子を載せてしまっただけで殺されてしまう。
そんなケイの身を哀れにも思えたが、別段興味もなく、無論同情もしなかった。
ただ最後くらいは、いい思いをさせてから死んでもらおう。
それだけの事である。
そんな事情も知らずに、助手席のケイは目を輝かせながら前方の車列を眺めていた。
50代の女というよりも、その瞳は少女に近かった。
安座間は気付かれないように鼻で笑った。
「大いに喜べ。あなたはもうじき死ぬんだから」
何故だか、安座間の胸は高鳴っていた。
その時、外の防災無線から国民保護サイレンがけたたましく鳴り響いた。
アナウンスの声が聞こえる。
「ー大規模テロ、ゲリラ攻撃情報。大規模テロ、ゲリラ攻撃情報。当地域に、大規模テロ、ゲリラ攻撃の恐れがあります。住民は、直ちに避難してください」
車窓から見える東京湾の水面は虹色に揺れ、山吹色の空には死のオーロラがなびいている。
安座間はケイに言った。
「ちょっと寄り道しましょっか」